杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

光の管が灯すもの

2014-11-29 20:29:30 | ニュービジネス協議会

 11月20日にJR静岡駅前葵タワーのグランディエールブケトーカイ全館を貸し切って、【第10回新事業創出全国フォーラム】が開催されました。(独)中小企業基盤整備機構/(公社)日本ニュービジネス協議会連合会が主催し、(一社)静岡県ニュービジネス協議会が主管運営するビジネスフォーラムで、1000人を越える来場者で賑わいました。私は実行委員会の記録班スタッフとして終日会場を走り回り、今は膨大な数の写真整理や講演&パネルディスカッションのテープ起こしに追われています。このフォーラムでいろいろ思うことがあったので、忘れないうちにブログに書き留めておこうと思います。

 

 パネルディスカッションのパネリストは基調講演の講師も務めた山本芳春氏(㈱本田技研研究所社長)、山口建氏(静岡県立静岡がんセンター総長)、木苗直秀氏(静岡県立大学学長)、原勉氏(浜松ホトニクス㈱中央研究所長)という豪華な顔ぶれ。「ふじのくにから未来が見える~20年後のビッグビジネスを語る」というテーマで、それぞれの専門分野で世界を変えるような近未来ビジネスを語っていただくというものでした。

 

 

 実はフォーラムの準備期間中だった9月9日、パネルディスカッションのコーディネーターを務める静岡県ニュービジネス協議会の鴇田勝彦会長、原田道子副会長のお供で、浜松ホトニクス㈱中央研究所の原所長を表敬訪問しました。お宝技術満載の研究所内部は写真撮影不可で、唯一OKだったのが、岐阜のスーパーカミオカンデに設置して宇宙素粒子ニュートリノをキャッチし、2002年に小柴昌俊東大名誉教授にノーベル賞をもたらした光電子倍増管。これを目の前にしたとき、私の脳裏には、なぜか、“ナムカラタンノートラヤーヤー”で始まるお経「大悲呪」が響いてきました。光電子倍増管とは直接関連はありませんが、2008年10月、南部陽一郎氏、小林誠氏、益川敏英氏の3氏が“素粒子物理学における「対称性の破れ」”でノーベル物理学賞を受賞した日、私はこのブログに「大悲呪と素粒子」という記事(こちらを書いていたのです。

 

 

 ブログを読み返すと、科学と仏教を無理やりこじつけたシュールな記事だなあと恥ずかしくなっちゃうのですが、このところ、あながち、こじつけではないのかも、と確信を持つ出来事が続きました。9月9日の浜ホト訪問日は、原所長が自己紹介のとき、京都龍安寺の庭の蹲(つくばい)に刻された禅語『吾唯足知』や同義語の『少欲知足』がお好きだと話されたのです。おおーやっぱり科学者は禅の世界に共鳴しているんだ!と驚きました。というのも、その数日前、臨済宗妙心寺派東京禅センター主催の講演会【科学と仏教の接点】の開催を、偶然ネットで見つけて参加を申し込んだばかり(聴講後の感想ブログはこちらをご覧ください)。で、訪問前日の9月8日には禅学の大家である芳澤勝弘先生と沼津でお会いできるという連絡が。そして次の日、目には感じない波長や超微弱な光を検出するという倍増管をイザ目の前にしたら、自然にお経が聴こえてきた…。なんともシュールな体験でした(苦笑)。

 

 浜松ホトニクス中央研究所ではこのほか、バイオフォトン(生体微弱光)といって植物が光合成しきれず光が戻る時間差をキャッチして植物の健康状態を量る―たとえば排水中の藻類の状態を量って有害性を評価する装置、放射線を使わず光で体内のガン細胞の状態を判断できる次世代PET診断システム光の位相を整える制御技術を登載した眼底カメラで眼の疾患や糖尿病の早期発見を可能にするしくみ、中赤外に発振波長を持つ半導体レーザ(量子カスケードレーザ)で炭酸ガスの成分を細かく分析して空中に漂っているCO2が今いる建物から発生したものか中国から飛んできたものかが判るしくみ、ヒッグス粒子を検出したシリコンストライプディテクタすばる望遠鏡に登載した世界最高感度のイメージセンサ等など、原所長自ら一生懸命説明してくださるのにこちらの理解がまったく伴わず、でもとんでもなくスゴイらしい製品群を存分に見せていただきました。・・・とにかく、光でなければ認識できないものを可視化させるテクノロジーなんだ、ということだけは解りました。

 ご一緒した鴇田会長から「あなたが食いつきそうなものがあったよ」と背中を突かれたのが、赤色&青色発光ダイオードと高圧ナトリウムランプの植物工場でわずか75日で育ったという山田錦で醸した地酒「光の誉」。2002年に磐田市の千寿酒造と共同開発したそうですが、1升瓶あたり30万円とべらぼうなコストがかかり、あいにく試験醸造で終わってしまったとか。千寿酒造には何度も行っているのに知らなかった(悔)・・・! 植物工場で2ヵ月半で育つなら、今現在、山田錦を全国から必死にかき集めているアノ酒蔵が実用化するんじゃ、なんて思ったりして。

 

