<続き>
<陳朝> 14世紀
以下は、パネル展示されていたが、写真に撮ることを忘れたため、西野範子氏の論文から写真を借用して掲載する。現物はキムラン陶磁器・歴史博物館には展示されておらず、貸出中か他の博物館で展示されているものと思われる・・・これは当該HP管理人の勝手な推測。
この2つは、展示パネルによると14世紀後半とあるが、時期的にはもう少し早く14世紀前半から14世紀中頃と考えている。上は鉄絵菊花文大碗で交易陶磁の奔りである。従来ハイズゥオン省チューダウ(Chu Dau)窯で交易陶磁が焼造されていたと云われていたが、キムランがそれに加わることになる。
下の青花鳳凰文盤の見込の主文様は鳳凰文で、内壁の従属文は菊唐草文である。これらの文様は、中世の安南陶磁ではよく使われた文様である。展示パネルでみた染付の発色は、残念ながらよく覚えていない。運筆は精作という程ではないが、上手の部類に入るものであり、この古窯址を発掘した故・西村昌也氏によれば、官窯であったとされている。つまりチューダウと並ぶ代表的な窯場であったことになる。この意義は大きく従来、交易陶磁はチューダウ一辺倒であったが、それ以外にも交易陶磁を焼造した窯や官窯があったことになり、膨大な交易陶磁を焼成した背景が、考古学的にも裏付けられたことになる。
<属明期-後黎朝前期> 15世紀
白磁『官窯』印字盤
蛇の目と呼ぶ、やや太めの釉剥ぎは、耀州窯青磁にみることができ、それに倣っているかと思われるが、何よりも注目したいのは、その見込中央に『官窯』と刻まれている(写真では見辛いが・・・)ことである。これがキムランのバイハムゾン遺跡の窯址で出土したことは、官窯が存在したとする証拠たりうると考えられる。
青花碗
青花 及び 藍釉合子類
上の写真2点は、ホイアン沖の沈船から引き揚げられた陶磁で、参考に展示されていた。キムランで出土した青花陶磁と比較して、見学するには良い企画である。
青花竹葉文仙盞瓶
玉壺春瓶に取っ手と注ぎ口をつけた仙盞瓶で、主文様は岩山から伸びる竹葉文で、裾にはラマ式連弁文が描かれている。。染付の発色は濁りのない、明るく発色した藍色で上手な作行きである。
<黎朝> 16-17世紀
青花碗
青花碗
キャップションには、いずれも青花碗とのみ記されており、何の文様かについては表示がない。上左は円内に雑宝であろうか? 染付は所謂絞り手と呼ぶ滲みをみせ、発色は濁って薄く、文様がはっきりしない。安南青花の絞り手は16-17世紀に編年されているが、時代感は合致している。
青花碗
反転して展示してあるので、見込文様が何なのかわからないが、外側面は菊花に蔓唐草文である。発色は濁りは少ないようだが、やや鮮明さに欠けている。尚、運筆には手慣れさを感じ、手早く描きこまれたものと思われる。キャップションには16世紀と表示されている。
鉄絵正字碗
鉄絵花文盤
上の2点はいずれも17世紀と表示され、左の碗は見込中央に『正』の字が鉄絵により描かれている。この『正』字については、チューダウ窯でも見ることができ、何か意味がありそうである。右は花文としたが、見込中央の二重円圏から七方向に花弁と思われる、突起が描かれている。何を意味するか・・・安南陶磁の素人には意図が読み取れない。
キムランは17世紀に至り、廃窯したようであるが、15世紀までの陶磁に比較し16-17世紀の陶磁は、染付の質は落ち、文様も簡便になり弛緩そのものにみえる。
北タイ陶磁との関連を感じ取れるのか・・・との命題で見学したが、幾つかに関連を認めることができた。それについてはPageを改めて考察したい。
<参照文献>
ベトナムにおける考古遺跡発掘調査の活用例:西野範子国際文化資源学研究センター客員研究員
甦る安南染付・岸良鉄英 里文出版
ベトナムの皇帝陶磁・関千里 めこん
世界陶磁全集16南海 小学館『ベトナムの陶磁』・ジョンガイ
陶説 2001年4月号
ベトナム青花研究ノート・矢島律子
ベトナムの交易陶磁で年代を明らかにできるのは、鉄絵菊花文碗や鉢である。見込に菊花文を釉下鉄絵で描き、底に鉄銹を塗った鉢の破片が、大宰府の観世音寺境内から出土した。出土品は1330年に比定される年紀を有する卒塔婆を共伴しているという。これによって遅くとも14世紀初めに焼造されていることが明らかになっている。
白化粧を施して文様を描き、透明釉をかけるが釉中の不純物のため、淡黄土色のような発色となる。
ジョンガイ氏によると、鉄絵菊花文に様式的に先行する、中国陶磁はみないという。従って安南独自の様式ということになる。
<注>
キムラン社バイ・ハムゾン遺跡は、その下限年代を李朝期(1009-1225)に比定できると云う。
上の写真(金沢大学)は2003年の発掘調査時点の川床遺跡の様子と説明されているが、その後、紅河に流されて、今日では見ることができないと云う。
<続く>