杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

ごはん食で健康になる、その理由

2015-06-23 22:38:00 | 農業

 久しぶりのブログ更新です。昨年暮れから取り掛かっていた本の仕事が大詰めを迎え、心身ともに疲労困憊してました。必死に登ってもなかなか頂上にたどり着けない、霞がかった険しい山道を行くような日々。・・・でも、疲れきるほど仕事できるってありがたいことですね。まだ頂上は見えてこないけど、大きな峠をひとつ越え、タイミングよく別の仕事の完成品が届き、クライアントさんからお褒めの言葉をいただいて、ホッとひと息ついたところです。

 

 さっそくですが、私が全編執筆担当したJA静岡経済連の食の情報誌『S-mail(スマイル)』最新号・お米特集を紹介します。表紙は岡部のゆとり庵さん。萬古焼きの土釜をバックに、磐田産きぬむすめを塩むすびにしてもらいました。

 

 

 内容は、ゆとり庵のごはん炊き職人・植田稔雄さんの“ごはん炊き道”、JA御殿場女性部の山田孝子さん指導の塩むすび・金華豚入り炊き込みご飯むすび・水かけ菜入りチャーハンむすびの作り方、管理栄養士安本美登里さんのごはん食健康講座、袋井のエコファーマー田圃家穂波・鈴木康功さんインタビュー、パールライス袋井工場探訪、静岡県の奨励米の変遷。・・・どれもこれも大変面白い取材で、限られた紙面では書ききれないこともたくさんありましたが、ここでは個人的にタメになった安本美登里さんの健康講座を再録します。

 

 

ごはん食で健康になる、その理由

解説/安本美登里さん(管理栄養士・日本糖尿病療養指導士・JA静岡厚生連 保健医療福祉課 教育指導専任課長)  

 

お米の消費が減って糖尿病患者が増えた

 2013年12月、ユネスコ世界無形文化遺産に登録された和食。ごはんを食べるための汁と菜を組み合わせた「一汁三菜」を基本とする日本食のスタイルが世界から評価を受けました。一方、日本国内では一人当たりの米の年間消費量が過去50年間で半減しており、「ごはんを食べなくても平気」「家に炊飯器がない」という人が増えています。

ごはんを食べる量が減ったということは、一汁三菜の日本食スタイルが崩れたということ。「食が多様化し、豊かになった」と言われる反面、日本食=ごはんを中心に魚、野菜、大豆等の伝統的な食材を摂取することで保たれていた日本人に適した栄養バランスが乱れ、肥満や糖尿病といった生活習慣病を患う人が増加しました。糖尿病の患者数増加は、お米の消費量減少とみごとに符合しています。

 安本さんは転勤前に在籍していた静岡厚生病院で糖尿病問題に関わり、「お米を食べなくなったから糖尿病が増えた」「おかずの量が増え、脂質や糖類の摂取量も増えた」「自動車の保有台数が増え、運動量が減った」等の根本原因に気づきました。現在、各地のJAで組合員向けに料理教室等を開催し、栄養指導にあたる中、ごはんを食べる量が実際に少なくなっていることに驚いたそうです。

 

ごはんを食べても減量できるコツ

「ごはん=炭水化物=高カロリーというイメージが定着しているようですが、ごはんに含まれる炭水化物は脳のエネルギー源となるブドウ糖を供給する大事な栄養素です」と安本さん。脳のエネルギー源として必要な炭水化物量は、1日約130~150g。子ども茶碗約3杯のお米が相当します。ごはんは脂質をほとんど含まず、粒の形で摂るので吸収がおだやか。お腹に溜まると満腹感が長く続き、間食を抑えられるというメリットもあります。

 逆にごはん抜きのおかずだけでは満腹感は得られず、おかずだけをたくさん食べると脂質や糖類など余計なカロリーを摂ることに。安本さんは「ごはん抜きは体重が100kg以上の人には効果的といわれますが、そうでない人がごはん抜きを続けると、一時的に体重が落ちてもリバウンドしやすい体質になる」と警告します。

 安本さんがダイエットに成功した人を調査した結果は以下のとおり。

○     ごはんは減らさない。

○     野菜をたっぷり摂る。

○     食事は腹八分目に抑える。

○     間食は控える。

○     朝、お腹が空っぽ(=体の脂肪が燃えやすい)状態で30分ほど歩く。

 