 10月半ばにはニュービジネス協議会の茶道研究会でこれも偶然、龍安寺の『吾唯足知』を見に行きました。そういえば浜松ホトニクスの所長が好きだって言ってたなあと眺めていたら、京都在住の友人ヒロミさんとバッタリ再会。なぜかこの日の朝起きたら『吾唯足知』の蹲が頭に浮かんで、自然と足が向いたのだと。ヒロミさんは昔、静岡アウトドアガイドという雑誌で初めて地酒の連載記事を持っていたとき、誌面を作ってくれたデザイナーさんで、現在は京都で出版の仕事に関わっていることを最近フェイスブックで知りました。なんとも不思議な再会です。

 

 

 1997年6月発行の静岡アウトドアガイドで、ヒロミさんに誌面を組んでもらった千寿酒造の紹介記事を読み返してみたら、昭和21年から千寿の杜氏を務めた伝説の越後杜氏・河合清さんとその弟子の中村守さん、孫弟子の高綱孝さんの3代に亘る越後流酒造りが、磐田の地でしっかり息づいた価値を力説していました。千寿酒造は現在、経営者が変わってしまいましたが、高綱さんのもとで修業した東京農大醸造学科卒の社員杜氏鈴木繁希さんが現役で居る限り、酒道の灯は消えないと信じています。これは科学技術ではなく、人が、灯し続ける意思があるかないかの話、ですね。

 

 

 とにもかくにも、11月20日のパネルディスカッションで、1000人を超える聴衆を前に原所長はこんな発言をされました。

「京都のある高僧に“少欲知足”という禅語を英語に訳すとどうなるかと訊いたところ、即座に“sustainable(持続可能)”と応えたそうです。日本の生活の知恵や考え方、東洋的な思想はすばらしいと思いました。我々が研究する光技術が産業化できれば、いずれは地球上の問題解決にもつながるのではないか」

 

 浜松ホトニクスの光電子倍増管の威力って、月で懐中電灯を灯して地球でキャッチするようなレベルだそうです。11月20日のフォーラム会場での点灯展示を見ていたら、なんだか、塵のような私の仏性(といえるものがあれば)を灯してくれた観音様が姿を変えて現れたのかもしれない、と思えてきました・・・(笑)。

 

 存在しているものを認識する力を得たら、科学技術は地球上の問題を一つずつ解決していくのでしょう。同じように、禅の教えは人間の心の問題を解決してくれるんだろうか・・・。まだまだテープ起こしが終わらないというのに、なんだか酒を呑まずにはいられなくなってしまいます(乾いた杯に酒を注いでくれる相手は傍にいないのだけれど)。

 

 とりとめもない駄文でスミマセン。フォーラムの講演録はしっかり作りますので、関係各位はしばしお待ちくださいまし。


【駿河湾レシピ】のおもてなし

2014-10-07 11:44:52 | ニュービジネス協議会

 10月6日に開催された(一社)静岡県ニュービジネス協議会の10月中部サロン、JR清水駅前にあるホテルクエスト清水(竹屋旅館)の竹内佑騎氏から観光業の将来性についてうかがいました。

 

 

 食事の美味しさで定評のあるホテルクエスト清水で、最近とみに注目されているのが、トータル700キロカロリー以下のイタリアンフルコース【駿河湾レシピ】。パスタ一皿分ではなく、前菜・スープ・魚料理・肉料理・パスタ・ドルチェ・パン込みで700キロカロリー以下って凄くないですか?

 資料として紹介された2014年4~6月期のディナーメニュー表を見ると、

 

(前菜)駿河湾産ひげなが海老とズッキーニのサラダ、カツオのカルパッチョと久能の葉しょうが、するが牛もも肉のマリネパルメザンチーズ添え

(スープ)桜海老ビスク

(魚料理)駿河湾産太刀魚の蒸し煮 レモンバターソース木の芽添え

(肉料理)静岡産じっくり煮込んだ牛ホホ肉と春キャベツのラザニア風 浜松のサンマルツァーノトマトのソースで

(パスタ)富士山サーモンのフィットチーネ(特別配合手打ちパスタ)ブロッコリーソース

(ドルチェ)ベイクドチーズケーキラズベリーソース エスプレッソパウンドケーキ 静岡茶「香煎茶」ゼリー

(パン)低糖ふすまパン1個

以上、トータル686.5キロカロリー、糖質24.55、塩分2.73

 

 実際に食べていないので味がどうこうとは書けませんが、竹内さんのお話では、糖質ゼロの甘味料を使い、パスタには小麦粉のかわりにおからを練り込んで濃い目のダシで塩分を押さえ、県内各地から糖質の低い野菜、脂分の少ない肉などヘルシー食材を探し求めるなど、料理長が食材選びや調理方法を最大限に工夫して達成させた数字。病院食ではなく、ホテルの料理長がそれなりの値段(税抜きランチ3000円、ディナー4500円)で出すメニューですから、味も保証されているでしょう。

 

 ホテルクエスト清水は場所柄、スポーツ関係者のお客さんが多く、とくにサッカー日本代表やワールドカップ出場国チームの宿泊もあり、帯同しているスタッフの管理栄養士から食事についてアドバイスをもらう機会も多かったとか。竹内さんが4代目として家業を継いだ2007年、近隣に新規オープンしたホテルに客を奪われ、起死回生を目指して竹内さんが発案した「二日酔いの出張サラリーマンも食べたくなるヘルシー朝カレー」が大ヒットしたことから、食に注力するようになりました。

