リスタートのブログ

住宅関連の文章を載せていましたが、メーカーとの付き合いがなくなったのでオヤジのひとり言に内容を変えました。

2014年の元旦

2014-01-05 08:50:00 | オヤジの日記
オンボロアパートの庭の段ボールに、野良猫が住み着いている。

勝手に、セキトリと名付けた。

頭のてっぺんの模様がマゲに似ていたからだ。
体格も良くて、ふてぶてしい面構えが、昭和の大横綱、北の湖に似ていた。

我ながら、いい命名だと感心している。

そのセキトリが、庭の段ボールに住み着いて4年が経つ。
つまり、4回目の正月だ。

東日本大震災のときは、18日間行方がわからなかったが、19日目の朝、日課のように段ボールの中をのぞいたら、セキトリが寝ていた。
起こしては悪いと思って声はかけなかったが、その寝姿を見て涙が出た。

野良猫でも、彼は家族だ。


セキトリが住み着いている段ボールには、夏仕様と冬仕様がある。
夏仕様は、普通の段ボールに、小さいビーチパラソルを刺してある。
これで、夏の日差しを遮っている。

猛暑のときは、それなりに暑いとは思うが、完璧に日差しを遮っているので、たまに温度計で気温を測ってみても、滅多に30度を超えることはない。
避暑地ほど快適ではないだろうが、段ボール内で、茹で上がることはないはずだ。

冬は、大きめの段ボールとやや小さめの段ボールを重ねて、段ボールの間に層を作っている。
この空気の層が、温かい空気を溜めて、段ボール内を暖かくしている。
さらに、ブルーシートを段ボールサイズに切って、まわりに貼ってあるから、冬の冷気が入りにくい構造になっている。

段ボールといえども、侮れない住まいだ。

昨年一月の大雪のときは、屋根に大量の雪が積もっていたが、雪に押しつぶされることなく、セキトリは中に敷き詰めた毛布の上で、快適な眠りを楽しんでいたようだ。

私が様子を見に行くと、「なんだよ、おまえ、起こすなよ。せっかくいい眠りを貪っていたのによお」というような目で、私を見上げた。

悪かったな、と言って、昼メシのハンペンのバター焼きを皿の上に置いた。
これは、セキトリの大好物なのである。


今年の正月の献立は、カマボコとハンペンのバター焼きの上に鮭のそぼろを乗せたもの。

これをセキトリは、1分強で食う。
食べ終わると、「ご馳走になったな」というように私を見上げ、その視線を一秒ほど停止させる。
おそらく、感謝の意を表しているのだと思う。

オンボロアパートの2階からは、富士山が見える。
東京武蔵野の外れだが、富士山の稜線が綺麗に見て取れる。

しかし、今年の元旦は、富士山が見えなかった。
それほど悪い天気ではなかったのだが、なぜか見えなかった。

毎年見えるので、損をした気分だ。

セキトリに話しかけてみた。

今年は富士山が見えなかったんだよ。
せっかく世界遺産に登録されたというのにな。

セキトリが「ナー」と鳴いた。

セキトリは、いつも「ニャー」ではなく「ナー」と鳴く。

今回の「ナー」は、おそらく、「そんなこともあるさ」の意味だと思う。
あるいは、「毎回見えていたら、ありがたみがないよ」の「ナー」かもしれない。

もう一度、セキトリが私を見上げて、短い時間見つめた。
目が合った。

今年もよろしくな、と私が言うと、セキトリは目をすぐにそらして、まるで猫のように背を丸め、段ボールの我が家に帰っていった。

お互い、照れ屋だ。
改まったことが嫌いなタチだ。
だから、どうしてもぶっきら棒になる。

まあ、新年の挨拶もしたことだし、よしとするか。
そう思って、私も家に入ろうとした。

すると、段ボールの中から「ナー」という声が聞こえた。

言い忘れた「おめでとう」を言ったのかもしれない。


これで、新年の儀式は終わった。



セキトリにとって、今年がいい年でありますように。