「古譚」の3作品目が「山月記」で、「文字禍」という作品は4番目にあります。文字が人類にどういう変化をもたらしたかがテーマのお話です。こんな話です。
紀元前600年よりも以前の話。アッシリアの話である。いわゆるメソポタミア文明の末期ということになる。すでに文字が発達していたが、紙がなかったので粘土板に書かれていた。だから図書館は粘土板の倉庫であった。その図書館で毎夜話し声が聞こえる。これは文字の霊ではないかと噂になる。大王から老博士ナブ・アヘ・エリバに文字の精霊の研究が命じられる。
ナブ・アヘ・エリバはある時、「一つの文字を長く見詰めている中に、何時しか其の文字が解体して、意味の無い一つ一つの線の交錯としか見えなくなって来る。」そして「単なるバラバラの線に、一定の音と一定の意味を持たせるものは何か?」と考える。この不思議な現象はナブ・アヘ・エリバは文字の精霊によるものと考える。そしてその文字がそれを指す物の「影」となり、その影を人間は追うようになる。こうして文字の精の人間支配が始まる。
ナブ・アヘ・エリバは大王に報告する。「アッシリアは、今や、見えざる文字の精霊のために全く蝕まれてしまった。しかも、これに気づいている者はほとんどない。今にして文字への盲目的崇拝を改めずんば、後に臍を噛むとも及ばぬであろう。」大王はこの報告が気に入らず老博士に謹慎を命ずる。そして大地震があり、老博士は粘土板の下敷きになり圧死する。
この発想はソシュールのシニフィアンとシニフィエの関係に通ずる。言葉に関する根本的な問題である。寓話的な話でありながら近代言語学に通じるものがあり、作者の言葉に対する意識の高さがうかがえる。
紀元前600年よりも以前の話。アッシリアの話である。いわゆるメソポタミア文明の末期ということになる。すでに文字が発達していたが、紙がなかったので粘土板に書かれていた。だから図書館は粘土板の倉庫であった。その図書館で毎夜話し声が聞こえる。これは文字の霊ではないかと噂になる。大王から老博士ナブ・アヘ・エリバに文字の精霊の研究が命じられる。
ナブ・アヘ・エリバはある時、「一つの文字を長く見詰めている中に、何時しか其の文字が解体して、意味の無い一つ一つの線の交錯としか見えなくなって来る。」そして「単なるバラバラの線に、一定の音と一定の意味を持たせるものは何か?」と考える。この不思議な現象はナブ・アヘ・エリバは文字の精霊によるものと考える。そしてその文字がそれを指す物の「影」となり、その影を人間は追うようになる。こうして文字の精の人間支配が始まる。
ナブ・アヘ・エリバは大王に報告する。「アッシリアは、今や、見えざる文字の精霊のために全く蝕まれてしまった。しかも、これに気づいている者はほとんどない。今にして文字への盲目的崇拝を改めずんば、後に臍を噛むとも及ばぬであろう。」大王はこの報告が気に入らず老博士に謹慎を命ずる。そして大地震があり、老博士は粘土板の下敷きになり圧死する。
この発想はソシュールのシニフィアンとシニフィエの関係に通ずる。言葉に関する根本的な問題である。寓話的な話でありながら近代言語学に通じるものがあり、作者の言葉に対する意識の高さがうかがえる。