 

 【駿河湾レシピ】誕生のきっかけは、2010年頃、地元の桜ヶ丘病院から糖尿病患者のためのメニューを頼まれたこと。条件は「熱量700キロカロリー以下、塩分3グラム以下、糖質40グラム以下」。この条件では使える食材が厳しく限定され、結果的に味もイマイチです。

 食事制限が必要な糖尿病患者さんにとって、せっかく家族や友人と食事に行っても自分だけ特別メニューを出されるのはつらい。そういう声を直接聞いた竹内さんは、患者さんが外食先でも心置きなく楽しめる美味しいフルコース料理を実現させるのが、ホテル本来のおもてなし使命じゃないかと奮起し、病院側の3条件に「良質な油」「地元食材」「満足感の提供」を加え、病院とホテルがタッグを組んでメニュー開発に取り組んだ。結果的に、誰が食べても美味しくてからだに良いフルコース、という評判を獲得したわけです。

 

 こちらはやはり桜ヶ丘病院栄養科長監修のもと開発した【からだ想いの低糖スイーツ・いとをかし】のひとつ・6種類のロールケーキ。プレーン(黄)、静岡いちご紅ほっぺ(ピンク)、三ケ日みかん(橙色)、竹炭(黒)、紅茶(茶色)、静岡本山茶(緑)の6種類で、砂糖は一切使っていません。さっぱりほのかな甘さと食材の風味がしっかり伝わるヘルシースイーツ。なんでも伊勢丹の食品街ではなく女性服売り場で試験販売し、大好評だったそうです。

 

 

 

 病院食をヒントにした低カロリー食や、食材選びにこだわった地産メニューは、ヒットする外食メニューの条件として認知されていると思いますが、地方都市のホテルが本格的に取り組むというのはさらに大きな意義があります。今回の講演テーマもヘルシーメニュー開発ではなく「観光業のこれから」。

 

 竹内さんの解説によると、観光産業は裾野を含めると50兆円を超える一大産業。このうち、最近政府が力を入れているインバウンド(訪日外国人数)が占めるのは1.3兆円。政府は2倍に増やそう!と頑張っていますが、割合から見たらやっぱり日本人の国内観光旅行ニーズを充足させる必要があります。

 

 首都圏在住者対象のアンケート調査では、国内旅行先の人気都道府県ランキングは

①北海道 ②京都 ③沖縄 ④静岡 ⑤大阪 ⑥宮城 ⑦青森 ⑧新潟 ⑨鹿児島 ⑩岩手

 

 ところが「自分の県が魅力的だ」と思っている人の都道府県別ランキングでは

①沖縄 ②北海道 ③京都 ④福岡 ⑤宮城 ⑥鹿児島 ⑦滋賀 ⑧大阪 ⑨神奈川 ⑩兵庫

 

 

 わが静岡県は、県外の人が行きたい!と思ってくれているのに、地元の人は地元の魅力に気づいていない・・・まさに静岡県民性そのもの!ってな数字ですね(苦笑)。

 

 桜ヶ丘病院から糖尿病患者のためのメニュー開発を依頼され、実際に患者さんから「特別扱いされないように」という声を聞き、【駿河湾レシピ】を味わった患者さんが涙を流して喜んだ姿を見た竹内さんは、「誰もが楽しい時間を過ごせるのが、おもてなしの第一義である」「静岡県には地元食材だけでフルコースが作れる豊かな食材がある」と実感し、今後必要とされるおもてなしだと確信しました。

 

 生活習慣病によって食事制限を余儀なくされる人は全世界で増加しつつあります。市場はしっかりある。ここに、おもてなしの鉄則である「今だけ・ここだけ・あなただけ」のサービスを提供する。おもてなしという言葉の本来の意味は“表裏なし”で、見返りを求めない母性がベースだと竹内さん。今のサービス一般が旨とする「いつでも・どこでも・だれにでも」との違いを強調します。

 

 自分がホテルを選ぶときを考えると、たとえば、一人旅なら「いつでも・どこでも・だれにでも」均一のサービスが保証されているホテルチェーンを使うことが多いし、家族や友人とゆったり過ごしたいと思えば、「今だけ・ここだけ・あなただけ」のおもてなしが徹底している旅館を選ぶでしょう。ホテルクエスト清水が後者を志向していくとなると、さらに新しい魅力づくりが必要かもしれません。

 竹屋旅館は、もともと竹内さんの曾祖母(埼玉出身)が戦前、三保から望む富士山を観て、「世界からお客さんを呼べる!」と実感し、海の家を始めたのが創業だとか。20年前にビジネスホテルスタイルにリニューアルしたようですが、素晴らしい先見の明を持ったひいおばあさまのマインドを新しいカタチで再現できれば面白いし、【駿河湾レシピ】づくりもその一歩だと思います。

 

 帰り際、竹内さんに、低糖スイーツのロールケーキに酒粕は使えないか訊いたんですが、「糖質量がクリアできない」とあっさり却下されてしまいました。なんでもかんでもヘルシー食材にしようって発想はダメですね(苦笑)。