ごはんは脳のエネルギー源

 一方で、ごはんの炭水化物が脳のエネルギー源になることに着目し、学校給食をはじめ、高校生、予備校生、大学生等にもごはん食の奨励運動が始まっています。ある進学塾のアンケート調査によると、志望校に合格した生徒のほとんどが、朝ごはんをしっかり食べており、朝ごはんをちゃんと摂ることから生活習慣が守られ、受験勉強に万全の体調で臨めたことが立証されました。

 安本さんは高校の栄養指導教室で、進学後に一人暮らしを予定している卒業間近の3年生に自炊する予定があるか聞いたところ、自炊すると答えた生徒はゼロ。毎食買い食いして自活できるのか不安になり、生徒たちにはまずごはんの炊き方を教え、ファーマーズマーケットの野菜を自由に使ってオリジナル鍋づくりを指導。「野菜がこんなに美味しいなんて!」「友だちと鍋パーティーしたい」と喜ばれたそうです。

 別の高校では鍋でごはんを炊いておにぎりにし、味噌汁をダシから取って作る指導も。「仕送り生活で食費を切り詰めなければならないとき、ごはんを炊く習慣さえ身に着いていればなんとかなる。苦手な食材も、自分で作ってみると案外食べる。そんな実感を若い人に伝えたいですね」。

 最近では、海苔とごはんと具材を、サンドイッチのように重ねて折りたたむだけの“おにぎらず”が話題になっています。おにぎりのように成形に気を遣わず、小さな子どもや料理初心者でも簡単に作れるとあって、安本さんの教室でも折に触れて紹介。「和食が世界から認められたのは、日本人の長寿の源、との評価だと思われますが、歳を重ねても要介護にならず、健康長寿で過ごせるよう、若いうちからごはん食の習慣を大切にしてほしい」と力を込めます。(文/鈴木真弓)

 

 

 なおスマイルは県下主要JA窓口かファーマーズマーケットで無料配布しています。鈴木までご連絡いただければ進呈いたしますので、お気軽にメールくださいね! msj@quartz.ocn.ne.jp


静岡いちご「きらぴ香」デビュー

2015-02-01 01:10:26 | 農業

 昨年暮れ、取材に奔走したJA静岡経済連情報誌スマイルの静岡いちご特集号が完成しました。『紅ほっぺ』『章姫』『きらぴ香』と、静岡県で開発された品種の特徴や栽培の難しさや面白さなど、作り手のメッセージを満載した構成になっています。

 私は農業系の取材をすると、味やネーミングや販売先の情報よりも、どちらかというと生産者や技術者の“生んで育てる苦しみとやりがい”に心惹かれ、一般消費者向けの情報誌なのに小難しい解説記事が増えてしまう、というのが悪いクセ。今回もとっつきにくいページが多いかもしれませんが、作り手の顔や声をきちんと伝えることが、小手先のキャッチコピーなんかよりも価値がある・・・とコピーライターらしからぬ?信念を以って制作しました。手にする機会があったらぜひご覧ください。

 注目は、紅ほっぺの誕生以来10年ぶりに登場する待望の静岡新いちご『きらぴ香』。静岡県農林技術研究所の開発チームに取材したページを紹介します。

 

 

光沢ボディに包まれたフルーティーな香りと甘み、

静岡いちご「きらぴ香」デビュー

(解説)静岡県農林技術研究所 野菜科上席研究員 井狩徹さん/育種科上席研究員 河田智明さん/品質商品開発科主任研究員 佐々木麻衣さん/経営生産システム科研究員 菊池佑弥さん

 

『きらぴ香』の特徴

 平成26年(2014)11月、県知事の記者会見で発表された静岡いちごの新品種『きらぴ香』。昨年末から市販も始まり、話題を集めています。今シーズンは県内の限られた生産者による試験栽培で収量は多くありませんが、次シーズン以降、産地が拡大しますので、より身近に味わう機会も増えると思われます。

 『きらぴ香』とはどんないちごか、特徴を分かりやすくまとめると―

①     果実の表面の光沢に優れ、外観がスマート。

②     紅ほっぺより甘く、香りがフルーティ

③     酸味は紅ほっぺと章姫の中間ぐらい。酸っぱさが苦手な人でも大丈夫。

 

 

