世界の街角

旅先の街角や博物館、美術館での印象や感じたことを紹介します。

ブログ掲載500回記念・魅了する大壺の彷徨える焼成地論・その9

2016-08-01 07:54:36 | 北タイ陶磁
<続き>

「魅了する大壺の彷徨える焼成地論・その7」でまとめた、焼成地不詳の1)、3)と4)は、どこ産であろうか? その最大の謎である1)について、前回に続いて検証してみたい。
バンコク大学東南アジア陶磁博物館、ホノルル美術館で展示されている掛分け釉両耳印花文壺の焼成地の詮索である。前回検討したようにナーン・ボスアック産の可能性が考えられるが、そうとも思われない傍証がある。今回、それについて検討したい。
先ず、HP上の美術館「郡家美術館」のパーン(パーンでないことは説明してきたが)の2番目の壺の文様である。解像度が低く文様が明確に読みとれないが、肩の印花文は件の稲穂文のように見えなくもない。
その下には、下のスケッチの青丸枠の繋文らしき文様をみる。ではナーン・ボスアックかと云うと、そうとも云いつらい。
下の立派な大壺は、ランプーンのハリプンチャイ国博で展示されている。その印花文の一つが、上にみた繋文である。まず写真を御覧願いたい。

う~ん、それなりに符合するが、当該壺の焼成地が明示されていない。つまりキャップションが見当たらないのである。あるのは、下の写真のように中国陶磁とある。
ほんまかいな?との印象である。確かに写真向かって右側の染付は中国陶磁であるが、壺は北タイの匂いである。これが本当に中国陶磁であるなら、混乱はさらに増幅される。
多少横道にそれたので本筋に話を戻す。「郡家美術館」のパーンの2番目の壺の文様であるが胴にはリリーと思われる印花文が押されている。これはサンカンペーンでみる印花文である。そのサンカンペーンのリリーの印花文(出典:Ceramics of Seduction)をご覧頂く。
上写真の壺がサンカンペーンか?・・・という課題がないわけではないが、書籍にサンカンペーンと明記し、バンコク大学東南アジア陶磁博物館ニュースレターも、当該書籍を紹介している点。さらに当該ブロガー・コレクションのサンカンペーン鉄絵盤、バンコク大学東南アジア陶磁博物館の収蔵品(下写真)にもリリー文様が描かれていることから、上の壺はサンカンペーンであろう。

とすれば、「郡家美術館」のパーンの2番目の壺(すなわち1番目の壺もと云うことになるが)はサンカンペーンの可能性も皆無ではない。
以上のことどもは、1)の壺はナーンの可能性が強いものの、サンカンペーンも視野に入っており、現時点での詮索は壁にあたっている。
これも一重にタイの文化財保護行政の欠如にほかならず、タノン・トンチャイ山中やオムコイ山中の墳墓跡盗掘、各古窯址の盗掘が横行し、タイ芸術局が調査した事例は後追いで事例も少なく、産地を特定する資料に乏しいのが、これらの名品と云える壺産地論をさまよえるものとしている。多分今後もこの問題を解決するには、おそかれし体系的な発掘調査であり、永遠の課題になる可能性をはらんでいる。




                               <続く>