 

 ホテルクエスト清水のHPはこちら  *「いとをかし」もこちらのオンラインショップで買えます。

 竹内さんのブログはこちら

 

 


微生物抑制発酵茶の挑戦

2014-07-16 19:26:52 | ニュービジネス協議会

 7月14日に開かれた(一社)静岡県ニュービジネス協議会中部サロンは、昨年、静岡県ニュービジネス大賞特別賞を受賞した【微生物抑制発酵茶】を実際に商品化した、カネ松製茶㈱(島田市)の鈴木祐介専務がゲスト。日本の吟醸酒造りを革新させた河村傳兵衛先生が、お茶の世界で新たに仕掛けた一大革命について、じっくりうかがいました。

 

 

 【微生物抑制発酵茶】・・・耳で聞いても漢字を見てもピンとこないと思います。

 世に、機能性を謳ったお茶はゴマンとあり、次から次へと新商品が登場していますよね。

Imgp0518最初、このお茶も、【単行複発酵茶・すらーり美人】という名前でデビューしたので、ふつうのお茶がなかなか売れない製茶会社がダイエット茶ブームにのって奇をてらったのかと思っていました。河村先生が画期的なお茶を開発したらしいと聞き、県の展示会で試作品をいただいて以来、時折店頭で見かけたとき、試し買いする程度でしたが、昨年のニュービジネス大賞表彰式で、【あるけっ茶】という商品名に変わっていたのに驚き、今回、商品開発の背景と名称変更の理由をじっくりうかがって「これは、違う・・・!」と実感しました。

 

 鈴木専務の解説、さすが製茶メーカーの若い経営者、売り手や飲み手向けのプレゼンテーションに慣れているというか、日本酒の製造工程を知っている者にとっては、大変解りやすかったです。

 

 製法を簡単に説明すると、

①荒茶を無菌状態にして、水分を噴霧する。

②殺菌・冷却した後、黒麹菌をふって醗酵させる。*約7日間

③再び殺菌・冷却し、生葉ジュースをふりかけ、酵素醗酵させる。*約3日間

④殺菌、乾燥、焙煎

 

というもの。これが、通常の製茶工程を知っている者にとっては非常識のオンパレードだそうです。

 

 まず①の「荒茶に水分を噴霧」。荒茶は摘みたての茶葉を蒸気で加熱し、乾燥させたものですから、せっかく乾燥させたものに水をかけるなんて、茶業者にとってはありあえない話でしょう。水分を加える理由は、②の麹菌醗酵のため。しかも「殺菌・冷却」してから麹菌をふりかけます。

 発酵茶の代名詞ともいえる中国のプーアール茶は、生葉を天日干しして茶葉が持つ酵素をゆる~く醗酵させ、これを多湿状態におき、カビを自然醗酵させて作るそうですが、このお茶は、雑菌が混じらないよう完全にコントロールされたクリーンルーム・・・日本酒で言う〈麹室〉で、温度や湿度を一定に保ち、安全性が担保された麹菌のみを醗酵させます。つまり、プーアール茶が「微生物自然発酵茶」であるのに対し、このお茶は「微生物抑制発酵茶」となるわけです。

 

 ちなみにプーアール茶は便秘に効くというのが売り言葉みたいになっていますが、河村先生曰く「雑菌だらけの自然発酵茶だから、お腹を壊す成分があって当然」だそうです。ナットクですね(笑)。

 

 

 ②の段階で、“安心・安全製法で造られた高品質プーアール茶”として商品化しようと思えばできるのですが、ここからさらにもう一段階、香りと味を良くするための醗酵を行ないます。カネ松製茶の鈴木専務は「健康にいいかもしれないけど美味しくない」という世にある健康茶を凌駕するためにも、「無謀にも、河村先生に、“もっと美味しくしてください”と何度もダメ出した」そうです。

 

 先生が編み出したのは、冷凍保存しておいた生葉を粉末にして“生葉ジュース”にしたものをふりかけるという奇策。生葉が持つ酵素を酸化醗酵させると、紅茶のような香りが生まれるそうです。この発想、お茶のガチ専門家ではなかった河村先生だからこそ、なんでしょうね・・・!

 

 出来上がったお茶は、紅茶よりもピンクがかった、艶やかなバラ色。香りもどことなくローズ風です。プーアール茶のようなクセもなく、やさしい甘味。河村先生は「ロゼ茶」と命名したそうですが、バラそのものとも違うし、香味や色の感じ方は飲む人の好みに左右されるでしょう。それよりも何よりも、このお茶がスゴイのは、まったく新しい2種類のポリフェノール成分が発見されたことです。

 

 

 新発見のポリフェノールとはテアデノールA・テアデノールBという成分。テアデノールとは、お茶のTEA、傳兵衛のDE、ポリフェノールのNOLを組み合わせた名前です。私はもともとテアデノールというポリフェノールが世に存在していて、お茶では初めて検出されたと思い込んでいたので、鈴木専務から、新発見だから新たに命名した、と聞いてビックリ!「先生のお名前は、清酒酵母のみならずポリフェノールにも付いたのか・・・」と鳥肌が立ちました。

