杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

裾野の富士山資料館

2013-05-02 09:40:50 | 社会・経済

 富士山の世界文化遺産登録がほぼ決定となりました。長年、世界遺産登録への過程を取材してきた身としては、ホッとしたというのが正直な気持ちです。

 

 

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 今まで富士山が日本代表の世界遺産じゃなかったというのが不思議、という日本人も多いと思いますが、今まで時間がかかったのは、西欧が作った規格や条件に合わせるための“登録申請書づくり&プレゼンテーション”に要した時間、ともいえるかもしれません。

 自分たちの固有の文化や価値観を海外の異文化の人々に、いかにツボを押えて伝えるか・・・海外生活の経験のある人には、ひとつやふたつ、苦労話があろうかと思います。これを、ユネスコを舞台に繰り広げてきた、壮大な異文化圏同士のかけひき、なんですね。

 

 

 と同時に、オリンピック招致問題でもそうですが、未だに、なんでもかんでも、西欧が作ったグローバル基準に合わせなければならない現実を痛感します。日本は、基準に合わせるばかりでなく、基準を作る側にならなければ、真の先進国とは言えないのでは、とも思います。文化とか思想といったジャンルは、東洋の価値観をもっと大事にして、これを世界基準にしていくぐらいのイニシアティブを取って欲しいと思うのですが、中国や朝鮮半島とゴチャゴチャしているうちは無理でしょうか。

 

 今朝のネットのニュースでは、奈良国立博物館と九州国立博物館が企画した「百済展」が、韓国では(展示物が返ってこなくなる恐れがあるとかで)開催取りやめになったと伝えていました。残念極まりません・・・。

 

 

 

 

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 それはさておき、GW前の4月20日(土)、中日新聞朝刊広告特集で富士山周辺の観光レポートを書きました。この取材で、4月初旬、初めて訪ねたのが、富士山資料館(裾野市須山)。市営のコンパクトな博物館ですが、4年前にリニューアルしてとてもきれいで観易く、宝永の噴火に関する史料も揃っていました。

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 撮影はNGでしたが、専門絵師が描いた緻密な古地図(複製)や、須山村の土屋伊太夫が書き残した『富士山宝永の噴火事情書』(実物)は、大地震が数日間続いた後、大噴火を起こし、「茶釜や大きな天目茶碗ほどの大きさの火石が飛んできた」「5尺(1.5m)の砂が積もった」等など、人々が驚愕する姿をリアルに伝えています。ちょうど取材した日に現代語の読み下し文パネルが完成したと、館長さんが丁寧に説明してくれました。

  

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 展示物で
印象的だったのが郷土館の民俗資料。よくある昔の農機具や懐かしい民具の展示ながら、きちんと保全されていて解説もていねいで、すぐにでも使ってみたくなるようなモノばかりでした。こういう展示物にハマるなんて、年齢を食った証拠かな(苦笑)。

 

 

 

 静岡県では富士山をテーマにした一大ミュージアムを作る計画があるみたいですが、こういう、小粒ながらキラリと光る既存の資料館・博物館を各地で充実させて、巡回できるようなしかけを考えてもいいような気がします。

 富士山資料館、須山の陸上自衛隊演習場に隣接し、時折、地響きを起こすような砲弾の音にビックリさせられますが、機会があったらぜひ一度訪ねてみてください!

 

 

 

 

 

 

 


「ほこ×たて」富士山写真募集

2013-02-21 22:15:05 | 社会・経済

 2月23日(土)は富士山の日。今年は土曜日なので、各地でいろんなイベントが予定されています。ちょうど、23日の中日新聞朝刊に掲載予定の富士山の日特集の記事を書き上げたところ。その中から、すでに他の媒体等で公開されている面白い情報を先取り紹介しましょう。

 

  

私はふだん、あまりというか、ほとんどテレビのバラエティ番組の類を観ないのですが、フジテレビ日曜19時の『ほこ×たてだけは別。お互いに最強を名乗る者同士が闘ったらどちらが勝つかを対決実験するもので、「ぜったいに穴が開かない鉄板vsどんなものにも穴を開けるドリル」とか、「JAL社員vsJAL飛行機オタクのクイズ対決」とか、「メロン作り名人vsサンプル作り名人のニセメロン見分け対決」とかリアルな矛盾対決に毎回ワクワクさせられます。

 

以前、静岡県と山梨県から撮った富士山写真を5点ずつ比較し、先入観を持たない外国人やアーティスト等が、どっちが美しいかをジャッジする対決がありました。確か、残念ながら静岡県側(富士宮の観光協会だっけ?)は負けたと記憶していますが、再対決、ということで、2012年51日から13430日まで県内から富士山を撮影した写真を、なんと、県が窓口となって募集しているのです。

富士山の世界文化遺産登録を間近にひかえ、盛り上げるためには民間のバラエティ番組企画だろうとナンだろうと、利用できるものは利用する!って感じなのかな(笑)。応募要項は県庁文化・観光部交流政策課(こちら)に確認を。問合せ?054-221-2540<o:p></o:p>

