杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

新米三昧!

2008-09-19 22:15:03 | NPO

 今日はお昼にNPO法人活き生きネットワーク理事長の杉本彰子さんを、岡部町のごはん処・ゆとり庵にご案内しました。いただいたのは、森町の究極のコシヒカリ新米。4年前の浜名湖花博の地酒テイスティングサロンで、かの料亭青柳の小山料理長とコラボしたとき、静岡一うまい米を用意してほしいと頼まれ、手を尽くして取り寄せたのが、このコシヒカリでした。新米が出回るひと月足らずで売り切れてしまい、私も実際いただくのは4年ぶり。プロのごはん炊き職人の手によってツヤツヤと炊き上がった新米は、口中でほんのり甘味が広がり、適度な粘り気もあって、おかずや箸休めもまったく要らないほど。彰子さんは2膳、私は3膳、夢中でおかわりしてしまいました。肝炎治療中の彰子さんは「ごはんをおかわりするのは何年ぶりかな」と自身の食欲にビックリしていました。

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 夜は、店頭で売っていた塩むすび3種(静岡産なつしずか、磐田産こしひかり、会津産こしひかり)の食べ比べをし、品種の違い、産地の違いが、塩だけで食べることでさらに顕在化することを実感。おいしく炊けた米は冷めてもうまいことも、よ~く解りました。「米だけでも、これだけ奥が深いんだものね、真弓ちゃんが酒にこだわる気持ちもよく解るわ」と彰子さん。

 

 彰子さんをごはんランチにお誘いしたのは、活き生きネットワークが運営するケアハウス「喜楽庭」で、障害を持つ通所者の方に仕事の機会を与えたいと、かねてからおにぎりかお弁当の製造販売を考えていたから。NPOの収益事業、とりわけ飲食の商売は難しい面も多いようですが、どうせやるなら、働く人々が自信と誇りが持てるようなものを作ってほしい・・・そんな思いからでした。

 

 

 プロが厳選した米を釜で炊き上げるゆとり庵と同じレベルの商売は、もちろん不可能です。それでも「まずは高齢者さんや障害者さんに食べさせてあげたいわ!」とお土産に何パックも買い求める彰子さんを見ていたら、いいモノ、おいしいモノを観て味わって心がはずむ・・・そんな体験が、人が生きていくにはホントに大切だなって思いました。商売につなげるにしても、作り手自身がいいモノの価値を実感して、「自分も作ってみたい、お客さんを喜ばせたい」という気持ちになることが出発点じゃないかと。

 

 

 

 ここ数日、テレビで北京パラリンピックを観ながら、オリンピック以上に感動してウルウルしています。高い目標を目指し、自らの限界に挑む彼らは、健常者と何ら変わりのない一流のアスリートであり、健常者の指導経験のあるコーチが手を抜かず、トコトン指導しています。活き生きでも、挑戦するなら高い目標を持って、ホントにおいしいもの、長続きするものに取り組んでほしいと思います。

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 さて、過去ブログでも紹介したとおり、来週27日(土)から11月3日(月・祝)までの約1ヵ月間、島田市お茶の郷博物館で、松井妙子先生の染色画展が始まります。染色作家生活32年の中から、厳選した40点が再結集。松井先生の分身ともいえるフクロウ、カワセミ、魚などをモチーフに、自然や生き物や故郷への賛歌を温かく謳い上げる作品ばかりです。

 

 

 松井先生は、27日(土)、10月5日(日)、11日(土)、19日(日)、25日(土)、11月2日(日)、3日(月・祝)に会場へいらっしゃる予定です。先生とお話ししながら作品を眺めていると、大袈裟でなく、ホントに心が浄化される思いがします。ぜひ足をお運びください。


静岡市民劇場創立50周年

2008-08-19 23:07:30 | NPO

今夜は、お盆前にNPO情報誌・ぱれっとコミュニケーションで取材したNPO法人静岡市民劇場の創立50周年記念例会『加藤武の語り』(静岡市民文化会館中ホール)に行ってきました。文学座の重鎮でテレビや映画の名脇役としてもおなじみ、加藤武さんが、吉川英治の「宮本武蔵・火の巻より風車」、藤沢周平の「蝉しぐれ」を朗読されたのです。

 

 