 

 テアデノールは、東京医科歯科大学の学内ラボに拠点をおく臨床試験機関・オルトメディコ、筑波大学、リバーソン(河村先生の会社)の共同研究によって、糖尿病予防、がん疾患予防、内臓脂肪の減少に効果が認められ、現在、諸々の特許申請中とのこと。長期間飲みつづけたモニターからは「中性脂肪が減った」「尿酸値が激減した」「コレステロール値が下がった」「半年で体重が6キロ減った」という声が寄せられており、実際、私も便秘に悩む友人に勧めたところ「今まで飲んだお茶の中で一番効果があった」と聞いています。

 

 私自身は、お気に入りスーパーのKOマートでこのお茶を扱っているので、余裕のあるときに買って飲んだり飲まなかったりで、健康効果を実感するまでには至っていませんが、今は本気で常飲しようと考えています。鈴木専務にも「静岡吟醸を愛飲する仲間に飲むよう勧めます!」とガッチリお約束しました。

 

 

 

 【あるけっ茶】というブランド名のきっかけは、山形のイタリアンの名店アル・ケッチァーノの奥田政行シェフとの出会いだったそうです。奥田さんはもともと付加価値の高い地域食材や「酵素」というキーワードに関心があり、定期的に料理サロンを開催している焼津で【すらーり美人】の存在を知り、ビビッときたそう。

 

 ただし、【すらーり美人】という名前は、いかにもダイエット健康茶。確かに画期的な機能性を持つ健康茶ですが、他の健康茶にない美味しさ・見た目の美しさが特徴で、ドラッグストアというよりも、レストランやティーサロンなど食味を楽しむ場で存在感を示したいという思いが、鈴木専務にあったそうです。奥田さんの店で飲んでもらうには、それ相応の名前にしようということで、【あるけっ茶】に。おやじギャグみたいなネーミングですが(笑)、もともと「アル・ケッチァーノ」も、庄内弁で「あったんだよねえ」を文字ったものらしいそうです。

 

 優れた機能性を持ちながら、それを前面に出さず、味で勝負したいという信念は、川下(消費者)に向けた強いメッセージだと思います。

 と同時にこのお茶は川上(生産者)にも力強いメッセージを送っています。

 静岡茶は3・11原発事故の風評被害から完全に立ち直っていない状況です。静岡よりも原発事故現場に近い関東の茶産地でも同じような被害があったはずなのに、「静岡茶」だけが市場から排除されました。それだけ静岡茶の持つブランド力が強かったという裏付けなのかもしれませんが、3年を経て、初物の一番茶だけは市場でそこそこ値が付いても、二番茶、三番茶は動きがにぶく、価格が最も安い四番茶は逆にペットボトル需要に下支えされ、活発だとか。茶市場でもいわゆる“二極化”が進んでいるようです。

 

 “お荷物状態”で茶業経営を圧迫させつつある二番茶、三番茶は、夏場の活発な光合成によってカテキン含有量が非常に高い。カテキンが多いお茶(べにふうきなど)は、花粉症対策で脚光を浴び、ブームとなりましたが、元来、苦くて渋~い味。今ではすっかりブームが沈静化してしまいました。やっぱり味が良くなければ定着しないんですね。

 

 5~6年前、ブームに乗ってべにふうきに植え替えた静岡の茶産地では、ようやく茶樹が育ち、収穫出来るようになった今、ブームが去ってしまい、結局、紅茶にして売るしかない。カテキンは紅茶にすると酸化醗酵によって減ってしまうため、緑茶ならウリに出来た機能性という付加価値を持てない、ただの紅茶です。これでは茶農家の経営を向上させる戦力にはなれません。

 

 その点、【微生物抑制発酵茶】は、べにふうきのようなカテキン含有量の多いお茶を活かす第三の道になりそうです。カテキン含有量の多いお茶を緑茶にしたときの味の欠点、紅茶にしたときの機能性の低さを見事にカバーし、さらには価格が付きにくく取引量も減りつつある二番茶、三番茶に付加価値を与えることになります。

 設備さえ整えば7~10日間で仕上げることができ、品質の均一化と年間製造という工業的生産方法で量産化も図れます。

 

 ただし、醗酵のためのクリーンルーム、温度管理システム、噴霧装置等かなりの投資を擁し、カネ松製茶でも現在、年間生産量6,000kgが限度だそうです。

 参加者からの「トクホ(特定保健用食品)の認証は受けないのか?」という質問にも、「現在の生産規模ではトクホ認証のコストをペイできない」とのこと。なんだかすごくもったいないですね・・・。

 

 

 

 茶価の低迷、風評被害、後継者不足など等、静岡の茶産地が抱える課題は山積しています。おそらく、河村先生が昭和50年代、静岡酵母を開発された頃の酒造業界もそうだったでしょう。静岡県の酒造業は、茶業に比べたら規模は小さく、意欲のある蔵元が先陣を切って頑張ったことで他の蔵元が後に続き、産地全体で団結・向上できたのですが、茶業は静岡県の基幹産業でもあり、一朝一夕に変わることは出来ないかもしれません。

 