 生産者や流通業者にとってのメリットもあります。

①     11月中旬から収穫できる。クリスマスに向けた計画出荷が可能な早生品種。

②     栽培管理がしやすく安定した収穫が見込める。

③     11月から5月まで連続収穫でき、収量変動が少ない。

④     紅ほっぺより果皮が硬く、傷みにくい

 

 そして『きらぴ香』という名前は、

○     キラキラとした宝石のような輝き

○     みずみずしくなめらかな口あたり

○     品の良い甘みとフルーティーな香り

 

というセールスポイントを総括し、野菜ソムリエ、大学生、マーケティングアドバイザー、コピーライター、生産者、生産者団体および県関係者等より名称を募集。応募957点の中から「静岡いちご戦略協議会」で候補を決定し、県知事の承認を得て決まりました。

 

 

『きらぴ香』誕生の経緯

 きらぴ香は、正式名が決まるまで県農林技術研究所内では『静岡15号』と呼ばれていました。今も研究所内の試験栽培ハウスでは静岡15号の札が立っています。

 

 平成6年(1994)、研究所では『章姫』と『さちのか』を交配した『紅ほっぺ』を誕生させました。章姫の強みである作りやすさと形状のよさ、弱点だった果皮の弱さと酸味の少なさをカバーし、福岡の『あまおう』、栃木の『とちおとめ』といった県外の強力ブランドに対抗しようと開発された紅ほっぺでしたが、研究所にとって、それはゴールではなく、次なる品種の育種スタートを意味します。

 紅ほっぺの2次選抜が終了した平成8年(1996)、今度は紅ほっぺを親に、さまざまな試験品種を掛け合わせる育種が始まり、試行錯誤を繰り返しました。途中で手ごたえのある有望品種が出来ても、紅ほっぺと比べ、品質面でも生産性の上でも優位かどうか見極めなければなりません。

 紅ほっぺは一般的な栽培で収穫始めが12月中旬とやや遅く、温暖化の影響で収穫始めがさらに遅れることが懸念されています。また収穫の山谷が大きく、最初の摘果が終わって次の花芽がつくまで時間がかかり、収穫期の途中で空白が生じるという欠点があります。香味や形状の良さはもちろんのこと、このようなデメリットを解消できる品種にたどりつくまで足掛け17年、9回目の交配組み合わせにより計28万株の中から誕生したのが静岡15号=きらぴ香です。

 平成21年(2009)、研究所内で誕生した静岡15号は、1年目の選抜で2万分の45の難関をくぐり抜け、2年目には作りやすさをチェック。3年目には収量と品質のチェック。4年目に所内の土耕ハウスと高設ハウスで試験栽培を行なうとともに、3回の品種選抜検討会を開催。圧倒的な支持を受けて選抜され、5年目の平成25年(2013)、県内の生産者5人(高設4人、土耕1人)に実際に試験栽培してもらいました。

 平成26年(2014)には生産者95人(栽培面積5ヘクタール)で試験栽培が行なわれました。県では平成27年(2015)には10ヘクタール、28年には30ヘクタール、平成29年以降は普及拡大時期として100ヘクタール超を目指す予定です。

 

『きらぴ香』の光る個性

 きらぴ香の開発にあたっては、紅ほっぺとの差別化に加え、福岡のあまおう、佐賀のさがほのか等、全国区ブランドに匹敵する個性を意識しました。今までのいちごにはなかったフルーティーな香りと高い糖度の両立です。

 きらぴ香の香りを分析したところ、確認された香気成分は129種類。このうち主要成分35種を抽出したところ、いちご香(Furaneol)やバラ香(Geraneol)に加え、りんごやバナナのようなフルーティーな香りが多く含まれていました。いちごでありながら、りんごのような香りを放つというのは今までの品種にない個性です。

 収穫期間を通して紅ほっぺよりも果皮が硬く、表面はピカピカと光沢があり、形状はスマート。糖度は紅ほっぺと同等以上、酸味は同等以下という結果を得ました。このような際立つ個性を持ったいちごを、静岡県の顔として育て、普及させていくためには、さまざまな努力が求められます。

 九州や北関東のライバル県に比べ、公的研究機関や産地の規模が小さい静岡県ですが、大市場においても付加価値の高さが認められ、キラリと光るいちごブランドを官民一体で育てていきたいと思っています。

 

■問合せ 静岡県農林技術研究所 静岡県磐田市富丘678-1 TEL 0538-35-7211

 <2015年1月発行 JA静岡経済連季刊誌【S-mail (スマイル)】52号より>

 