「蝉しぐれ」は全編読めば数時間かかるため、冒頭の部分のみ。途中を割愛したりアレンジするのは、著作権の関係でNGだとか。「蝉しぐれを楽しみにされていた静岡の皆さんに申し訳ない」と、加藤さんは、文学座が静岡市民劇場に初めて招かれたとき、紺屋町の旅館で食事中に杉村春子さんからさんざんダメ出しをくらって、劇団員も裏方も食事が満足に喉を通らなかったエピソードなどを、おもしろおかしく語り、清水次郎長の講談を一席披露してくれました。清水の梅蔭寺にある次郎長の銅像は加藤さんにそっくりで、それが縁で舞台で次郎長を演じられたこともあるそうです。

 

「朝鮮通信使」での林隆三さんもそうでしたが、キャリアのある俳優さんの朗読は、緩急のリズムが心地よく、感情移入もスムーズで、本当に安心して楽しめます。また作家が身を削って書き記した言葉のひとつひとつを、本当に大切に読んでくれる。日本語の美しさや、日本語の文章の流れるようなリズムが、朗読によってさらに顕在化されるようで、物書きを生業にするからには、しかるべき人に読み伝えてもらえるような文章を残したいなぁと実感します。

 

 

 

 

 

ご存じの方も多いと思いますが、静岡市民劇場は、会員が毎月2400円の会費を払い、年6回の例会(鑑賞会)に入場料なしで参加できるというしくみ。入会は3人1組が条件になります。これは事務連絡費の軽減と、仲間での参加によって参加意欲や継続意識をつなげていく目的があってのこと。組(サークル)の代表者が意見交換したり、劇団代表者や俳優たちと交流を図る機会も用意されています。招聘する劇団は、文学座、俳優座、前進座、民藝、NLTなど日本の新劇でもトップクラスがそろいます。

 

 

市民が会費を持ち寄り、プロの劇団を定期的に招いて鑑賞会を開くというスタイルは、戦後間もない頃、大阪で始まり、静岡市民劇場は全国で14番目の市民劇場として1958年に誕生。当時の県企画部長や静芸出身の劇団員ら有志が「静岡でも始めよう」と立ち上がり、県民会館の一角に事務所を設けたそうです。職場でのサークル活動などが活発な時代で、「映画を観るよりちょっと高いぐらいの値段で、一流劇団の公演が観られるなら」と多くの市民がサークルを作って参加しました。

以来、年に6回、半世紀にわたって一度も途切れることなく公演開催を実施し続け、10年前には全国の市民劇場では初めてNPO法人に。当時、非営利活動団体にもかかわらず入場料税を科せられる状況となり、営利目的の興行団体とは違う実態と存在意義を市民にしっかりディスクローズしようというのがきっかけでした。

 

 

 

静岡市では特定の劇団を招いて市民文化会館大ホールを占領させ、県でも巨額の公費でお抱え劇団と専用劇場を造りました。それはそれで自治体の文化政策として意義はあるのでしょう。一方で、市民がコツコツ会費を払って劇団を招聘し、日本の演劇を下支えしているこういうケースもある・・・。自分の映画づくりも、最初、公的助成に頼ろうとして相手にされず、有志の方々の募金によってなんとかスタートできただけに、ついつい市民劇場さんのような活動に思いが重なってきます。

 

 

 

以前、県の劇団を取材したとき、著名な芸術監督さんの名前だけが突出している印象で、周りのスタッフもピリピリしてるかお役人的な対応に終始していました。それに比べ、市民劇場さんの取材では、理事長もスタッフも笑顔で熱く語り、本当に演劇が好きな人たちなんだなぁと感じられました。50年も続いているなんて、好きで、楽しくて、やりがいがなければ続きようがありませんよね。

「映画は映画館で、演劇は生の舞台で楽しまなきゃ」・・・最後に聞いた市民劇場スタッフの言葉は、単純なようでとても重い言葉です。映画館でかかる映画は、実はほんの一握りであり、舞台で演劇をかけるというのも大変な労力を要します。プロモートしてくれる人と、入場料を払って来てくれる観客がなければ、どうにもなりません。お役所は、自分でハコモノを作ったり有名劇団を呼ぶ以前に、プロモートする人材を育てたり、市民劇場のような団体を支援するほうが先じゃない?と、ついついダメ出しをしたくなってしまいます。


すいとんランチ

2008-08-07 20:55:24 | NPO

 昨日(6日)は私が敬愛してやまない女性2人―樹木医塚本こなみさんとNPO法人活き生きネットワーク代表の杉本彰子さんと一緒に、静岡グランドホテル中島屋の和食処ですいとんのランチを食べました。