 【微生物抑制発酵茶】の誕生も、大きな変革の中のひとつの要素に過ぎないかもしれませんが、河村先生が酒に続いてこのような開発を成功させ、“救世主”になられたことは、偶然ではなく、必然だったと思います。茶業界のみなさんは、このことをしっかり活かしきってほしいし、そのためには外部の新しい発想や提案を柔軟に受容し、融合させてほしい。量産化を実現させる知恵は、他の製造業や流通業、資金調達ノウハウを持つプロが持っているはずです。

 

 

 「お茶はもともと中国から薬として伝わり、味わう文化になった。既成概念を変えることで進化した」と鈴木専務。私もここ2年ほど茶道の歴史を学ぶ機会を得て、茶道も茶業も変化や革新を経験しながら今に至っていることを実感しています。

 禅僧によって機能性が認められた茶を、千利休や古田織部は「道」や「芸術」へと昇華させました。【微生物抑制発酵茶】も、いわば禅僧が修行のために用いた機能性飲料の段階から少しずつ脱皮し、味わう茶、楽しむ茶へと昇華していくのでしょう。【あるけっ茶】が、いわば“奥田流”の微生物抑制発酵茶ならば、さらなる普及にはもっと多彩な人材によるブランディングが必要なのかもしれません。

 

 カネ松製茶をはじめ、現在、微生物抑制発酵茶の生産に取り組む茶業者は、柔軟な発想でさまざまな“流派”を勃興させてほしいと思います。

 

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 とりあえず我々静岡吟醸ファンは、河村先生への敬意を込めて、これからせっせとこのお茶を常飲するとしましょう。

 

 

  カネ松製茶の【あるけっ茶】は、KOマートほか、こちらの通販サイトで購入できます。ちなみに、こちらでは河村先生が漫画のキャラクターになって微生物抑制発酵茶について解説しています。

 

 静岡酵母の河村先生を知っている者からみたら、う~ん・・・という出来ですが(苦笑)、先生は元来、漫画キャラにしたくなるようなおちゃめさんかも。

 

 

 


奥大井・蕎麦とアカマツと温泉郷

2014-07-10 23:01:35 | ニュービジネス協議会

 昨年から応援している川根本町・かみなか農場の【奥大井蕎麦街道プロジェクト】。7月8日に(一社)静岡県ニュービジネス協議会、県中部農林、川根本町役場、支援金融機関等の皆さんと一緒に蕎麦蒔き体験をしました。

 

 

 

Imgp0470  蕎麦畑は静岡市との境に位置する川根本町梅地・通称「下別当(げべっと)」という高地にあります。8日は川根温泉に集合し、17人の参加者が車を連ねて千頭~接岨峡~井川湖を経て、険しい山道を約2時間かけ、標高1100メートルにある圃場に到着しました。

 

 上中さん曰く、「この圃場は、川根本町内にありながら静岡市井川を経由し山を登っていかなければならない。自分が住んでいる徳山からも1時間15分程かかる。かつては、イチゴの"山あげ"や"高原野菜"の圃場として利用されていた場所だが、今は実際に耕作している方は数人で、広大な土地は雑木が茂り、シカやイノシシの溜まり場と化している」状態。シカは数頭~数十頭という単位で駆け回っているそうです。

 

 

 

Imgp0489  ちょうど晴れ間が広がったお昼時、青空と高原のコントラストが美しい圃場の一角で、上中さんが体験者のために土起こしをしてスタンバイ。私たち参加者は2人1組になって、一人が鍬を入れ、もう一人が蕎麦の種をパラパラと蒔きました。

 

 前日の雨の影響で、事前に土起こしできた面積が限られていたため、30分ほどで体験終了。参加者はこの地までわざわざ来てくれた静岡新聞さんの取材に応じながら、ニュービジネス協議会会員が仲介した別の圃場まで歩いて見学。高原野菜が植えられた畑を眺めながら、この地の農業ビジネスの可能性について語り合いました。

 

 

 

Imgp0493  上中さんは3年前にこの地を視察し、「桃源郷に来た思いだった」と語ります。確かに通うには不便な場所ですが、高品質な夏野菜や蕎麦の供給産地になるかもしれない、と直感。住所は川根本町梅地でも地主の多くは静岡市の住民で、土地利用や補助金制度を利用するのにさまざまな障壁があり、一筋縄ではいかなかったそうですが、県や町と粘り強く交渉し、地主と利用権設定が無事完了。 圃場を整備し、今年は約4.5haの秋蕎麦栽培を始める予定だそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Imgp0497  大井川源流部は、本州で唯一、原生自然環境調査保全地域に指定されています。山地帯から高山帯に至る典型的な垂直分布が見られる寸又川流域1,115ヘクタールの原生林は、厳重な保護下にあります。蕎麦圃場見学の後、川根本町役場のはからいで、特別に川根本町梅地にある貴重なアカマツ樹林を見学させてもらいました。

 

 

 

 

 

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 学術参考保護林に指定されているという梅地のアカマツは、胸高直径70cm、樹高30m超。スカッとまっすぐ高くそびえ立ち、周囲の若い植林スギを上から見下ろすような威風堂々とした姿です。

 樹肌は赤味がかった龍のウロコのような原始的な模様で、本当にマツの木?と不思議な感動を覚えました。

   

 

 

 

 

 

 

 午後3時近くになって接岨峡温泉会館に到着し、持参した弁当でようやく食事。ひと息ついたところで改めて上中さんから蕎麦産地化プロジェクトについてうかがいました。

 

 このプロジェクトは、以前ブログ(こちら)で紹介したマイクロファンド『ミュージック・セキュリティーズ』のファンドに採用され、現在、小口投資家を募集中です。こちらをご覧になるとプロジェクトの要項と、上中さんのこれまでの活動や人となりが解りますので、ぜひご覧になり、応援してあげてください!