 

 「りんごやバナナのようなフルーティーな香りで酸が低い」というフレーズを聞いた時、「あら、静岡酵母と同じだ!」と思わず反応してしまいました。考えてみると、章姫→紅ほっぺ→きらぴ香と、静岡いちごの系統はさわやかな香りであまり酸っぱさを強調しない、おだやかで上品な味わい。まさに静岡吟醸と同じで、食べ飽きない。香りや酸味を極端に強調した他県の品種に比べたらおとなしい・・・ってのも静岡吟醸に似ているけれど、「さわやかな香りと調和のとれた上品な味わい」がひょっとしたら静岡県産食材に共通した特徴なのかもしれません。

 取材でお世話になった研究員の皆さんに静岡吟醸の某銘柄をお勧めしたところ、後日、「グラスに注いで香った瞬間、フルーティーな香りがふわっとして、ほのかにアップル感を感じた。大変飲みやすく、女性に好評だった。新品種「きらぴ香」は名前に香が付いているくらいなので、是非とも“香り”を武器に売り込めたらいいなと思う」とメールをいただきました。 

 異分野同士のこういう愉しみ方を、開発者や生産者レベルで共有できると面白いなって思います。

 

 スマイルは県下主要JA、ファーマーズマーケット等で無料配布中ですが、ご希望の方にはスズキから進呈しますのでご一報くださいませ!


いちご畑から思いを込めて

2014-12-10 10:07:22 | 農業

 この年末は静岡県内のいちご生産現場を取材しています。「旬のいちごが試食できていいねえ~」と思われるかもしれませんが、農業生産者や技術者への取材というのは、見た目ほど楽ではありません。現場の皆さんは収穫の時期に向けて、一年がかりでさまざまな準備をされています。取材者は最後の一番オイシイ部分だけを一部分切り取って見るしかない。一般消費者向けの読み物ならば、オイシイ部分をわかりやすく、それこそキャッチーなフレーズやコピーで伝えればよいのかもしれませんが、生産者や技術者が一年間どのような努力を重ねてきたのか、彼らの人生を賭した仕事を軽い言葉でひとくくりにしちゃっていいのか、年齢をとるごとに重く考えてしまうようになっています。

 

 シンプルな言葉の裏側に、ひとつぶのいちごに賭ける思いの深さを感じさせる・・・そんな文章表現ができるライターになりたいと願いつつ、いつまでたっても成長しない自分にイラつきます。優秀ないちご生産者は唯我独尊にならず、技術コンサルの指導に真摯に耳を傾け、生産者仲間の芽揃い会や品評会等で厳しく吟味してもらうと聞きました。自分も、とにかく書いたものを人に読んでもらい、厳しく評価してもらうしかありません。

 以下は、2009年年末、JA静岡経済連技術コンサル渥美忠行さんにヒヤリングをして書いた『紅ほっぺ』の解説記事です。5年前の取材ですからデータや内容は様変わりし、今期の取材では『紅ほっぺ』の後継品種『きらぴ香』が登場します。それでも、生産現場をつぶさに廻り、指導する渥美さんの姿、渥美さんの言葉を真剣に聞く生産者の姿が伝わればとの思いを込めて書いた記事、ぜひ厳しく吟味していただければ、と思います。

 

 

 

「紅ほっぺ」を生んだ静岡県のいちご栽培

解説/JA静岡経済連 みかん園芸部野菜花卉課 技術コンサルタント 渥美忠行さん

 

静岡県は日本有数のいちご産地

 静岡県のいちご生産額は約100億円で全国第5位(平成19年農林水産省統計・表参照)。高設栽培(高い位置にプランターを設置したハウス栽培)の収穫量では全国トップクラスを誇る、日本有数のいちご産地です。

順位

1位

2位

3位

4位

5位

6位

栃木県

福岡県

熊本県

佐賀県

静岡県

愛知県

産出額(億円)

268

175

123

102

100

99

(平成19年農林水産省農業所得統計より)

 

 静岡県内には約1800人のいちご生産者がいて、平野部から中山間地までさまざまな条件のもと、日々、良質のいちご作りに努めています(JA静岡経済連管轄のいちご農家は約1300人)。生産者の高齢化は、農業全般の課題にもなっていますが、最近では新規就農希望者が少しずつ増えています。

 

