霧の中から少しずつ姿を現すものを描く。夢と現実のあわいを見据えるような練った文章は、不思議な世界の楼門のように読者に向かって開いていく。
外に積もった雪の公園をミルトレッドが歩いていく、頭が割れて赤い血が雪を汚している。呼んでも聞こえないのかどんどん小さくなっていく。時折振り返る顔は人形のようで、小さい笑顔はいつまでも鮮明で、、、ルシールは胸苦しさに夢から醒める。
ルシールは何度も修復したミルトレッドの肖像画を見上げて思う。夢なんてばかばかしいわ。
ルシールは先妻のミルトレッドの友人だった。しかし、彼女が亡くなって後妻に入った。
密かに愛し続けていた医師のアンドルーが今はルシールの夫になって16年が過ぎた。
小さかった先妻の子、兄妹も成長した。アンドルーの妹イーデスが独身のまま同居している。
二人の使用人と家庭を切り回しているが、家族とはお互いに心から馴染んだことがなく常に他人の感覚がつき纏っている。
娘のポリーの婚約者が来ることになった。ルシールとイーデスは準備のために残ったが家族は駅まで出迎えに出発した。到着するはずの列車が脱線事故で遅れた、救助の手伝いをしている、帰りは遅くなると連絡があった。ルシールはまたいつものように家族に入り切れていない孤独感を覚える。
小さな箱をもった小男がドアをたたいた。その箱を開けたルシールは悲鳴を残して、外に消えた。
アンドルーは警察に届けた。妻が行方不明でそれが奇妙なんです。巡査部長は思う。行方不明なんて奇妙なものさ。
サンズ警部は聞き込みに行く。美容院で髪を切ったのがルシールらしいと。確かにここまでは来たようだ。
彼は16年前のミルトレッドの悲惨な事件を覚えていた。
ルシールは湖で見つかった。水の中で夢のように死を見つめていた。死ぬのね。悲鳴を上げ続けた細く細く何度も何度も。
アンドルーが手を差し伸べても彼女はまだ叫び続けていた。救急車が来て病院に収容された。ルシールにとって大きな鉄の門と塀のある建物はとても安全なところに思えた。
同室のコーラは正常な神経を持っていたが、一人暮らしより入院を選んでいた。彼女は頼りになるとルシールは感じていた。家族は毎日見舞いに来た、誰にも会いたくない。アンドルーとだけ暮らしたい。
いつも悪夢が押し寄せてくる。気味の悪いものが見える。
サンズ警部のところに子供が湖で箱を見つけたと言って来た。中には気味の悪い指が入っていた。
ルシールの入った門の中の共同体は自給自足で営まれていた。
その点ルシールを担当しているミス・スコットは優秀だった。
混乱しているルシールはサンズにあっても恐怖しか涌かない。しかし彼から小男のグリーリーが死んだ、殺されたと知らされて訳もなく安心して、指の入った箱を受け取った所から彼に脅迫されたいきさつを話す。
まわりで事件は続く。家族が持ってきたブドウを食べてコーラが死んだ。
ルシールは言葉が明確に出なくなっても、家族を疑っていた。それを話すが、部屋を移され新しい看護師が付いた。散歩に出たが隙を見てルシールは高い塀から外に飛び降りた。
みんな待っている私のカタが付くのを、だから塀を上って逃げる。
ルシールの葬儀が行われた。サンズの仕事もカタが付いたとみんな思っていた。しかしサンズは「死の数」を忘れなかった。
コーラの姉がそっと葬儀を見ていた。そこでイーデスと会う。二人は悲しみで繋がる。
そして物語の鍵になるものに気が付く。
サンズの頭の中にもつながったものがある、やっと犯人の意図に行きつく。
ルシールが夢うつつで自分を見失ったのはなぜか、家族は皆彼女の敵だったのか、ルシールの怯えは何か。家族の心理はルシールの疑心暗鬼か、複雑に絡んだ糸は連続殺人に姿を変えて4人の命を奪った。狂ったのか。それともストレスによる混乱なのか、ルシールの世界はミラーの創造の世界を映している。
終わりまで誰がなぜという答えが見えなかった。入院者の異常な行動もはさんで、物語の底は深い。
ただルシールの混濁したままの話は、わずかながら技巧にすぎるようにも感じた。