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 接岨峡温泉は“若返りの湯”と称されるだけあって、肌がしっとり、筋肉のコリや痛みもスーッと癒される、極上の泉質でした。

 温泉会館は銭湯に集会所が併設されたような素朴な造りで、それはそれで味がありますが、静岡県はもとより日本でも指折りではないかと思われる温泉をアピールするのに、もう少し整備できないものかと素直に感じました。

 川根温泉は島田市のキモ入りでホテルまで新設して大々的に売り出し中ですが、接岨峡温泉は、それこそミュージック・セキュリティーズのようなファンドを活用し、全国の秘湯ファンから支援金を集めてみたらどうかと思います。

 

 

 

 

 

 

 

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 川根本町千頭駅には、今週末から運行が始まる機関車トーマスのHIROが駐停車していました。トーマス効果でこの夏は親子連れで大いに賑わうことでしょう。

 農業、自然保護、温泉観光・・・どれも素晴らしい地域資源です。川根本町が上中さんのような、汗を流す実践者が必ず報われる地域であってほしいと心から願います。


ニュービジネスとシングルカスク

2014-06-19 11:49:24 | ニュービジネス協議会

 私が広報を担当している一般社団法人静岡県ニュービジネス協議会で、今年11月、【第10回新事業創出全国フォーラムIN静岡】(主催/公益社団法人日本ニュービジネス協議会連合会・独立行政法人中小企業基盤整備機構)という全国大会を企画運営することになりました。

 ベンチャー企業日本一を選ぶ『ニッポン新事業創出全国大賞』表彰式をはじめ、基調講演にはホンダ技術研究所の山本芳春社長がASIMOや燃料電池車、水素小僧、ホンダジェットなど近未来のモビリティについて展示実演を交え、夢いっぱいのおImg104話をしてくださいます。

 

 パネルディスカッションでは、静岡県ニュービジネス協議会会長でTOKAIの鴇田社長がコーディネートをして、静岡がんセンターの山口建総長、県立大学の木苗学長、浜松ホトニクス研究所の原所長という静岡県の産業クラスター代表が「ふじのくにから未来への挑戦」と題して討論します。

 

 

 近くなりましたら改めて詳細をご紹介しますが、このフォーラムに全国から1000人集めよとの指令が下り、開催実行委員会の末席にいる私もあちこち飛び回るはめに。ニュービジネス協議会組織は全国に22団体あり、11月に静岡まで来てくれそうな団体に大会PRをしに行くのです。

 

 

 私が派遣されたのは仙台に拠点のある(一社)東北ニュービジネス協議会と、大阪に拠点を置く(一社)関西ニュービジネス協議会。

 

 まず6月11日、前夜新宿を経由して夜行バスで仙台入り。プレゼンを予定している東北ニュービジネス協議会定時総会は15時からで、時間はたっぷり。日本酒の蔵元を訪ねようかとも思いましたが、調子に乗って飲みすぎて肝心の仕事に支障が出ては・・・と自主規制し、アポなしで見学できるニッカウヰスキー宮城峡蒸留所に行ってみました。

 

 

Imgp0265  あいにくの雨模様の中、バスで山形方面へ1時間ちょっと。周囲に目立った建物が一切ない、清流と森に囲まれた蒸留所で、電線地中化によって景観もスッキリ。9時の開場と同時に入り、10数人のバスツアー客に混じって小1時間、場内を見学しました。

 

 ウイスキーづくりを簡単におさらいすると、

 ①大麦を発芽させ、大麦麦芽(モルト)をつくる

②ピート(ヨシやスゲなどの水辺植物が堆積して炭化した“草炭”)を燃やして麦芽を乾燥させる。

③粉砕した麦芽に温水を加えて糖化醗酵させ、麦汁をつくる。

④麦汁に酵母を加え、糖をアルコール醗酵させる。

⑤醗酵液をポットスチルで蒸留させ、原酒をつくる。

⑥原酒を樽に詰めて熟成させる。

 

 

 この工程でポイントになるのは、第一に水。以前、サントリー山崎蒸留所を見学したとき、ブレンダーさんから「ウイスキーは水を記憶する」と聞いたことがあります。麦やピートは外から持ってくることができても、水はその土地の天与の恵。ニッカでも北海道余市と宮城峡で微妙に風味が違うのは、やはり水の違いによるものでしょう。

Imgp0269  ここ宮城峡は広瀬側と新川川の合流地にあり、近くには鳳鳴四十八滝という名水スポットもあります。周囲は森林に囲まれ、雨模様だったこの日はほのかに霧も立ち込めて、神秘的な風景でした。日本酒の酒蔵は街中にもあるけど、ウイスキー蒸留所は規模からしてもハンパじゃない水量が必要だろうし、水質が安定したところでなければ設備投資できないでしょう。