 すいとんって、戦争中の貧しい食生活を振り返って平和と飽食の時代を考える意味で、この時期、特別メニューで出す店がありますよね。昨日は広島の原爆投下の日だからと仲居さんがとくに勧めてくれました。ホテルの店らしく、それなりに上品で洗練されたすいとんでしたが、健康に気を遣っている2人は大喜びで味わっていました。ホテルで上品にいただくすいとんってのも、何かヘン?と思いつつ、お疲れ気味の2人が、野菜たっぷりの風味豊かなすいとんの味に舌鼓を打つ姿に満足しました。

 

 

 こなみさん、彰子さんとは、(社)静岡県ニュービジネス協議会で出会い、かれこれ15年近いおつきあい。出会った当時、2人は女性起業家として飛ぶ鳥を落とす勢いで注目を集め、NPOの事例研修にチームを組んでニューヨークへ行ったりもしました。ひと回り年下の私は、職業人として、また女性として潔い生き方を貫く2人の背中を追いかけるのに精一杯でしたが、頼れる先輩や目標になる上司を持たないフリーランサーの身としては、2人の活躍が大きな励みとなり、2人が与えてくれるチャンスや仕事は、自分を大いに鍛える場となりました。

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 こなみさんは誰も手を出さなかった大藤の移植を成功させ、足利フラワーパークを集客数日本一観光植物園にし、一昨年のNHKプロフェショナルの出演によって、日本を代表する樹木医として名実共に知られるようになりました。

 彰子さんは長年の業績が評価されて一昨年は少子化担当大臣から、昨年は総理大臣から直接表彰を受けました。

 

 マスコミに取り上げられたり、お上から賞を貰うからエライというわけではありませんが、2人はそういう扱いをされて何ら不思議ではない、それ相応の仕事をしている人たち。バックにエライ人でもいて、推薦されて晴れ舞台に上がったわけではなく、本人たちはいたって自然体で、なんら偉ぶるところはありません。

 

 思うに、2人がスゴイのは、こうと決めたことに、爆走トラックのごとく突進し、途中で投げ出さないところ。馬力が続くのは、仕事でありながら仕事というよりも、いのちをかける、生きがいにするといったレベルで取組んでいるから。人がやれないことを成功させるのは、常識や慣習にとらわれず、対象物(人)の身になってどうしてもらいたいかを考え、口先だけでなく、ちゃんと実践するから。

 

 

 3人で会ったり食事する機会はめっきり少なくなってしまいましたが、いつ会っても2人の強烈なオーラは変わりません。異性と呑みに行くよりも、2人と会うときのほうが楽しくて気が楽で帰りには勇気や元気がもらえたりして、とても充実しています。もっとも、異性と2人で呑みに行く機会こそ、すっかりなくなってしまいましたが・・・。

 

 

 ランチの後は、静岡県商工会連合会の県産フルーツを使った新しいスイーツ開発事業の会議。上品とはいえ、すいとんを食べて飽食の暮らしを反省しなきゃと思った矢先、試作品のチョコ菓子を次から次に頬張り、夜は会議のメンバーで中華ディナーと紹興酒をさんざん食らってしまいました。

 

 

 食べすぎがたたってか、夜中に腹の調子が悪くなり、何度もトイレに起きるハメに・・・。時間が出来たら、粗食だけど生きる原動力につながるような、ちゃんとした?すいとんを作って食べようと誓いました。

 

 

 

 さて、今週一杯で『吟醸王国しずおか』予告版の編集作業にも一定のメドがつきそうです。自分の20年来の地酒への思いを、短いフレーズにしたテロップが、実際に映像に張り付いたのを見て、なんだかじんわり感動してしまいました。

 早く誰かに観てもらいたいような、いや、誰にも見せたくないような、そんな複雑な思いにさいなまれています・・・。


メッセージを伝える技量

2008-08-05 10:10:18 | NPO

 今日(5日)付けの静岡新聞朝刊の5面(農林水産面)、ちょっと雰囲気違うって感じた方も多いと思います。

 

 この紙面は、静岡新聞編集局整理部の平野斗紀子さんが作ったもの。平野さんといえば、静岡新聞出版局の名物エディターとして活躍され、私もライター稼業を始めた20ウン年前からおつきあいさせてもらっています。96年のしずおか地酒研究会設立時にも陰で何かとサポートしてくれて、現在、編集中の映画『吟醸王国しずおか』で使った当時の写真を凝視しては、「蔵元サンたちはみんな歳取っているのに、平野さんだけ変わらないなぁ」と懐かしんだり、当時、平野さんが手がけていた県農林水産部協賛の情報誌『旬平くん』の制作時のことを思い出し、「この頃から平野さん、農業について深い思い入れがあったんだなぁ」としみじみ感じています。

