空耳 soramimi

あの日どんな日 日記風時間旅行で misako

「九月が永遠に続けば」 沼田まほかる 新潮社

2015-05-27 | 読書


読んで気分のいいものではない、気が滅入るような出来事が続く。子供の失踪、浮気相手の事故死、別れた夫の娘の自殺未遂、個々の出来事は探せばいくらでもあるだろうけれど、こう不幸な出来事が重なるというのも珍しい。
前に一度読もうと手に取ったが置いてあった、「ユリゴコロ」の不思議な雰囲気に惹かれて読み直すことにした。
気持ちが沈んでない時に読んだので何とか読みきることが出来た。



佐和子は離婚してから8年、一人息子と二人暮らしだった。夫からは時々気にかけているような電話が来る。失効していた運転免許を取り直すために教習所に行ったが、そこでであった教官は、夫が電話で話していた、娘の冬子が付き合っているという犀田だった。
そのうち彼とラブホテルに行く仲になる。

息子の文彦は高校三年生で、近所の同級生のナズナと親しくしていた。ナズナの家は父親だけで、喫茶店を開いていた。文彦と二人で時間があると手伝ったりしていた。
寒い夜、文彦がごみを捨てに行ったままふっといなくなった。寒い夜にサンダル履きのままいなくなってしまった。
不安が増して落ち着かない日々が過ぎていった。別れた夫にも電話で知らせるが何日経っても行方が知れなかった。

突然犀田がホームから落ちて轢死した。冬子と大声で言い争っていたが、誰かに押されたように落ちたという。
目撃者もはっきりしないので冬子が何度も呼び出されて事情を聴取されるが、事故として処理された。

夫は再婚していた、娘の冬子は下校時間に文彦の学校に来て、二人でしばしば逢っていたという。文彦は冬子が連れ子で血がつながっていないことを知っていたが、冬子は異父兄妹だと思っていたらしい。犀田に付きまわれた冬子を助けるために冬彦がやったのではないだろうか。

前夫・雄一郎は精神病院の院長だった、佐和子は勤めていて知り合い結婚したが、雄一郎は患者だった亜佐美と再婚した。亜佐美は少女の頃から何度もレイプされ精神が崩壊していた。初めて患者で入院したとき佐和子もその場にいて、目を覆うような亜佐美の異様な姿を目撃していた。だが夫は優しく治療を続け、ついに亜佐美にとらわれたように結婚した。
連れ子の冬子もそうだったが、親子ともにオーラが射すような蠱惑的な美しさを備えていた。雄一郎もその美貌に惹かたのだろうか。

亜沙子は結婚後徐々に回復しているように見えた。妊娠もしたと言う。冬子の話で、雄一郎と亜佐美の異様な結婚生活の様子が暴かれる。どこか常に精神状態の危うい亜佐美と、雄一郎の生活は破綻して、亜佐美が兄の家に帰ることも多くなり、不在の日も長期化していたという。

文彦はどこにもいない、消えてしまった。亜佐美も兄のところに行ってしまった。
冬子が睡眠薬をに飲んで危篤状態になった、雄一郎は自分の病院を避けて近くに入院させた。

佐和子は心労で衰弱してきた、ナズナの父が無神経に入り込んで世話を焼きだす。



読者はこんな中に放り込まれるが、読むうちにそれぞれの運命から目を離すことが出来なくなる、闇の暗さが増してくるような物語に引き込まれる。
暗い中ので々は異形にも見えるくらい美しく恐ろしい。そして生きている。

結末は不幸のなかからも、薄い光が射すようだった。

震えるような、恐ろしさと暗さから目を離なすことが出来なくなる、不幸までも心ならずも共有させられる、謎が謎を積み重ねて文章を追いかけていく、沼田さんの力の入った作品だった。
やはりこれもミステリだとしたら飛びきりのイヤミスだった。
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「ユリゴコロ」 沼田まほかる 双葉社

2015-05-27 | 読書

話題になった「ユリゴコロ」は題名が意味不明なのがかえって面白そうに思った。前に「九月が永遠に続けば」を読み始めて、これは合わないと思って止めた。本欠乏時代は活字なら何でも読んで、きちんと最後まで読むと何かしら面白いところが見つかった。それが今では、部屋に本が溢れて山崩れがおきそうな有様になっている。読みたい本が多すぎるので、よく味わいもしないで止めるのに心が痛まなくなった。
この「ユリゴコロ」はとても面白かった。それでもう一度読んでみようと「九月~~」を探したが、もうどこにも無かった。たまに片付けるとこうなる 泣



二ヶ月前に母が亡くなり、祖母はケアハウスに入っていて、父が世話に通っている。その父も膵臓がんなのだが、治療を拒んでいる。
亮介には弟の洋平がいる。
亮介は家を出て、ペット同伴の、シャギーヘッドと言う喫茶店を開いている。
たまたま実家に帰ると押入れが開いていて、雑に出して片付けたようなダンボールの箱が見つかった。父のものだったが、底の方に茶封筒に入った4冊のノートがあった。

