明治38年1月雑誌『学燈』に発表された短編小説。「倫敦塔」と同じようにエッセイ風の小説である。「倫敦塔」のような幻想もないのでエッセイといわれれば、エッセイといってもいいような作品でもある。ただし虚構も混じっているようなので、その意味では小説であろう。
語り手はやはり「余」。カーライルというのはイギリスの思想家・評論家・歴史家。スコットランド出身で、倫敦のチェルシーに移り住んだ。死後、その家が博物館として公開されている。そこに「余」が訪れ、見物する。案内してくれるのは「五十恰好の太った婆さん」。セリフのように「何年何月何日にどうしたこうした」と流暢に語る。この「婆さん」の存在が小説らしいと言えば小説らしいとも言えなくもない。ユーモラスであり、ロンドンという場所をうまく表現している。
カーライルの家のキーワードは「四角」。なんでもかんでも「四角」。カーライルという人も堅物だったのだろうという印象を与える。
この家は四階まである。四階はカーライルの書斎である。なぜ書斎を四階にしたのか。下界の音を聞こえなくするためだったようだ。しかし残念ながら遠くの音は逆に聞こえてくる。
カーライルは神経質だったように感じられる。漱石と似ている。その感覚がまた小説らしいのかもしれない。
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