 

 比較的フランクな雰囲気の出版局とは違い、新聞の整理部に異動してからは、窮屈な思いの連続だったそうです。担当を任された農林水産面も、情報提供者(JAや行政など)目線になっている編集方針を読者目線に変えたい!と何度も上に掛け合い、3年目にしてようやく実現のはこびに。

 

 先日、一緒に京都旅行をしたとき、京極蛸薬師の小料理屋でさんざっぱら呑みながら「8月からやっと変わるのよ~」と嬉しそうに語っていました。

 

 新しくなった農林水産面。食の安全、表示偽装、穀物価格の高騰といったハードなニュースは社会面にまかせ、ここでは日頃、食に付いて身近に考え、行動する消費者(とくに子育て世代や健康長寿に関心の高いシニア世代)に、生産者の言動を伝えるメッセージ性の高い紙面づくりを心がけたようです。コーナータイトルのデザインやアイキャッチなども、平野さんの雑誌づくりのキャリアが生かされていて、ふだんこの紙面を見過ごしていた読者の眼もキャッチできるのでは、と期待しています。

 

 

 さて、ゆうべ、映画の編集作業をしていたら、活き生きネットワークの事務局から写真が届きました。2日(土)に静岡県男女共同参画センターあざれあで開かれた『活き生きネットワーク法人化10周年記念夏祭りバザー&コンサート』でのひとコマです。私は生爪ワレの右足親指をひきずりながら、丸一日、コンサートの司会役を務めたのです。

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 コンサートは、静岡英和学院大学の学生バンド・コンソメWパンチ、車椅子のシンガーソングライター森圭一郎さん、そして爆音戦隊スンプレンジャーの出演でした。

 

 

 

 スンプレンジャーって最近地方でよく見かけるローカル戦隊ヒーローショーをやる人たちかと思っていたら、大間違い! 本格的なロックバンドで、しかもアマとは思えない腕前。ツェッペリンやディープパープルをコピーしてるところを見ると、世代的には私と同じかそれより上ぐらい? とにかく演奏はプロはだしで、見かけにごまかされてはイケナイ・・・!と反省しました。子どもたちは見事に見かけにごまかされ、それはそれで狙い通りでしたけど。

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 メンバーは子どもたちとの記念撮影に快く応じ(もちろん私も司会役の特権を押し通して楽屋裏で一枚)、一人一人に「みんなとなかよくしようね」「あいさつをしようね」と書かれたメッセージカードを配っています。こういうパフォーマンスを地域の学校や施設やイベント等で披露し、06年には地域の子育て支援活動として評価され、男女共同参画に関する静岡県知事賞を受賞しています。見かけがおもしろい、カッコイイで終わるのではなく、彼らが何を伝えようとしているかを、親子がそれなりにキャッチしてくれるといいですね。

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 森圭一郎さんは、昨年の活き生きネットワーク七夕コンサートでもお会いした、プロのシンガーソングライターです。16歳のときに交通事故に遭って車椅子生活となり、21歳頃から音楽活動を始め、25歳のときギター1本で日本縦断の旅へ。引きこもりやニート、障害者、障害者といった社会的弱者への生活支援や雇用支援を行う活き生きネットワークのゲストとして最適任者の一人といえるかもしれませんが、私自身は、森さんの明るいキャラや爽やかなイケメンぶり、そして音楽性を含めたアーティストとしての魅力を素直に実感し、CDも2枚購入しました。

 

 ヘビメタスタイルのスンプレンジャーと、アコースティックギター1本の森圭一郎さんのステージを同時に観られる機会なんて、この日限りだったかもしれません。一見、特異に見えるスタイルでも、伝えたいメッセージが確かにあって、確かな演奏テクニックでしっかり伝えることのできる、彼らは、その意味でプロに違いありません。

 

 伝えたいことがあっても表現方法が未熟だったり、伝えたいものがないのに見かけだけはプロ仕様という作品が、世の中には多々あります。

 少なくとも今の自分には、伝えたいことが確かにあると自信を持っていえるのですが、未知の読者や視聴者にアクセスしてもらえる場がどれだけ用意できるか、作品自体の吸引力がいかほどなのか、ここは一番、踏ん張りどころ・・・ですね。