 平成21年は県のニューファーマー育成支援制度に30人の応募がありました。年代は20~40代が中心です。この制度の利用者は1年間、農業経営士の資格を持つ生産者のもとで研修を受け、独り立ちします。中でもいちご作りを希望するニューファーマーの割合が多く、いちごは農業経営の柱になり得るという認識が広がりつつあります。

 

いちご作りはマラソンと同じ

 いちごの出荷の時期は冬から春先にかけてですが、生産者は夏~秋も大変忙しく、気を緩めることなく栽培に取り組んでいます。いちご作りで最も重要な作業のひとつに夏場の苗作りがあります。いちごの苗は暑さに弱く、育苗の際は25℃以上にならないよう温度管理することが必須。夏バテしてしまった苗は、人間同様、体力を消耗し、老化が早く進んでしまいます。

 春の収穫が済んで、梅雨~真夏になってもビニールハウスをかけっぱなしにすると、ハウス内の土は雨に当たらず、蒸し風呂状態の中で過乾燥になり、苗が土の奥までしっかり根を張れず、いい実が育たなくなります。優秀ないちご農家は、苗作りのスタートから苗の体力を考え、土壌のケアにも余念がありません。結果的に病気の少ない、植え付けの根張りのよい、健康的な苗になるのです。

 いちご農家はマラソンランナーと同じで、<前半で力を温存し、後半で後方グループから挽回する>なんてことは不可能です。最初からきちんと先頭グループで走ってレースコントロールをしなければゴールは切れない、と言えるでしょう。

 

 

「紅ほっぺ」にかける思い

 静岡県では県内全域でいちごを作っています。栽培条件は各地域さまざまで、たとえば富士山麓の御殿場や裾野あたりでは平野部より夏は涼しく、苗が早く育ち、出荷も早いが、真冬は燃料コストが余分にかかる。伊豆や志太地域は平地が多いが水田地帯で水の管理に気を遣う。遠州地域は砂地が多い。石垣いちごで知られる静岡市の久能海岸や伊豆南部は段々畑が多い…等。私たちは各地域の優秀ないちご農家の作り方を検証しながら、他の農家にアドバイスを行っています。

 そんな中、登場した『紅ほっぺ』は、それまで「どんな条件でも作りやすい」と言われた『章姫』に慣れていた生産者にとって、少々手間のかかる品種でした。

 「大粒なので、色がつくのに時間がかかる」「気温が高いと追熟が早まり、色がのり過ぎて見た目が損なう」「なかなか形がそろわず、パック詰めも難しい」など等、当初は戸惑う農家も多かったようですが、JA伊豆の国市やJA遠州夢咲等、いちご栽培先進地の、地域を挙げての努力の甲斐あって、「こんなに味のいいいちごは他にない」「色も形も素晴らしい」と市場から高い評価を得ました。

 現在、『紅ほっぺ』の栽培面積は、全体の82%を占めるに至っています。急速に浸透したのは、生産者の栽培技術の向上はもちろんのこと、『静岡県いちご協議会』『しずおか紅ほっぺブランド推進実行委員会』等、県内の関連組織挙げてのバックアップが奏功したため。それだけ『紅ほっぺ』といういちごは、多くの作り手や売り手を魅了し、ブランド化への思いを熱くしたのでした。

 私たちは、『紅ほっぺ』という品種を得た恩恵を存分に生かし、静岡県のいちご生産のますますの発展と後継者へのバトンタッチに尽くしていきたいと思っています。

 

<2010年1月発行 JA静岡経済連季刊誌【スマイル】42号 静岡いちご特集より>


静岡県の高糖度トマト

2014-07-01 07:18:40 | 農業

 JA静岡経済連発行の情報誌【S-mail (スマイル)】51号が完成しました。今回は高糖度トマトの特集。「アメーラ」「待ってたトマト」「スイートピュア」など話題のブランドトマト生産者たちにImg105 インタビューし、“勝てる農産物”“後継者が育つ農産物”とは何かをさぐってみました。

 

 限られた紙面ですべてを紹介しきることは不可能ですが、静岡県でお茶、みかん、メロン以外に国内外で競争力が期待される高糖度トマトの可能性を、ぜひ汲み取っていただきたいと思います。県下主要JAや農産物直売所(ファーマーズマーケット)等で絶賛、無料配布中です。

 

 

 

