先週の日曜日、事情があって、非常識にも朝の7時過ぎに、極道コピーライターの横浜大倉山の事務所に押し掛けた。
ススキダは、すでに事務所にいてくれて、事務所のソファを私に貸してくれた。
毛布も貸してくれた。
そして、気持ち悪いことに、「まあ、ゆっくりと寝ろや」と言ってくれたのだ。
殴ってやろうか、と思ったが、すぐに眠りに落ちた。
起きたのは、12時半頃だった。
テーブルの上には、すでにカツサンドが置いてあった。
「食うか」と聞かれたので、クゥー、と答えた。
いつもならいるはずの実際の年より10歳は若く見える奥さんは、スポーツジムに行っていて不在だった。
極道顔を正面に見てカツサンドを食うのは、私の趣味ではないので、少し席をずらして食いはじめた。
クリアアサヒも用意してくれたので、豪華な昼メシと言ってよかった。
食っているとき、ススキダが「今年もベイが頑張っているから嬉しいよ」と意味不明のことを言った。
ベイ? ベイマックスのことか?
「ベイスターズだ!」
ススキダは、以前は私と同じアンチ・ジャイアンツで特定の球団のファンではなかったが、横須賀から横浜に越してきて、ベイスターズのファンになった。
しかし、それは、プロ野球に興味のない私には、どーでもいいことだった。
だが、無神経なススキダは、勝手に話を進めるのだ。
「去年久しぶりにAクラスに入って、クライマックスシリーズに出たときは興奮したぜ.レイコ(ススキダの奥さん)と一緒に、応援に行ったからな」
クライマッックスシリーズ? はあ?
詳しく説明してくれたが、モンゴル語を聞いているようで、私には理解不能だった。
だから、なに?
「だからさ、トーナメントに勝ち抜けば、3位でも日本シリーズに行けることがあるってことだ」
ほう、ベイスターズは、そんなに強かったのか。
「結局は負けたけどな。惜しかったよ」
3位か。ということはそれなりに勝ったってことだな・・・とススキダの分のカツサンドを横取りしながら、話に付き合ってやった。
「いや、負け越したんだ」
はあ? 負け越したのに、クライなんとかに出られるのか?
負け越したってことは、弱いチームってことだろ。弱いチームが、クライなんとかに出ちゃダメだろ。
「Aクラスは、出られるんだよ。そういうルールだ」
だが、それはおかしくないか。負け越した弱いチームが、もし何らかの奇跡が起きて日本一になったら、ペナントレースを大きく勝ち越して優勝したチームとファンは納得しないだろう。
「それがルールだから仕方がない」
つまり、そのルールを考えた人は、頭が悪いってことだな。小さな可能性を考える頭がなかったのだな。
「しかし、結局は負けたんだから、問題ないだろう。だが、Aクラスに入ったってことは、監督にも選手にも自信がついたと俺は思うぞ。だから、今年が楽しみなんだ。絶対に今年は、いい成績を残すと俺は思っている」
じゃあ、今年は勝ち越しているんだな。
「いや、負け越している」
はあ?
「でも、3位だからな、いま立派なAクラスだ。このままいってくれたら最高だ」
ススキダ。
「なんだ?」
野球ファンって、お気楽だな、平和だな、ノーテンキだな。
「いや、俺には、お前の方が、ノーテンキに見えるぞ」
おまえは、人を見る目がない。
俺は、フォースの暗黒面から生まれた男だ。
俺は、「闇から生まれた闇太郎」なんだよ。
ノーテンキな闇太郎などいないんだ。
・・・と、薄い胸を張った。
ススキダに、鼻で笑われた。
あご髭を毟り取ってやろうかと思ったが、「クリアアサヒ、もう一本飲むだろ?」と言われたので、はい、アリガトウゴザイマス、喜んで、と答えた。
そのあと、ススキダのパソコンを借りて、仕事をした。
帰りは、ススキダの奥さんの運転で、横浜大倉山から東京国立まで送ってもらった。
車内では、ずっと眠っていた。南武線谷保駅のそばまで来たときに目覚めた。
「夏帆ちゃんに連絡しておきましたから、マンションの前で待っているはずですよ」とススキダの奥さんが言った。
マンションの前。
確かに、娘が待っていた。
手を振る姿を見て、目が潤んだ。
ススキダの奥さんに礼を言い、頭を深々と下げた。
娘も下げた。
それから、闇太郎は、家に帰って、普通のお父さんになった。
(娘のツッコミ・・・おまえ、普通じゃないだろ!)