寄付と補助

2008-07-26 10:55:59 | NPO

 今週は自宅デスクの前に座る時間がほとんどなく、今日(26日)やっとブログにログイン。更新のない日も訪ねてくださる方がいて、嬉しく思います。ありがとうございます。この1週間、ネタのオンパレードなので、少し頭を整理し、小分けに紹介していきます。

 

 22日(火)は静岡県NPO情報誌『ぱれっとコミュニケーション』の取材で、函南町平井のNPO法人芽ぶきを訪問。今年はNPO法が制定されて丸10年経ったことから、10年前、第一世代としていち早く法人化した団体を訪ねてこの10年を振り返ってもらうという取材です。芽ぶきは平成7年から任意団体で福祉サービス活動を始め、11年に法人化第1号として県に登録。同行したのは、やはり同時期に静岡県のNPO法人化第一号認証を受けた活き生きネットワーク杉本彰子さん。ぱれコミの発行総責任者でもあります。

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 福祉系NPOの場合、もとはボランティア活動がベースになっていた団体が多いので、法人化によって組織力を強め、経営の透明性・効率性を高め、法人団体としての社会的信頼と経営の安定化を図る…と口では言っても、一朝一夕にはいかないのが現実。日本には海外のようなドネーション(寄付)の習慣が浸透していないので、経営的に厳しいNPO団体がほとんどだそうです。そんな中、まがりなりにも10年、安定経営に努め、周囲の信頼を得ている芽ぶきや活き生きネットワークの存在は、静岡県のNPO活動の質の高さを証明しているようで、取材者のはしくれとして頼もしく感じます。

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 芽ぶきは、大手製薬会社を定年退職し、骨髄バンクのコーディネーターをしていた出口隆志さんが、妻と二人三脚で始めた訪問介護サービスからスタートし、福祉輸送の許可も取得し、函南と熱海の中間にある別荘地に介護センターを設けて、函南~韮山一円の利用者送迎を行っています。介護センターは、たまたま別荘地に独り住まいをされていた東京女子医大名誉学長だった太田八重子さんが全額寄付をされたもの。平成14年の完成直前に太田さんが亡くなり、その遺志を忘れないようにと、センターの名前は「太田八重子記念館・芽ぶき」にしたそうです。

 

 センター内は、ごくふつうの別荘の雰囲気で、利用者が、おともだちの家にでも遊びにきたという気軽さでくつろいでいます。周囲は自然豊かで散歩道も整備された一帯。お隣さんの庭樹の陰で暑さをしのぎながら、外の空気に触れてのびのびお散歩。デイサービス施設の環境としては申し分ありません。

 寄付行為が、特別な人間関係なしには成り立ちにくい日本では、貴重な事例かもしれません。介護施設を自前で建てた杉本彰子さんは、「ローンがないだけでも楽でしょう」とさかんに羨ましがっていました。

 

 日本で、寄付者に税制優遇のメリットがあるのは、認定NPO法人という、NPOの中でもハードルの高い条件をクリアできた法人のみ。国内で3万件以上あるNPOのうち、わずか74法人(0.2%)という少なさです(07年12月データ)。現在、超党派NPO推進議員連盟(加藤紘一会長)を中心に、条件を緩和し、認定NPO法人を増やそうという法改正が検討され、08年度中の改正を目指しているようですが、政治情勢いかんでどうなることやら・・・。

 

 

 

 

 私が作っている映画『吟醸王国しずおか』も80名余の会員寄付者の力に支えられています。昨年の今頃は、政府の中小企業対策や地域産業振興などに予算が付いたからと、補助金活用の話を勧められ、相談窓口を走り回っていました。しかしボランティア精神に基づいた活動を経営数値化することの難しさに直面し、初めから公費に頼るということ事態ちょっと違うなと感じて、とにかく自分が動いて汗する姿を見てもらって、それを純粋評価してくれる人の寄付を地道に募ろうと考え直しました。勇気の要る決断でしたが、表現活動をする上では気持ち的に自由になりました。

 

 

 

 社会的弱者のために心血を注ぐ彰子さんや出口さんの活動は、そんな悠長なことは言っていられないでしょう。映画づくりのような話と同列に語っては申し訳ないのですが、公的制度というものは、民間ボランティアが汗した後から付いてくるということが、お2人の話からもよく解ります。後追いでも何でも、制度化するのなら真に必要としている団体が利用しやすい制度にしてほしいですね。少なくとも福祉系NPOは、行政が対応しきれない地域の福祉課題を担う、社会に必要な存在なんですから。