空耳 soramimi

あの日どんな日 日記風時間旅行で misako

「ぼくのメジャースプーン」 辻村深月 講談社文庫

2015-05-20 | 読書



辻村さんの作品は考えさせられることが多い。本の厚みと内容の重量に耐えて、読みきれば平凡な生活の中で、考えることもなく通過しているあれこれに気が付く。

可愛がっていたウサギが無惨に殺された。
クラスで交代に餌をやり世話をしていたが、僕が風邪を引いて休んだ日、当番を変わってくれたふみちゃんが手足を切られて死んでいるウサギを最初に発見した。
校門で様子を見ていた犯人ともすれ違っていた。罪の意識などなく、うさぎを殺してもただ一時の気晴らしだと言う20歳の引きこもりの男だった。
うさぎは殺しても器物損壊で軽い刑だという。可愛がっていたウサギの姿を見てふみちゃんは心をなくしてしまった。自分の中に閉じこもってしまった。
僕が休んだからだ。自責の気持ちが深く深くなって、僕は憂鬱の中に落ち込もうとしていた。
心配したお母さんは秋先生に相談する。

ぼくは言葉に不思議な力を持っていた。秋先生とは親戚だったが、時々血筋の中にそういう人が生まれてきたのだという。
一人に一声だけ「若し~しなければ~の結果になるぞ」まず原因になる言葉を掛け、次にその結果を知らせる。その力は相手の気持ちとは関係なく効果を発揮する。
ぼくは、ふみちゃんを救いたかった。ぼくも救われたかった。それには、犯人に罪を自覚させて償わせなくてはならない。言葉の力を犯人にぶつけたかった。
しぶる先生方を力を使って動かし7日後に犯人に会うことになる。
それまで、相談相手の秋先生に指導を受けに行く。
先生と力に付いて話し合う。原因と結果、因果関係について秋先生の話を聴く。力を使うことについて、犯人を懲らしめてふみちゃんを治すことについて、僕と先生は考える。
言葉の力は、正しいと信じられるのか、犯人に使って反省させられるのか、気休めではないのか、憎しみをぶつけて復讐しようとしているのか。それは正しい使い方なのか。秋先生も結論を出さない。
僕は考えた。そしていよいよ犯人と対面するに日になった。僕は秋先生とともに部屋に入った。そこには平然と座っている若い男が居た。



僕の出した結論に感動する。可愛がっていたウサギを見たふみちゃんの姿に涙が出る。小学4年生に重たすぎる苦悩の一週間、読む時間を遅らせたいような結論を知りたいようなじりじりした思いが続き、最後で報われた。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「Nのために」 湊かなえ 双葉文庫

2015-05-20 | 読書
  

杉下は瀬戸内の小さな島から進学のために東京に出て、ボロアパートに住んでいる。たまたまとなりに作家希望の西崎が居た。台風が来て床上浸水のため世話になった二階の部屋に、安藤が住んでいた。

暫くぶりに島に帰省して同窓会に出た。そこで成瀬に出会う。彼はアパート近くのレストランでアルバイトをしていた。

殺人事件が起きるのだがそれも「N」がつく野口夫妻が死ぬ。
主要な人物の名前には姓か名に「N」が付いているので、「N」のためにというタイトルは、誰が誰のために行動したかという、読み方が最終的な課題になっている。

杉下と安藤は清掃会社でアルバイトをしていたが、その会社はスキューバダイビングの資格を取らせてくれるというので、二人で申し込んだ。安藤は就職活動中でそれが大きなスキルになると思った。
資格を取り、仲間と出かけた石垣島で野口夫妻と出会い、偶然に将棋好きの杉下と安藤は、野口氏と趣味が合う。帰ってからも自宅に招かれるようになった。安藤は希望通り大手商社の内定を受けたが、そこに野口氏が居て、希望の部署に推してもらった。

野口夫妻宅で妻が刺刺され夫が撲殺された、そこに西崎が居合わせ、撲殺犯として逮捕された。彼も自分からそれを認めた。

野口夫人が夫からの暴力で逃げることも出来ず、外から取り付けたチェーンで閉じ込められていた。顔見知りになった杉下、西崎は幼馴染の成瀬を加えて布人を救出する計画を立てた、が失敗、婦人と付き合いがあった西崎が逮捕され10年の実刑を受けた。

警察の事情聴取で行動を述べた。犯行時の行動はつじつまが合って、全員が開放された。


そして10年後。杉下は余命わずかと宣告されて療養中だった。
それぞれ、の真実がここで明らかになる。一人ずつの過去、野口夫人救出計画の際の4人の動き。
表立った計画的な行動は、警察で述べた。だがその裏に、お互いの真実が隠されていた。


湊さんの作品は、「告白」をまず読んだが、本屋大賞と知っても、自分とは合わない作家だと決め付けていた。
今回広告や批評でもうう一度と思って読んでみたら面白かった。
技術的なストーリー展開がいい。ます表向きの話で切り抜けた警察聴取。野口夫妻の家庭事情と、職場が同じだった安藤の立場。急遽計画にい加わった成瀬。

10年後に明らかになるそれぞれの気持ちが、「N」というイニシャルだけで、想い合う悲しみが迫ってきた。
湊さんをもう少し読んでみたい気持ちにさせる、良く出来た作品だった。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする