読むよりずっと先に映画を見ていた。
その頃、同じ作者で評判がいい「悪人」を読んでいたけれど、さほど目新しくもなく、この映画は俳優の熱演だけででよく出来上がっているのかなと思っていた。
比べるわけではないけれど、「悪人」の方が何かテーマがありきたりで今の風潮をうけたものに過ぎないようで余り入り込めなかった。
ただ、買ってあった、この「さよなら渓谷」は、勝手に名作だと思っている「赤目四十八瀧心中未遂」と同じような濃密な人生の一編を見せられるようで面白かった。
生活圏の最下層に属する人たちが織り成す過去と現在、読書の世界は、現在の自分と距離がありそうでどこか重なる、そいった生きる重みがずっしりと感じ取れた。
映画は、真木よう子と大西信満の過激な絡みが話題になったが、夏のむんむんする暑さや、隣りの主婦のわが子殺しや、その主婦と大西信満の浮気疑惑が、これは夏に読まないでよかったと思うほど、汗臭く泥臭い物語だった。
既にこの作品は話題作だったので(映画書籍ともに)書きつくされた感がある、
レイプ犯と被害者の同居関係。人生を狂わしてしまった一夜の悪ふざけの事件が、生涯の不幸の根となって生き残り根をはり、周の好奇な面白半分の目に晒される。
それがこともあろうに事件の中でも大学生野球部と女子高校生の悪質なレイプ事件。
その当事者たちは時間がたってしまったが、お互い生きづらい中で出逢ってしまう。
二人の過去は、深い悲しみと、周囲の好奇な冷たい目に晒されて生きてきた。
他人ごとのように考え忘れることが、救いであったのかもかもしれない。だが周囲がそうさせなかった。
いつか寄り添いながら常に距離があるふたりを、周りの人々の生活を絡めて読ませる一冊だった。
交互に語られる二人の過去も、いい構成だった。
同じ作者の「横道世の介」が明るい中にもの悲しさを秘めているのに比べて、これは終始、重く暗い人生と、人はそんな中でも空気を求めるようにささやかな安らぎがあれば生きていけるのかということ、しかし開放されるために何をしたのだろう。
こういった特殊な世界でなくても、人は重い何かを背負っていることを、感じた。
しかし根源的な愛や性に関わるのニュースや事件となると、それを見聞きする人の品性があらわになる、最近報道される日ごろの出来事を思い出した。