100円ショップには、10年以上行ったことがなかった。
10年以上前のことだが、娘の自転車のベルが壊れたので、100円ショップでベルを買った。
私のも壊れていたが、基本的に私は「ベルを鳴らさない派」なので、ずっと放っておいた。
だが、娘に「おまえも付けろ」と言われて、百円なら、まあいっかー、と思って付けた。
しかし、付けたその日に、ベルの上の部分が2つとも取れたのだ。
私は、世界で2番目に不器用な男なので、私の付け方が間違っていたのだと思った。
だから、また同じものを買って、今度は近所に住む芝浦工大の学生に付けてもらった。
彼は、自分でエレキギターとアンプを作るくらい器用な男だった。
そのイトウ君が、「先生、これ、誰だって付けられる簡単なものですよ。器用な先生が、なんで俺に頼むんですか」と言った。(イトウ君は、私のことを『先生』と呼んで、いつもバカにしていた)
だが、イトウ君に付けてもらった自転車のベルは、私のは次の日に上の部分が落ち、娘のは6日目に取れた。
同じものを4つ買って、同じように上の部分が取れるのは、偶然とは言わない。
「欠陥品」という。
それ以来、私は100円ショップを信用しないようになった。
だが、武蔵野から国立に引っ越したとき、ヨメが速射砲のような勢いで言ったのだ。
「ダイニングのコード類が、ごちゃごちゃしていて、みっともないから、まとめたら!」
パソコン周り、オーディオ、テレビ周り。
たしかに、ごちゃごちゃはしていた。
でも、武蔵野のアンボロアパートでも、ごちゃごちゃしていたはずだけど・・・。
「武蔵野はいいの!
ここは新居で、しかもダイニングは綺麗でしょ。
みっともないじゃない!」
・・・と命令されたので、コード類をまとめるグッズを買うことにした。
今までならホームセンターに行って、頑丈なものを買ったところだが、引っ越しで疲れていたので、長年の方針を変えて、駅前の100円ショップを利用することにした。
娘に、「百円グッズで、ボクの部屋をアレンジするぞ。ロッケンロールな部屋にするからな。一緒に100円ショップに行こうぜ。金はおまえが出すんだ」と脅されつつ、付いていった。
私は千円程度の買い物だったが、娘は3千円以上を買い漁った。
これは、娘にたかられた、というのが正しい認識だろうが、バカ親父は、エヘヘヘと喜んで金を払った。
ダイニングがスッキリした。
娘の部屋も、ロッケンロールに変身した。
満足した二人は、まったく同時に「セキトリを散歩させようか」とハモった。
100円ショップに、犬用のハーネスとリードがあったので、買ってきたのだ。
犬用ではあるが、猫に使ってはいけない、という条例は国立市にはない。
だから、セキトリに付けてみた。
総額216円のハーネスとリードは、元ノラ猫に相応しいものだった。
お似合いです。
セキトリ君。
国立市東1丁目のマンションから300メートルほど離れたところに、小さな公園があった。
そこに、セキトリを抱きかかえて連れて行った。
そして、公園に入ったら地面に降ろして、リードをコントロールしながら、セキトリを自由自在に歩かせた。
これで、運動不足が解消できるはずだ。
セキトリは、とても嬉しそうだった。
リードを嫌がるかと思ったが、ときどき私の顔を確認しながら、まるで猫のようなステップで公園を走り回った。
ワーイ、ワーイ!
タノシイニャーン!
しかし、その喜びは、一瞬で恐怖に変わった。
公園に、ソフトバンクのお父さんに似た白い犬が、入ってきたのだ。
フンギャッ! と言って、セキトリが急にギアをあげた。
セキトリの力は凄まじいものだった。
その突然のギアチェンジに、ハーネスとリードを繋ぐリングが、大きな負荷に耐えきれずに壊れた。
セキトリは、フンギャーーーー! と叫びながら、リードのないハーネスを付けたまま公園の外に逃れた。
本能的に、公園の外に逃れれば安全だと思ったのだろう。
公園の外に出てすぐに、セキトリは冷静を取り戻した。
公園の外から、セキトリが「ナーオ、ナーオ、ナーオ! ガイコツオヤジィー!」と伸び上がるようにして、私を呼んだ。
私と娘が公園の外に出ると、セキトリは、文字通り飛ぶようにして、私の胸に飛び込んできた。
「イエニ、カエローニャー!」
そうだな、家に帰ろうニャー。
100円ショップで買ったハーネスとリードは、もろかった。
家に帰った私は、早速Amazonで1900円のハーネスとリードを注文した。
ブス猫には不釣り合いなくらいの可愛いハーネスだったが、これは値段相応に頑丈だった。
テンション高いセキトリの3回の散歩にもビクともせず、その役割を果たしていた。
「結局は、百円グッズってのは、使い捨てだよな」と娘。
そんなこともあって、また100円ショップが嫌いになりそうな私だった。