 

 

 

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この企画に連動し、エスパルスドリームプラザ(静岡市清水区)では23日、観覧車ドリームスカイを無料開放し、「ドリームスカイから富士山を撮って『ほこ×たて』に応募しよう」キャンペーンを実施するそうです。

 

観覧車の頂上、地上高52メートルから楽しむ“平成の富士見”、別に「ほこ×たて」に応募しなくても、ただ観にいくだけでもいいっすよね。カップルやファミリーでにぎわいそう!ま、パートナー不在の自分には関係ないけど(苦笑)。詳しくはこちらを。問合せ?054-351-5020<o:p></o:p>

 


日本初の更生保護施設~静岡県勧善会

2012-09-12 14:51:10 | 社会・経済

 静岡市の金座町にある『金座ボタニカ』。昭和の古い社員寮をシェア1
オフィスに改装したユニークな施設として、過去ブログでも紹介し(こちらを参照)、しずおか地酒研究会でも地酒サロン(こちらを参照)を開催させてもらったことがあります。

 

 

 そのボタニカの下山晶子さんから「静岡大学の小二田誠二教授と『誰も知らないほとんど知らない静岡研究会』という会を始めたとご案内をいただき、9月9日(日)14時から開かれた『誰も知らない殆ど知らない静岡研究会・社会文化セッション~静岡刑務所と更生保護施設の人々』に行ってきました。曲金にある更生保護施設・静岡勧善会の施設長で保護司の近藤浩之さんが、一般に知られていない受刑者更生施設とそこで自立訓練を受ける人々について貴重なお話をしてくださいました。

 

 静岡勧善会という保護施設の存在、恥ずかしながら今まで知らず、近藤さんから施設の成り立ちについて伺い、ああ、これは静岡市民が知らなきゃ恥ずかしいなあと痛感しました。

 

 

 

 更生保護施設というのは刑務所を出所した人の社会復帰のため、明治21年(1888)、民間でスタートした施設。全国に101カ所あるそうですが、明治21年に日本で初めて出来たのが静岡県出獄人保護会社。設立したのは旧中津藩士(大分県)の川村嬌一郎。スポンサードしたのは天竜川治水や北海道開拓で知られる金原明善です。

 

 

 川村嬌一郎は西南戦争にかかわった政治犯として、同志だった旧土佐藩士・岡本健三郎とともに静岡刑務所(=明治3年に井宮に「未決囚獄舎」として設立)に収監されました。

 

 明治13年(1880)に出所後、自ら刑務所員となって所内で説法活動をするなど、入所者の更生に尽力し、その功績が認められ同刑務所長に就任します。静岡刑務所は、今は初犯受刑者用ですが、当時は初犯も再犯も一緒くた。なんとか再犯を防ごうと、受刑者一人ひとりに親のように親身になって世話をしたそうです。刑場まで付き添う教誨師の制度も彼が始めたものでした。

 

 ある受刑者が15年の刑期を終えて遠州の故郷に戻ったのですが、実家には居場所がなく、警察に相談に行っても相手にされず、将来を悲観して入水自殺を図り、川村のもとに遺書が届きます。出獄人(出所者)が社会復帰するための更生保護の必要性を痛感した彼は、静岡県出獄人保護会社を設立することに。このとき出資したのが、明治政府で大蔵省役人になっていた岡本健三郎と天竜川治水事業の予算交渉をしていた金原明善だったということです。

 

 

 

 静岡県出獄人保護会社は日本で最初に形余者の保護事業を担い、現在の保護司制度の原点ともなった施設。これが、現在の「静岡県勧善会」の前身です。同様の施設は国内でいっとき、200以上も誕生しました。アメリカではロックフェラーやアイゼンハワーのような巨大財団のスポンサードによって運営される更生保護施設ですが、日本ではスポンサーどころか地域での理解を得るのも困難。今では101カ所に減ってしまったようです。

 

 

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 祖父、父と3代にわたって保護司の職を担い、静岡県勧善会の施設長を務める近藤さん(写真左)。現在は23人の入所者と生活をともにしながら、彼らの社会的自立をサポートしています。入所者の多くが、家庭の暖か味を知らない不幸な生い立ちを持つため、ご自身の家族も含め、家族的な雰囲気で接することを心掛けておられるそうです。

 「オレオレ詐欺を働く若者のほとんどが、身近におじいちゃんおばあちゃんがいない家庭環境だった。お年寄りをだますことが悪い、という自覚が持てない彼らも不幸です」と近藤さんは言います。

 

 

 

 23人は、早朝、施設周辺の道路清掃をした後、土木作業員や工場作業員等の仕事に出掛けます。静岡県は中小の製造業企業が多く、事情を知った上で雇用してくれる面倒見の良い“協力雇用主”も多いそう。彼らを、元受刑者という色眼鏡で見るのか、人として同じ目線で接してくれるのか、彼らは敏感に感じます。近藤さんは「彼らを立ち直させるのは、環境に他ならない。環境次第でいくらでも更生できます」と力を込めます。

