ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

大学が企業と共同研究する際の本音を語った単行本の話です

2010年12月27日 | イノベーション
 昨日ご説明した単行本「企業研究資金の獲得法」が伝える内容の続きです。この本の執筆者である東京農工大学の教員の方々が伝えるように、大学教員の研究室の多くは研究資金が不足しています。この不足している研究資金を得る手段の一つとして、大学の教員(研究者)は企業との共同研究に活路を見出し、お互いに満足する仕組みをつくろうとしています。企業に研究費を出してもらうためには、教員が真の“対価”をどう考えればいいのかを、教員に助言しています。

 本書を執筆した方々は、東京農工大の産学官連携・知的財産センターのセンター長をはじめとする教員たちです(後で詳細は説明しますが、執筆者として名前が挙がっている方々は編者でもあるようです)。東京農工大は工学部と農学部で構成される理工系大学です。東京にある国立大学の中では中規模の大学ですが、共同研究の実績面では日本のトップの座を占める大学として有名です。 

 例えば、教員1人当たりの企業との共同研究の件数では、東京農工大は0.53件と日本で一番多い実績を持っています(文部科学省の「平成21年度 大学等における産学連携等実施状況について」より)。


 (昨日ご説明した共同研究費の平均値が220万円であるという数字は、共同研究1件当たりで、教員数が1人とは限らない場合のようです)。
 上位に並ぶ大学は、理工系の専門大学が多いのが特徴です。逆にいえば、企業との共同研究が少ない文系学部を持たない大学群が上位に名を連ねています。その中で東京農工大がトップの位置を占める理由は、同大の教員の研究テーマが企業にとって魅力的なものが多いからだと思います。新規事業を始めたいと思う企業で、自社の中にその分野に強い研究者が少なく、適した実験設備も持っていない場合は、その分野に精通した大学教員に相談する可能性が高いです。自社が不慣れな分野の共同研究を親しい教員に相談すると、東京農工大は優れた共同研究計画を提案する教員が多いようです。企業が解決を求める課題に対して、その解決方法を的確に提案できる教員が多いのではないかと思います。

 教員1人当たりの企業との共同研究費の面でも、東京農工大は約104万円と第一位の座を占めます。


 第二位が東京工業大学、第三位が名古屋工業大学と続きます。その後に、旧帝大系の有名大学が続きます。この順位からも、東京農工大の教員の研究テーマが企業にとって魅力的なものが多いと推定できます。そして、相談すると、企業が知りたい課題に的確に答えてくれる教員が多いようです。

 本書によると、東京農工大は企業出身の教員も多く、また企業がどんな理由で共同研究を申し込み、何を期待しているかをよく理解している教員が多いようです。あるいは、先輩教員や産学官連携・知的財産センターの担当者が若い教員に、企業が共同研究を実施する際に求めるものは何かを教えてくれるようです。この結果、企業の下請けとしてではなく、自分にとっても役に立つ共同研究計画を提案する能力が高い教員が多いようです。

 同大学のWebサイトの「研究・産官学連携」ボタンをクリックすると、「研究者紹介(研究者総覧)」ボタンが出てきて、専門分野別に教員を探せたり、「研究シーズ集」などのボタンが出てきて、同校の教員の研究テーマを探しやすくなっています。また、「共同研究を申し込みたい」というボタンもあり、具体的にどうすれば、共同研究を申し込めるかが示されています。

 本書は若い教員が、企業の担当者から課題解決の相談を受けた時に、共同研究をどう提案すればお互いに信頼感をはぐくめるかを分かりやすく、具体的に説明されています。

 表紙には教員3人の名前が著者として表示されています。ところが、実際に中身を読むと、章の最後に署名があったりして、この3人以外の方が書いた部分がかなりあるように推定できます。どの部分を誰が書いたのかがよく分からない構成になっています。その一方でかなり個人的な見解を述べている部分もあります。誰がどの部分を書いたのか、文責は誰が持っているのか、本書全体の統一見解はあるのかないないのか、よく分からない構成になっています。オムニバスな構成になっているようです。

 最後に、本書の類書を見つけたので、ご紹介します。