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「犬の心臓」(KAWADEルネサンス) ミハイル・A・ブルガーコフ

2021-07-12 | 読書

 

死んだ若い男の脳下垂体を犬に移植したら、犬が人間化したという。SFのような怪奇小説のような、面白怖い作品。
ただ、これが革命直後、レーニン時代に書かれたということを解説で読んだ。新しいソ連体制に真っ向から立ち向かう作品ではなく、多くの非リアリズム的で幻想的な作品が書かれた時代、これもその中に含まれる。
ブルガーコフは時代の風俗を風刺したこのような滑稽さも含めた作品で何とか息を継ぎ、レーニンから舞台の仕事をもらったとか。本音とは矛盾した生活は彼にとって不幸な時代ではなかっただろうか。1989年になるまで出版はされなかったらしい。
極貧と貴族的富裕が混在する、革命後間もない時代の作品が見せる背景を多少は理解することはできた。

参考にと「中野京子さん」のロシアの怖い絵を読んでみたがメインになっている時代の話が、この作品の時代の少し前でおわっていた。それでもロシアという特殊な成り立ちの国と、蓋を開ければ何処も同じ、何も変わってはいない人間の歴史にはまってしまった。といっても、ロマノフ家崩壊の後がすこし少し重なっていたので理解には役立った。

死んだ酔いどれの若い男の脳下垂体を、「シャリフ」(一般的な犬の名前)と呼ばれている野良犬に移植する
医者は若返り手術の権威で数々の実績を上げていた。
犬は熱湯を脇腹にかけられて死にかけていた。飢えてもいた。親切ごかしに暫くは天国のような暮らしをした後、粗野で無教養の男の脳下垂体と陰嚢を埋め込まれる。

犬は元の素朴さを失い、人間に徐々に変化する。二足歩行から言葉を覚えていくが、男の下品な本性も受け継いでいた。

この経緯を助手は研究のために記録しているが、少しずつ人化していく段階はSF的で面白い。だが現実はてんやわんやで、若返り自体は世間に受け入れられ医師の商売は繁盛しているが、この実験で日常が破壊されていく。

最後の手段でもとに戻すことになった、頭に傷のある犬の穏やかな日常が戻ってきた、医師は傍で腰を下ろし、スチームの効いた部屋でくつろいでいた。犬もなんとなく幸せ。

何度も挫折した代表作の「巨匠とマルガリータ」は読了出来るだろうか。

変容といえば以前筒井康隆の「メタモルフォセス群島」が面白かったのも思い出した。突然変異した生物の島は、人工的ではない。それは進化の過程を切り取ったものだったかもしれない。記憶は薄れているが思い出したのでそのうち本を探してみよう。

後ろに河出書房新社の「奇想コレクション」が掲載されていた。コレクションは20冊ある。どれも面白そうなのでメモをした。

ダン・シモンズ『夜更けのエントロピー』 嶋田洋一訳、
シオドア・スタージョン 『不思議のひと触れ』 大森望編
テリー・ビッスン 『ふたりジャネット』 中村融編訳、
エドモンド・ハミルトン 『フェッセンデンの宇宙』
アルフレッド・ベスター 『願い星、叶い星』 中村融編訳
シオドア・スタージョン 『輝く断片』 大森望編訳
アヴラム・ディヴィッドスン 『どんがらがん』 
ゼナ・ヘンダースン 『ページをめくれば』 
ウィル・セルフ 『元気なぼくらの元気なおもちゃ』 安原和見訳、
コニー・ウィリス 『最後のウィネベーゴ』 大森望編訳
パトリック・マグラア 『失われた探険家』 宮脇孝雄訳
タニス・リー 『悪魔の薔薇』 安野玲・市田泉訳、
シオドア・スタージョン 『[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ』 若島正編、
ジョン・スラデック 『蒸気駆動の少年』 柳下毅一郎編、
マーゴ・ラナガン 『ブラックジュース』 佐田千織訳
グレッグ・イーガン 『TAP』 山岸真編訳、
ジョージ・R・R・マーティン 『洋梨形の男』 中村融編訳、
フリッツ・ライバー 『跳躍者の時空』 中村融編、
テリー・ビッスン 『平ら山を越えて』 中村融編訳
ロバート・F・ヤング 「タンポポ娘」伊藤 典夫 編
 
コメント
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