辰雄が避けて通ろうとすると手を後ろに組んだままそうはさせまいと位置を変える。
辰雄の手から筆箱がこぼれ落ち派手な音と共に数本の鉛筆と肥後の守が飛び散った。辰雄は無言でそれを拾い集めながら、消しゴムと定規は何故筆箱から飛び出さなかったのか不思議に思った。あいつは薄笑いを浮かべそんな辰雄を見下ろしている。
鉛筆は△マークのコーリン9800。辰雄は文房具に密かなこだわりを持っていた。肥後の守は当時の男子が鉛筆などを削る為にみんな持っていた折りたたみ式のナイフで、木の枝を削って刀を作ったり、机に彫刻を施したりもしたものだが、
辰雄のそれは小遣いを貯めてデパートで買った「青紙割込」と本格的鋼の刻印がある高級品で、校門の前の文房具屋で売っている普及品ではなかった。
辰雄は日曜の度に砥石にかけたので刃に錆びなど全く無く、数年前初めてそれを手にした時より波紋がくっきりと出て愛用品特有の風格が感じられるようになっていた。
立ち上がり足元から抜け出そうとした時あいつは辰雄の手から筆箱をひょいと抜き取った。
辰雄の手から筆箱がこぼれ落ち派手な音と共に数本の鉛筆と肥後の守が飛び散った。辰雄は無言でそれを拾い集めながら、消しゴムと定規は何故筆箱から飛び出さなかったのか不思議に思った。あいつは薄笑いを浮かべそんな辰雄を見下ろしている。
鉛筆は△マークのコーリン9800。辰雄は文房具に密かなこだわりを持っていた。肥後の守は当時の男子が鉛筆などを削る為にみんな持っていた折りたたみ式のナイフで、木の枝を削って刀を作ったり、机に彫刻を施したりもしたものだが、
辰雄のそれは小遣いを貯めてデパートで買った「青紙割込」と本格的鋼の刻印がある高級品で、校門の前の文房具屋で売っている普及品ではなかった。
辰雄は日曜の度に砥石にかけたので刃に錆びなど全く無く、数年前初めてそれを手にした時より波紋がくっきりと出て愛用品特有の風格が感じられるようになっていた。
立ち上がり足元から抜け出そうとした時あいつは辰雄の手から筆箱をひょいと抜き取った。