ルシールは何度も修復したミルトレッドの肖像画を見上げて思う。夢なんてばかばかしいわ。
ルシールは先妻のミルトレッドの友人だった。しかし、彼女が亡くなって後妻に入った。
密かに愛し続けていた医師のアンドルーが今はルシールの夫になって16年が過ぎた。
小さかった先妻の子、兄妹も成長した。アンドルーの妹イーデスが独身のまま同居している。
二人の使用人と家庭を切り回しているが、家族とはお互いに心から馴染んだことがなく常に他人の感覚がつき纏っている。
娘のポリーの婚約者が来ることになった。ルシールとイーデスは準備のために残ったが家族は駅まで出迎えに出発した。到着するはずの列車が脱線事故で遅れた、救助の手伝いをしている、帰りは遅くなると連絡があった。ルシールはまたいつものように家族に入り切れていない孤独感を覚える。
小さな箱をもった小男がドアをたたいた。その箱を開けたルシールは悲鳴を残して、外に消えた。
アンドルーは警察に届けた。妻が行方不明でそれが奇妙なんです。巡査部長は思う。行方不明なんて奇妙なものさ。
サンズ警部は聞き込みに行く。美容院で髪を切ったのがルシールらしいと。確かにここまでは来たようだ。
彼は16年前のミルトレッドの悲惨な事件を覚えていた。
ルシールは湖で見つかった。水の中で夢のように死を見つめていた。死ぬのね。悲鳴を上げ続けた細く細く何度も何度も。
アンドルーが手を差し伸べても彼女はまだ叫び続けていた。救急車が来て病院に収容された。ルシールにとって大きな鉄の門と塀のある建物はとても安全なところに思えた。
同室のコーラは正常な神経を持っていたが、一人暮らしより入院を選んでいた。彼女は頼りになるとルシールは感じていた。家族は毎日見舞いに来た、誰にも会いたくない。アンドルーとだけ暮らしたい。
いつも悪夢が押し寄せてくる。気味の悪いものが見える。
サンズ警部のところに子供が湖で箱を見つけたと言って来た。中には気味の悪い指が入っていた。
ルシールの入った門の中の共同体は自給自足で営まれていた。
この共同体の父親役は精神分析医から病院経営者となったネイサン医師、母親役は効率的でありほがらかでありながら冷静な看護師の一団が担っていた。空想癖のあるものや鑑賞主義者、芸術趣味の人間はスタッフとして受け入れてもらえない。想像力の豊かな者は危険な場合があるし、感情に流されやすいものは病棟全体の平和を乱しかねないからだ。
その点ルシールを担当しているミス・スコットは優秀だった。
混乱しているルシールはサンズにあっても恐怖しか涌かない。しかし彼から小男のグリーリーが死んだ、殺されたと知らされて訳もなく安心して、指の入った箱を受け取った所から彼に脅迫されたいきさつを話す。
まわりで事件は続く。家族が持ってきたブドウを食べてコーラが死んだ。
ルシールは言葉が明確に出なくなっても、家族を疑っていた。それを話すが、部屋を移され新しい看護師が付いた。散歩に出たが隙を見てルシールは高い塀から外に飛び降りた。
みんな待っている私のカタが付くのを、だから塀を上って逃げる。
ルシールの葬儀が行われた。サンズの仕事もカタが付いたとみんな思っていた。しかしサンズは「死の数」を忘れなかった。
コーラの姉がそっと葬儀を見ていた。そこでイーデスと会う。二人は悲しみで繋がる。
そして物語の鍵になるものに気が付く。
サンズの頭の中にもつながったものがある、やっと犯人の意図に行きつく。
ルシールが夢うつつで自分を見失ったのはなぜか、家族は皆彼女の敵だったのか、ルシールの怯えは何か。家族の心理はルシールの疑心暗鬼か、複雑に絡んだ糸は連続殺人に姿を変えて4人の命を奪った。狂ったのか。それともストレスによる混乱なのか、ルシールの世界はミラーの創造の世界を映している。
終わりまで誰がなぜという答えが見えなかった。入院者の異常な行動もはさんで、物語の底は深い。
ただルシールの混濁したままの話は、わずかながら技巧にすぎるようにも感じた。