日記と言うか手記というか、誰かが書いたらしい文字がびっしりと詰まっていた。最後に空白が残っているものもあった。父のものだと思うと気がとがめたが、読んでみた。

タイトルはユリゴコロと読めた。そしてひどく特異な出来事が記されていた。
 私のように平気で人を殺す人間は、脳の仕組みがどこか普通と違うのでしょうか。脳の中ではいろいろなホルモンが複雑に作用しあっていて、そのバランスがほんの少し変化するだけで、気分や性格がずいぶん変わるのだとか (略) 私の診察はすぐすみましたが、そのあとで母はいつも、家での私の様子を長々と医師に話しました。医師は毎回同じ、低い声で話す、眼鏡をかけた人でした。ときには涙も混じる母の話を、根気よく頷きながら聞いていましたが、必要になればぼそぼそと説明をさしはさみます。言い訳めいた口調でよく言っていたのは、この子には・・・のユリゴコロがないからしかたがない、というふうなことです。・・・の部分はときによってちがうので覚え切れませんでしたが、ともかく、いろいろな種類のユリゴコロがあって、そのどれもがわたしにはないらしいのです。
書き出しがこうだった。

怖くなってダンボールを押入れに戻して、そのうち忘れるだろうと思ったのだが、最後まで読まずにいられなかった。

父が出掛けたすきに押入れを開けて、誰が書いたのかわからないまま、ノートを読み進んでいく。

亮介は幼いとき肺炎で入院したことがある。母はベッドのそばで優しく看病をしてくれた。そんな事をおぼろげながら覚えている。退院してうちに帰ると住んでいた前橋から奈良の駒川市に引っ越していた。入院前と後ではなんとなく母の印象が違っていたように思ったが、子供心の思いなどは当てにならない。

そういえば母が亡くなる前、何かにおびえているように見えなかっただろうか。

それにしても、亮介にとっても内容が重たすぎる。弟に協力してもらって、気になるところから解決しようと思う。

父に直接は聞きづらいし、弟は軽い気持ちで聞き流しているようだ。

見つけた手記も気になるが、店のシャギーヘッドでは結婚の約束をしていた店員の千絵が出て行ってしまう。なにも言わないで消えてしまった。店員なので手を抜いて採用時の書類もない。亮介は気力がうせてしまう。
だが店で何かと気に掛けてくれる年配の店員の細谷さんが、一番の支えだった。
細谷さんは千絵のことを自分のことにように調べだす。
そして行方を突き止めてくれた。

もうたまらず手記を読み終え、勇気を出して父に聞いてみた。これは誰が書いたものですか。

父はもう先が永くは無いだろう、と話すことにした。

亮介は、全てについて知ることになる。



手記と亮介の生活が交互に書かれている。不思議な出来事は緊張感があり、周りの思いやりが重く、ときには暖かく、最終章に向かっていく。
変わった設定、情景の描写が続くが読後感は悪くない。と言うより、珍しいケースをテーマにした面白い話だった。

機会があればほかの作品も読んでみようと図書館に予約した。

その本が来る頃は、周りの積読本も少しは減っているでしょう、楽しみにしている。


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「武士道シックスティーン」 誉田哲也 文春文庫

2015-05-27 | 読書



今頃読んでみると、人気作品ですっかりイメージが出来上がっている、マンガにもなり映画にもなっている。安心して読み出した。

高校生、16歳、磯山香織。「五輪書」を手放さない熱血剣道少女。頭の中は剣道で一杯。
こういう世界は久し振りで、一緒に熱血してしまった。
市民大会の決勝戦で負けた、そのときの相手の動きが不思議で仕方がない。

ここから、高校で再会した甲山(西荻)早苗との長い付き合いが始まる。この二人のずれた感覚が、何かと面白い。

古武士の風格まで持つ浮世離れのした剣士と、一方ちょっと浮いた感じの天然少女、それが目標は同じ剣道。

影響しながらの三年間で、敵愾心が友情に代わるところ、ストーリーに乗せられて、ほろっとしたり、ジンとしたり、興奮したり忙しい読書だった。

余り知らない剣道の試合の形、練習マニュアルなどが身近になった。二人を取り巻く剣道部のメンバーがそれぞれ個性的で、爽やかでいい。部長や副部長の人柄も、脇の部員たちも、丁度いい緩衝材で、二人の生活に関わっている、試合になると、個性の違いが際立つところも楽しみつつ勝敗がが気になって力が入る。三年生が卒業して新体制になってから、新しい雰囲気になるところも生き生きとして新鮮だった。
親しんだ先輩が卒業したり、新入生を迎えたり、学校の部活こういう出会いや別れがあったなぁと懐かしい。

磯山香織の言う負けることは斬られること。彼女らしく全身でぶつかっているのが伝わってくる。

時代小説で、道場の代表が、御前試合に出る。息詰るような前半の山場だが、それが遺恨を残したり、友情を深めたり、後の物語に発展する。

まさに負けることが斬られること。真剣な求道心はこういうものの様に思った。

二人の成長譚、青春時代を象徴するような数々のエピソードの含めて、爽やかで、読後感のいい話だった。

続編も忘れないうちに読みたい。
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