 ここでは静岡県の高糖度トマト栽培の歴史や特徴を、専門家に解説してもらった【スマイルマイスター】のページを紹介します。

 

 

 

日本一の品質と信頼を誇る、静岡県の高糖度トマト

 

解説/JA静岡経済連 みかん園芸部野菜花卉課 技術コンサルタント  永嶋 芳樹さん

 

 

 

品種は同じでも通常のトマトより+2度~の糖度

 

高糖度トマトはかつて「フルーツトマト」「濃縮トマト」といった呼び方をされていましたが、現在では「高糖度トマト」と呼ばれることが多いようです。品種は現在主流の〈桃太郎〉系統で、通常に作れば糖度は5度前後。これに特殊な栽培を施し、糖度を7度以上にしたものを「高糖度トマト」として流通しています。

 

Photo 高糖度にする特殊な栽培方法とは、簡単に言えば、水や肥料を制限し、硬く引き締まって濃縮した実にするということ。トマトの原産地南米アンデス地方の冷涼・少雨の高地に近い環境で、トマトが持つ本来の甘味を引き出す方法です。

 

日本のトマトは土に直接植えて育てる土耕栽培が主流ですが、水やりをコントロールする高糖度トマトの場合、土耕ではきめ細やかな調整が難しいため、機械でコントロールでき、季節に関係なく一年中出荷可能な水耕栽培にシフトしています。静岡県はこの水耕栽培の先進県なのです。

 

 

 

 

静岡県で開発されたワンポット方式

 

 気候温暖で日照時間に恵まれた静岡県は施設園芸発祥の地と言われ、温室メロンやハウスいちごのように質の高いハウス作物を生産しています。トマトを周年収穫する技術もいち早く確立し、盛夏8月を除く11ヶ月間、ミニトマトから中玉、大玉、高糖度トマト等、あらゆる品種を作っています。

 

Dsc04204 静岡県農業試験場(現・農林技術研究所)では平成2年からハウス内で作物の糖度を上げる技術開発に取り組み、平成4年、一般の水耕栽培に使用する養液よりも濃い培養液を開発。平成5年には培養液をひと鉢ごとに点滴注入するワンポット栽培方法を開発しました。水はけのよい育苗用ポットを野菜作りに初めて採用し、排水しても根はポット内にしっかり留まるようにしたのです。

このシステムを見学した掛川市の石谷昭さんと浅羽町(当時)の前田保雄さんが平成6年、自園ハウスで試験導入し、食味の優れた高糖度トマト栽培に成功しました。

 

その後、県内各地で養液ワンポット栽培に挑戦する生産者が増え、平成8年には静岡県養液濃縮トマト研究会が結成されて技術交流を図るなど、生産者の意識も高まり、各地でブランド化が進んでいます。

 

 

 

ハイレベルな静岡県のトマト生産者

 

高糖度トマトは水や養液の投与をいかにコントロールするかにかかっています。

 

トマトは水を切らすと、当然、上のほうに実った玉ほど水が薄くなり、糖度が上がります。メロンのように優れた実を一つだけ採るのであれば見極めも容易ですが、高糖度トマトの場合、栄養成長(葉や茎を伸ばす)と生殖成長(実を付ける)のバランスを見極め、ある程度の数量をベストな時期に収穫しなければなりません。

 

Dsc04194 静岡県の生産者は、葉や茎をほどほどに成長させ、同時に上手に水を切らして糖度を3段階ぐらいに分けて上げる―その難しいバランス加減を得意としています。

他県で導入された養液栽培では、量産を目指して大型ポットを導入しているものが多いようですが、静岡県では小型ポットでひと鉢ごとにきめ細かく管理。手間はかかるものの、栄養成長と生殖成長のさじ加減をしっかり取っています。

 

努力が奏功し、静岡県の高糖度トマトの糖度は平均8度とハイレベルで品質も安定しており、市場では現在、高糖度トマトでは量・質ともに日本一の折り紙を得ています。

 

 

 

ブランド競争に打ち勝つために

 

Dsc04308 現在、手間を擁する水やりの完全自動化に向け、さらなる技術開発に取り組む高糖度トマト生産者。機械工学はもちろん、設備投資に必要な経営管理、圃場拡大のために必要な農地管理法や、生産工場化に必要な水利関連の知識など、総合的な技術開発と情報収集が求められます。

 

