いつしか梅咲かなむ。
『更科日記』の継母との別れの場面で登場する一文です。「なむ」の識別で有名です。
【品詞分解】
いつしか 副詞
梅 名詞
咲か 動詞 カ行四段活用未然形
なむ 他への願望の終助詞
【現代語訳】
はやく梅の花が咲いてほしい。
【重要文法事項】
〈「なむ」の識別〉
「なむ」にはいくつかの種類があります。次の文中の「なむ」を文法的に説明するとどうなるでしょうか。
1.いつしか梅咲かなむ。
2.梅咲きなむ。
3.梅なむ咲く。
1について・・・願望の終助詞
この「なむ」は他への願望の終助詞です。未然形接続です。
願望の終助詞には「自己の願望」と「他への願望」があります。「なむ」は「~してほしい」と他者に対してお願いする意味があり、「自己の願望」とは異なります。「自己の願望」の終助詞としては「ばや」があります。「ばや」も未然形接続です。
いかで見ばや。
の「ばや」ですね。
また、「てしが(な)」「にしが(な)」も「自己の願望」の終助詞です。連用形接続です。
もうひとつ「もがな」「がな」という願望の終助詞があります。これは「~があったらなあ」という意味です。
2について
連用形に接続する「なむ」は、強意の助動詞「ぬ」の未然形+推量の助動詞「む」です。助動詞「つ」「ぬ」は主に「完了」ですが、事態がまだ終わっていない場合は完了しませんので「強意」になります。だから「む」や「べし」など未来を表す助動詞と一緒に使われるときは「完了」ではなく「強意」になります。
てむ、なむ、つべし、ぬべし
の「て」「な」「つ」「ぬ」は「強意」になります。
(英語では「未来完了」と言います。だから日本語でも「完了」のままで良いのではないかと思われますが、伝統的にそうなっていません。このあたりは教育界で整理する必要があります。)
文の意味は「梅がきっと咲くだろう。」です。
3について
この「なむ」は「強意の係助詞」です。「梅」を強調します。文の意味は「梅が咲く」です。
係り結びの助詞「ぞ、なむ、や、か、こそ」については別の回に解説することになるかと思います。
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