空耳 soramimi

あの日どんな日 日記風時間旅行で misako

「なんらかの事情」 岸本佐和子 筑摩書房

2016-07-12 | 読書



身近な出来事が多い、勘違い、行き違い、誤解、早合点、何もかも思い当たる、エッセイにするとこうなるのか。
講談社のエッセイ賞を受賞した岸本さんに、今更だけれど。
読んで暫くして、不意にぽかっと浮かんでくる、ほんと不思議だなぁと言う感じが好きだ。
これからも何か見るたびに、あれ、これ何所かで読んだ感じだと思う。そんな身近な話題に思わずクスッと笑ってしまう話題が満載。



* 物言う物 トイレが喋った「自動水洗です」。だからどうだって言うのだ。
車が喋った「ガソリンがなくなりそうです」メーターを見れば分かる、それになぜみんな女なのか。
状況次第で切羽詰まっていたり懇願するようだったり厳しくトガメダテする調子が籠っていた方が訴求度も高い気がする。
(我が家でも風呂が喋る。ガステーブルがものを言う。温度が高くなっています、自動調節に切り替えます、鍋を置いてください、、設定温度になりました。賢いけどまだそんなにお世話にならないでもダイジョウブ)

物言わぬ臓器、肝臓など「もう堪忍してください」と言う風にコンディションを訴えたら無茶をしなくなって病気が減る。
でもお満員電車はうるさくて仕方がないだろう。「胃に穴があいています」「動脈が硬いです」・・・。

* 家の近くにあった旧式のポストを応援している。

* 日記
  ×月×日 エリツィンが死んだ。
  「同志ポリス・エリツィンに私は非情な親愛の情を感じておりました。何となればエリツィンの”ツィン”にプーチンの”チン””ツィン”と”チン”二つの間にはなんと響きあうものがあることでしょう!」
頭の中でプーチンが私の差し出した原稿をびりびりに破いて捨てる。

×月×日
「同志ポリス・エリツィンと私は無二の親友でありました。何となれば、二人の間には”髪型が木彫りっぽい”と言う共通点があり」
プチンが、私の原稿を読まずに捨てる。
何と何とわはは そうきました。

* アロマテラピーの話で、アロマオイルを買おうとしたら頭の中で
  アロマでごわす
と声がした。その瞬間、目に入る全てのものがごわす化した。「ごわす様」はそのごもたびたび現れては、私の素敵生活(アロマ生活のこと)を一瞬にして無効化した。
「ごわす様」には「ごんす」「がんす」「やんす」「でげす」ナドの仲間がいることもわかった。

* 気がつくと「イカどっくり」について考えている自分がいる。

* 「読書体験」大きい本を広げて読んでいると、抑えている両方の親指が二つの肉球に見えてきて気になる。

* 「海ほたる」古いカーナビなので友人は指示に従わない「いいのいいの、コレ古いから。こちらが早いの」
  アクアラインでは走っていても「海です」「海です」
「そうねぇ確かに海だわ」
江戸時代のナビだったら「三里先、関所です」「この先の首塚を右方向へ」と言うだろうか。

* 「やぼう」 ひらがなの「め」と「ぬ」はよく似ている。もしかして「め」は「ぬ」のことを自分を土台にして先っぽにちょろりと飾りをつけただけの紛い物、言うなれば自分の亜種である、などと苦々しく思っているだろうか。そして「ぬ」は「ぬ」で自分こそは完成形、末尾の優雅な丸まりのない「め」のごときは憐れな欠陥品よ。と蔑んでいるだろうか。両者は口も利かぬほどの犬猿の仲で、たまに、たとえば<ぬめり>などという言葉で一緒に仕事をしなければならぬ時などはお互い目もあわせず、険悪な空気が<ぬめり>じゅうに満ち満ち、板ばさみになった「い」がひとり対応に苦慮して居たりするだろうか。
同じような反目が生じるらしい文字が沢山ある、等々。井上やすしのキーボードの記号の話を思いだす。
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「気になる部分」 岸本佐知子 白水Uブックス

2016-07-12 | 読書



三冊のうちで、一番好きかも知れない。ビザールな(奇妙な)本に挙げられているものが私も特に好きだ。
最近読もうとした(最後まで読んでないけど)藤枝静雄、昔から読んできた筒井康隆(特に虚人たち)それに吉田知子、村田喜代子、それに、それに、奥泉光が(嬉)怖さがドッペルゲンガーのそれだ、と書いてある。私が好きなのもそのあたりか、裸で書割の窓に向かってサックスを吹くカフカかぶれの男など。なんとも言えず奇妙で面白い。
後、笙野 頼子(残念ながら未読、Wikiでは緊密な文体で鬱屈した観念・心理表現と澄明な幻想描写の融和を試行した、とある、読まねば)そして、川上弘美さんと酒を飲む夢。

言葉に拘って想像があらぬほうに飛んでいく話は、相変わらず突き抜けている。


* おかしな童謡編、「コガネムシンの子供に水あめをなめさせる」「山から小僧が下りてきた」短すぎるし何で小僧か。(私はこの小僧は冬将軍の孫で冬の前触れに偵察に来たのだと思っていた)

* 「根掘り 葉掘り」の「葉掘り」ってなんだ。

* 「おおよその見当がつけられない」
(私もこの先300Mで右折、と言われても車で走っていてみなさんは距離が分かるの?と思っていたら 今度の車は3.2.1と色が変わっていく。1になれば鼻の先で曲がるのだ。それでもタイミングが合わないことがあり信号を通過する)

* 「気になる部分」子供の頃社会見学でも、気になる部分にだけ目が行った。大人になって社長のほくろに気をとられた。

* 「透明人間」子どもの頃は自分の存在が希薄だったそうだ。
(最近読みたてなのに原典は忘れたが、透明人間は網膜も透明なので、盲目ではないかという疑問、なるほどと記憶)

* 「サルマタケ」はどう訳すか。辞書にもない、まして逆に「サルマタケ」を英訳する人はどうするのだろうと煩悶する。

---つね日ごろ英語で書かれた文章と向き合って、言語のちがいと文化の違いと言う薄いヴェール越しに、なんとかそこに表現されているものを感覚としてとらえようと四苦八苦しているせいなのだろうか。仕事と関係なく日本語の本を読んでいても、いつの間にか”もし自分が日本語以外の言葉を母国語としている翻訳者で今読んでいるこの文章を訳すとしたら”という視点で読んでいる自分に気づくのである。(略)頭の中で邪念の小人たちが勝手に苦悩し出してうるさいことこの上ない。---

* 数年前のアンケートあなたの夫になる男性にい一番望むものは、日本では「優しさ」アメリカの女性は「ユーモアのセンス」だったそうだ。


そんなこんなで興味深い話題が満載、一部を引いてみたが、こんなものだけではなく、こどものころの思い出、経験した不思議な出来事、いまでも折にふれて感じているあれこれが、私にも思い当たることが多くて一気に読んでしまえた。

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