リスタートのブログ

住宅関連の文章を載せていましたが、メーカーとの付き合いがなくなったのでオヤジのひとり言に内容を変えました。

3匹目の孫

2019-02-24 05:22:00 | オヤジの日記

毎年1月になると、大学時代からの友人・カネコの娘ショウコがガキ2人を連れてやって来る。

自分の分とガキ2人分のお年玉を分捕りに来るのだ。

 

しかし、今年は来なかった。

その理由については想像がついたが、私の想像は外れることが多いので、気にしないでいた。

気にしなくなったら、いきなり来た。

ニャンニャンニャンの日の金曜日、午前11時36分。

「ロイヤルホストにいるから来て」という絶対に断ることのできない悪夢のお誘い。

早足で行ってみると、珍しいことに、ショウコたち以外にデブが器用に椅子に座っていた。

芋洗坂係長にしか見えない紅の豚・カネコだ。

「久しぶりだったかな」と言われた。

無視して、ショウコたちにお年玉をあげた。代わりに、ショウコも私の子どたちの分をくれた。毎年の儀式だ。

すると、カネコも何やら小さな封筒2つを私の前のテーブルに置いたではないか。

なんだ、これ?

「お前の子どもたちに、一度もお年玉をあげたことがなかったことを思い出してな」

おまえ、突然いい人になったな。まさか賞味期限が38年すぎた焼き芋を食ったんじゃないだろうな。

「ねえよ!」

 

しかし、俺の子どもたちは28歳と23歳だぞ。今さらお年玉は、おかしくないか。

「今回は年は無視だ。とにかく受け取ってくれ」

あっそう(カネコの気が変わらないうちに高速でバッグに入れた)。ところで、生ビールが飲みたいんだが。

「好きなものを飲み食いしていいぞ。俺の奢りだ」

おまえ、まさか賞味期限が・・・・・。

「食ってねえよ!」

 

カネコ一家は、全員和風ハンバーグを頼んでいたようだ。

私はソーセージのグリルを2つと生ビールを頼んだ。

しかし、なんでカネコがいるのか意味不明。

そんな私の疑問に、ショウコが答えた。

「いつもはサトルさんに無理やり支払わせていたから、たまにはパパが払うのもいいかなと思って」

紅の豚が、嬉しそうに和風ハンバーグとライスを口に放り込みながら、頷いた。そして、ライスのお代わり、パンのお代わり。

豚は、本当に美味そうにメシを食う。本人は100キロは超えていないというが、それは無駄な抵抗というものだ。

 

唐突だが、カネコとショウコの間に血の繋がりはない。ショウコは奥さんの連れ子だった。ショウコは、カネコと私の前に突然6歳の女の子として現れた。

カネコが言う。

「ショウコがいることで、どれだけ俺の人生は豊かになっただろうか。宝物って本当にあるんだな」

その宝物は、大学1年のとき、結婚した。

「ショウコが結婚した」

私はカネコからの電話を大宮駅のホームで受けた。10年前のことだった。

お互い事務的な受け答えだったが、カネコは落胆を隠せず声が震えていた。

電話を切る寸前に、カネコがため息を吐き出すように「幸せになってくれたら」と囁いた。

私も、その電話を受けたあと、駅のホームのベンチで30分以上放心状態のまま、落ちてくる雨粒を見つめていた。

頬にソバカスの浮いたショウコの顔を思い浮かべながら、私も「幸せに」と願った。

 

「サトルさん、ビールがないね。頼もうか」

2人のガキとショウコの笑顔。

カネコと私の願いは、きっと叶ったはずだ。

2杯目の一番搾りを飲んだ。

カネコが孫たちが食い残したハンバーグをかき集めて、口に入れた。また、ライスのお代わりだ。

豚になり上がるのは簡単だ。人の残したものを食い漁ればいい。

 

豚になり上がる前のカネコは、アスリート体系だった。陸上の中距離の選手だったのだ。

カネコは、私が大学3年のとき、新入生として陸上部に入ってきた。

そのカネコは小さい頃から窮屈な人生を歩んでいた。歩まざるを得なかったと言った方がいいかもしれない。

カネコは日本生まれの日本育ちで、ご両親もすでに日本国籍を取得していたが、ご両親ともに韓国生まれ韓国育ちだった。

今の時代、排他的な差別主義者は、いくらでもいる。そして、昔もいた。どこで探ったのか知らないが、同じ新入生の中で、カネコのことを吹聴する学生がいたのだ。それに同調する人もいた。

窮屈に感じたカネコは一年の前期で陸上部を辞めた。

私はカネコの優しさと一途さを愛していたから(え? ホモ?)、辞めたあともキャンパスで見かけると必ず声をかけたし、学生食堂や居酒屋に誘うこともあった(18歳に酒を飲ませたことをここに懺悔します)。

そして、私が大学を卒業する前日に、私はカネコから愛の告白を受けるのだ。

「卒業しても、会いたい!」

 

それから、時は過ぎて、カネコは豚になり上がって、今に至る。

カネコがブタっ鼻で言った。

「妻がいて、子どもがいる。孫もいる。妻と共通の釣りという趣味もある。俺の晩年は幸せだよな、ブヒブヒ」

 

ああ、それに、もう一つ幸せが増えたしな。

 

「ああ?」

 

おまえが言わないなら、ショウコに直接聞いたほうがいいか。

ショウコが、オレンジジュースを飲み干して言った。

「パパ、サトルさんは、お見通しみたいだよ」

またもブタっ鼻が言った。

「なんで、わかったんだ?」

毎年来ていたショウコが正月過ぎても来なかった。理由があると思うよな。俺が考えられるのは、一つだけだった。

お腹の中の子は、まだ3ヶ月前後だろう。ショウコとしては、安定期になったら、俺に報告しようと思っていたはずだ。

だが、ホノカとユウホが「シラガジイジにお年玉をもらいたい」と駄々をこねた。そこで、ショウコの体を案じたおまえが、付き添いとして一緒に付いてきたわけだ。

ショウコが醸し出す空気で、なんとなくわかったんだよな。3人目がいるって。俺もショウコの保護者のつもりだからな。

「驚いたな」とカネコが、鼻をフガフガさせた。

 

5日前に、賞味期限を3週間過ぎたチーズをヤケクソで食っちまったからな。4ヶ月過ぎたキムチも食った。それぐらい、俺の感性はいま研ぎ澄まされているってことよ。

「意味がわからんが」

おまえも食ってみればわかる。

38年過ぎた焼き芋を食うよりは、体にいい。

 

「食わねえよ!」

 

 

ショウコ、マサ(ショウコの夫)、カネコの奥さん、カネコ、おめでとう。