クルト・ヴァランダー刑事シリーズの第一作。もうこのシリーズは完結している。順番に読まなかったのはよくないかな、と思っていたが、ヴぁランダーを取り巻く人たちとは、初めて遭うのではなく既におなじみになっているのもちょっと嬉しかった。
スウェーデンのイースタでは滅多に起きないような、残虐な殺人事件の通報があった。
人里はなれた老人家族が住む二軒の家、そのうち一軒で老夫婦が襲われ夫は死に妻は重症だった。妻も助からない状況で「外国の…」と言い残す。
隣人からみても、日ごろから地味て堅実そうに見えたというが、亡くなった夫には秘密があった。「外国の…」を手がかりにヴァランダーと長年の友人リードベリは捜査を開始する。
「外国の…」を裏付けるように現場の綱の結び方にも特徴があった。そして事件はスコーネの、バルト海に面した湾岸にある難民の居留地につながる。政府は海外から来た人たちを受け入れられたものの、人々は職場にも恵まれず極貧生活を強いられていた。
殺された夫婦も、外国から来て住み着いたらしい。そういった背景と、殺人事件を結ぶ糸から、犯人を割り出していく。
車の音から車種を言い当てる特殊な能力を持った人を見つけだす。ヴァランダーが自分のプジョーも走らして当てさせてみる所など稚気があっていい。
彼はごく普通の冴えない男である。別れた妻にいつまでも未練があり、それなのに気に入った女性を見かけるとついお茶にでも誘いたくなり、あれこれと想像する。娘にも会いたい、その上事件が起きてもうまく解決できるかというようなことでいつもうじうじと悩んでいる。
だが彼のやる気は天啓のように謎を解く鍵に気づくことがある。そう言った直感とは別に変わったことではない、常に思いつめ、捜査に悩んでいることから我知らず導き出されたものなのだろう。
その熱心さが、危険も顧みず犯人を追い詰め、半死半生の目にもあう、過激なアクションシーンを演じることもある。
彼を取り巻く環境や人々も細かく描写され、今風でないタイプの警官だけれど、何か親しみがわく、警察内でも東洋的な人情など人との結びつきが優しく感じられるのも親しめる要因かもしれない。
作者のヘニング・マンケルさんは昨年なくなったそうだ。感謝とお別れを。