 

 

 

 近藤さんのような民間更生施設の努力にもかかわらず、全国的に見ると、刑期を終えても5人中3人が職に就けず、再犯を繰り返しているとのこと。出所後に行き場のない人のため、国が処遇困難者用の宿泊施設を京都、福岡、福島に設置しようとしたところ、京都と福岡は地元住民の反対に遭い、結局、設置できたのは福島1カ所のみだったそうです。

 

 

 一方で、全国には民間運営の刑務所が4カ所出来て、向こう10~15年分の予算も付いているそう。モデルケースになるため問題が起きてはいけないということなのか、この4つの刑務所には、全国の刑務所の中から“優良な受刑者”が選抜され、集められたんだとか。・・・いろいろな改革を始めるうえで、そうすることもやむをないのでしょうが、つくづく、明治時代から地域で地道に尽力してきた民間の更生保護施設の人たちが気の毒だ、と思います。

 

 

 

 とにもかくにも、静岡市にそういう施設があって、日本の更生保護史のトップランナーだったということ、市民のハシクレとして心に留めておかねばと実感しました。

 素晴らしい講座を企画されたボタニカさんと小二田先生に感謝いたします。


「たまらん」蕎麦特集号発行

2012-08-05 09:18:44 | 社会・経済

 フリーエディター「タマラプレス」の平野斗紀子さんが発行する『たまらん』の最新号が出来上がりました。今回の特集は蕎麦。県農林技術研究所で耕作放棄地対策として蕎麦の活用を提唱する稲垣栄洋さん、手打ち蕎麦たがたの田形治さんのインタビューを中心に、静岡在来種の蕎麦の可能性を紹介しています。新蕎麦シーズンを前に、タイムリーな読み物ですね!

 

 第二特集は有東木地区の紹介。国重要無形民俗文化財の『有東木の盆踊り』が8月14・15日に行われるのに合わせた企画です。わさび栽培発祥の地としても知られる有東木の山里の魅力、静岡市民ならもっとちゃんと知っておきたいですよね。

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 私は有東木の盆踊りに行ったことがないので、ぜひ行きたいと思ったのですが、実は今日5日から20日まで、平野さんと一緒にアメリカ・アリゾナ州の旅に出掛けます。目的は、アリゾナ州のナヴァホ・ネイション(ナヴァホ族居留地)の病院で麻酔看護師として働いている私の妹のところ。妹の仕事や赴任先に興味を持った平野さんのリクエストで行くことになりました。

 

 妹夫婦は大型バス並みのモーターハウスをころがし、愛犬の柴犬2匹と猫3匹を連れて全米各地を旅して回る超アウトドア派。私とはまるで正反対のライフスタイルなんですが、日本とは比較にならない広くて厳しくて多様な国土の中で、異なる民族同士がどう折り合いを付けて生きているのか、興味はふくらみます。ラスベガスから、グランドキャニオンやモニュメントヴァレーを回りながら、ニューメキシコ州との州境にある妹の家~サンタフェやアルバカーキーまで足を伸ばす予定。どんな珍道中になるかわかりませんが、通信環境がよければ当ブログで旅のレポートを発信しますので、お楽しみに!

 なお、『たまらん』は戸田書店静岡本店、静岡谷島屋呉服町本店、吉見書店竜南店ほか市内協力店で1部100円で販売しています。ぜひご覧ください!


たまらん第5号発行

2012-05-27 14:47:23 | 社会・経済

 広島・京都たびの報告は小休止。昨日(26日)、タマラプレス平野斗紀子さんの自主制作新聞『たまらん』の5号目が発行されましたので、お知らせします。

 

 今回の特集は市民の足・街中のバス事情。脱クルマ社会のライフスタイルとして、静岡市の公共交通網の顔であるしずてつバスを取り巻く環境や、利用者側の意識の変化などを丁寧に解説してくれています。

 第2特集は、藁科川の奥、大間の里の紹介。平野さんがGW中に縁側お茶カフェをいとなむ里の人々を訪ねています。

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 街ネタと里ネタをバランスよく配置した「たまらん」5号、昨日は出会った知り合いに配って、大いに関心を持ってもらいました。地域をよくしようと頑張っている人ほど、「たまらん」の姿勢をすんなりと理解してくれるんですね。そういう姿を間近に見て、自分も大いに刺激をいただきました。

 

 

 

 平野さん、独りで創るって本当にしんどいと思うけど、確かなリテラシーを持った読者が着実に増えています。次回も期待しています!

 

 なお、「たまらん」は戸田書店静岡本店、静岡谷島屋呉服町本店、吉見書店竜南店等で1部100円で販売中。問い合わせはタマラプレス平野斗紀子さんまでどうぞ。

メールアドレス → tamara@iris.ocn.ne.jp