 

 

 

 創業者の竹鶴正孝は理想のウイスキーづくりのために余市に蒸留所を建て、異なる風土の原酒をブレンドしてより芳醇なウイスキーを造るため、東北の地をくまなく探し、ここに建てたそうです。そのあたりのいきさつは正孝夫婦をモデルにした今秋スタートのNHK朝ドラ「マッサン」で描かれるかもしれません。

 

 

 

Imgp0267  さらにポイントとなるのは蒸留方法です。ポットスチルの形状は蒸留所によってさまざまで、蒸留の回数や加熱方法も違ってくる。

 そして樽。蒸留所には樽職人がいて、接着剤を使わず、木材を組み合わせて造ります。無色透明な原酒が樽から出る様々な成分によって琥珀色に変化する。樽の性質が酒質に大きく影響を与えるわけです。10年後、20年後、どんな酒質になるかを予測し、様々な樽をセレクトする。これも熟練の技です。

 

 

Imgp0270  日本酒に比べ、道具や機械に負う部分が大きいように見えますが、道具や機械を使いこなすのもまた人間。変化を予測する、個と個を組み合わせる、異質なもの同士を調整する・・・ウイスキーの熟成管理とは、なにやら人間の集団組織運営に通じるものがありそうです。

 

 

 

 

 

 試飲コーナーでは、シングルモルト(一ヶ所の蒸留所でつくられたモルトウイスキー)、ピュアモルト(複数の蒸留所のモルトウイスキーを混和させたもの)、ブレンデッド(複数のモルトウイスキー&とうもろこしを原料にしたグレーンウイスキーをブレンドしたもの)をちびりちびり楽しみましたが、一番印象に残ったのは、蒸留所限定のシングルカスク。たった一つの樽で熟Dsc_0419 成され瓶詰めされたモルトウイスキーです。これの10年と25年を飲み比べ、原酒と樽の協働によって抽出された重みや深みというものを、よりダイレクトに実感できました。

 

 

 

 

 昼過ぎに仙台市内に戻り、商店街を散策した後、東北ニュービジネス協議会定時総会の会場・勝山館へ。静岡から駆けつけた実行委員会の古谷博義副会長と合流し、「静岡には東北に負けない名酒がそろっていますからぜひ来てください」と静岡大会をアピールさせてもらいました。

 

 

 

 

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 終了後、静岡へとんぼ帰りの古谷副会長と別れ、一人で国分町界隈へ。途中の錦町公園でドイツビールの祭典「オクトーバーフェスト」の会場に出くわしました。先日、広島へ行った帰りに立ち寄った大阪・天王寺公園でも「オクトーバーフェスト」をやっていて、ドイツが国を上げて日本全国で大プロモーションを仕掛けてるのか・・・とビックリでした。バイエルンの古城や修道院の醸造所で造られたレアな地ビールがそろっていますが、一杯1400円~とちょっとお財布にキツイ(苦笑)。

 

 

 

 

 

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 目的の居酒屋は、静岡の蔵元さんに教えてもらった【きゃりっこ亭】。開店27年という老舗の地酒専門店です。オーナー伊藤さんは開店直後、取引先の塩釜の酒販店で偶然飲んだ磯自慢にベタぼれし、磯自慢ラインナップをそろえようと静岡富士宮のよこぜき酒店から取り寄せるようになったとか。壁に張られたリストを眺めていたら、地元宮城はもちろん全国の実力地酒が多数そろう中、磯自慢は4~5種、初亀、喜久醉、正雪、國香と、静岡比率が異常に?高いことを発見し、無性に嬉しくなりました。

 

 

 なんで仙台まで来て静岡の酒を?と思われるかもしれませんが、県外で、静岡のような小さな産地の酒を大切にする店は、産地や銘柄のネームバリューに左右されず、酒質をしっかり見極めることのできる店で、料理の食材選びにもそれは反映されています。夜行バスの移動とウイスキー&ビールの試飲で疲労がたまり、料理は2品、お酒も2種しか頼めませんでしたが、26年前に磯自慢の蔵を初めて訪ねて酒取材がスタートした自分とも酒歴が重なる伊藤さんとは、常連さんが来るまでしっぽりお話ができました。

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 「20数年前、磯自慢と紹介しても知る人は皆無だったが、よこぜきさんのようなしっかりした酒販店さんがいてくれたおかげでブレずに来ました」と伊藤さん。旅先で、故郷の酒と人を褒められるってホント、気持ちがいいものです!

 

 

 これまでいろいろな居酒屋を訪ね歩いてきましたが、ウイスキーを飲み比べた後でつらつら整理してみたら、たとえば、磯自慢を飲みたかったら磯自慢だけを置くシングルカスクのような店に。静岡の酒を飲みたかったら静岡銘柄だけを複数置くシングルモルトのような店に。全国と呑み比べるときはピュアモルトのような店。ビールやウイスキーもチャンポンしたかったらブレンデッドな店だなあと。そんなこじつけ整理をしたガイドブックを作ってみたいなあと思いますが、たぶん酒友しか読んでくれないでしょう(苦笑)。