小さな産地でもブランド競争できるだけの力を持つ高糖度トマト。産地間競争に打ち勝つための環境整備に向け、JA組織もバックアップ体制を整えていきます。

 

 

 


スマイル50号 特選和牛静岡そだち特集

2014-01-27 09:16:56 | 農業

 今年年頭の記事でも紹介しましたが、昨年末、JA静岡経済連の情報誌『スマイル』50号がImg070
発行され、全編、特選和牛静岡そだちを特集しました。

 

  あらためて、「特選和牛静岡そだち」を紹介すると―

 

◇素牛(子牛)は黒毛和種の雌牛。きめ細やかで柔らかく、サシが入りやすい。

 

◇飼料は以下をバランスよく与える。

 ○配合飼料・・・大麦(牛を成長させる)、トウモロコシ(肉に甘みを与える)、オリジナル飼料クイーンビーフ(企業秘密)

 ○粗飼料・・・牧草チモシー(ビタミン豊富で高カロリー)、良質の稲藁

 

◇飼育では牛にストレスを与えず、換気や衛生管理に万全を施した環境で、同じ肥育マニュアルと飼料給与を遵守。

 

◇以上を守って生産した牛肉のうち、肉質等級3等以上で、JA静岡経済連の肉質認定員が認めたもの。

 

この条件をクリアするのはかなりのハードルだそうですが、今のところ、県下で認定農場28戸で2238頭、委託農場11戸1728頭が飼育されています。こちらの農場リストを参照してください。

  この静岡そだちの美味しさを、私がインタビューした廣澤直也さん(レストランプロデューサー)が的確に解説してくれました。

 

 

 初めて「静岡そだち」を食べたときのことは忘れられません。全国津々浦々、さまざまなご当地牛肉を食してきた自分にとっても、ビックリするような美味しさでした。香りと旨味があり、加熱した際の融点が低いので短時間で脂分がとろけてくる。脂も上質ですから、胃にもたれず、箸が進みます。

 

 

「本当の肉の美味さは、鼻で味わう」というのが私の信条です。静岡そだちは、とくに、口から鼻に抜ける上品な香りが素晴らしい。「この肉なら、あれこれ小細工せずシンプルに、肉の味そのものを堪能できる食べ方がいいだろう」と直感できました。

 

静岡の焼肉店では、タレ焼きが主流のようです。対抗して新たなタレを創作したとしても、地元の人々が慣れ親しんだ老舗焼肉店のタレにはかないませんし、静岡そだちの肉質を味わうには、タレよりもむしろ、塩やワサビのほうが合う。幸い、静岡はワサビの特産地。必要量をすぐに調達できるというのは他県にない静岡の強み。これを活かさない手はありません。<スマイル50号特選和牛静岡そだち特集P5より抜粋>

 

 

 

 今回の特集で全面的に紹介したJA静岡経済連直営店『駿府の肉処静岡そだち』では、静岡そだちをまるごと1頭仕入れるので、シャトーブリアン、ハネシタ、ミスジ、トモ三角などなかなか口にできない希少部位にもお目にかかれます。

 

 ・・・といっても、焼肉店にめったにいく機会のなかった私には、「サーロインってどこの部位?」ってな素人質問しか出来なかったため、経済連のほうで次のようなシートを作ってくれました。

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 駿府の肉処静岡そだち、JAグループの総力を込め、食材や地酒もオール静岡産&お手ごろ価格で楽しめるため、昨年末は予約がとれないほど盛況でした。

 JA静岡駅から県庁へ向かう御幸町通り、江川町交差点角という、繁華街から少し離れた官公庁街で、土日のランチなら空いているかも、と、先週土曜日に友人とランチに行ったときも、表に目立つ看板がないのに満席状態。ランチメニューでは一番お高い3000円の特選焼肉ランチを頼んだ友人は「この内容なら安い安い」と大満足で、夜、家族で来たい!と喜んでいました。

 

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 私が頼んだのは1200円の焼肉Aランチ(写真)ですが、静岡そだちカルビ&モモもさることながら、静岡県産金豚王が甘く柔らかい絶品豚肉でした。野菜や果物も県産野菜オンリー。これでドリンク付きで1200円はかなりの値ごろ感がありました。

 

 

 

 

 さて、スマイル50号では巻末で静岡そだち500gが当たる読者プレゼントを実施中です。今週末1月31日(金)が締め切りですので、ふるってご応募くださいね!

 

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