ひきつづき10日に開催した吟醸王国しずおか映像製作委員会斗瓶会員『大人の社会見学ツアー』報告です。
金谷の大井川葛布を後にし、一路、藤枝の瀬戸川中流域へ。国一バイパス谷稲葉インターを降りて北上し、工事中の第2東名高架橋を超えてすぐ左にあ る、『古民家ギャラリーこころ庵』で一服しました。明治期の趣ある古民家を、地域のクリエーターにギャラリー・地域交流の場として開放している場所です。管理人の新井真さんは茶室建築や民家の改修を得意とする一級建築士。庵内には雑誌『sizo;ka』も置いてあって、「地酒特集号は完売でしたよ」と声をかけてもらいました。
雑誌sizo;kaは藤枝在住のフリー編集者夫妻が手弁当で発行し、イマドキのフリーペーパーやクーポン雑誌とは違うクオリティを誇っていましたが、現在は休止状態…。志太は、地酒と同じように、文化情報誌が育つ精神的に豊かな地域になってほしいと思うのですが、一朝一夕には行かないものですね…。
でもこうして地域で応援してくれる人がいるなら、「映画制作がひと段落したら、雑誌版の『吟醸王国しぞーか』を創ろうか」なんてフツフツと熱が湧きあがってきます。…もっとも映画作りで精魂尽き果てる可能性大ですが(苦笑)。
次いで訪れたのは、滝沢地区で無農薬・有機肥料で茶を作る『人と農・自然をつなぐ会』のリーダー杵塚敏明さんの茶園です。
緑茶王国といわれる静岡でも、お茶を無農薬で育てるというのはホントに難しいらしくて、基幹産業レベルの生産となると、可能な限り減農薬・減化学肥料に努めたとしてもゼロにするのは不可能だといわれます。これは私自身、長年、JAの取材を通して実感していることです。
杵塚家は11代続く茶農家。敏明さんは農協青年部にいたころ、地域のお年寄りから「最近は茶工場からお茶の香りがしなくなったなぁ」と言われ、気になって地区の茶畑の土を調べたところ、ミミズも棲めない強酸性土壌になっていた。また、お茶の葉は本来、秋~冬には黄色っぽくなり、春から初夏にかけて緑色が深くなっていくのが自然であるのに、多くの茶畑が一年中、黒緑色をしている・・・。これは化学肥料を無尽蔵に使っていた弊害だと考え、1976年に20軒の同志とともに有機栽培を始めます。農協はじめ多くの茶農家から“変人扱い”されたようです。
土が健康を取り戻すにつれ、そこに様々な自然の生態系が甦ってきます。植物を好んで食べる草食昆虫=害虫を減らそうと農薬をかけると、草食昆虫を食べる天敵・肉食昆虫まで死んでしまいます。肉食系とは、クモ、てんとう虫、ドロバチ、ゴミムシなど、草食系(害虫)を食べてくれる農家にはありがたい虫なんですが、どうも農薬に弱い…。そこで杵塚さんたちは肉食昆虫ドロバチに着目し、増殖させる方法を考えました。
有機栽培を始めて17~18年ほど経った年、記録的な少雨で多くの茶畑が異常発生した害虫の被害に遭った際、杵塚さんたちの茶畑だけがたくましく育っているのを見て、変人扱いしていた周囲も見直すようになりました。健康な土壌に茶樹がしっかり根を張っていたからです。「松下米」の松下明弘さんの稲作りと同じだ…と感動しました。
現在は認定農業法人として多くの同志や賛同者を得て、茶摘みや草取り体験など有機農業に興味のある若者を受け入れたり、地域交流イベントを開いたりと、滝沢の里で確たる存在感を示す杵塚さん。アメリカ留学で視野を深めてきた娘・歩さんとともに、有機無農薬茶をたくましく育てています。
10日はクネクネとした農道を登った先の、山の斜面に広がる茶園を案内してもらい、クモの巣やイノシシが横切った痕跡の残る茶畑を散策しました。飛び入り参加の松下明弘さんは、面識があるらしい歩さんと「土づくり談義」に花を咲かせています。
ここ数日ニュースにもなっている凍結被害は、「今まで経験したことのない気候変化」と歩さん。顔を出し始めた若葉色の茶芽が、ところどころ灰色になっていて、まるで死産した赤ちゃんのように無残な姿…。改めて農業とは、自然というどうしようもないリスクと戦う産業なんだと思い知らされました。
この後、杵塚家の敷地に構えた紅茶工場を案内してもらい、二番茶(6月下旬~)を紅茶加工させる工程を丁寧にシミュレーション解説してもらいました。『人と農・自然をつなぐ会』の紅茶は、『瀬戸谷もみじ』という商品名で販売され ています。シミュレーションではなく実際の加工作業を見学したいと言ったら、ぜひ来てくださいと快諾してもらいました。
ちょうど来週末・4月24~25日にかけて、『人と農・自然をつなぐ会』でお茶摘み体験会を開催するそうで、24日夜の交流会で、「映画の話をしてみませんか?」と誘っていただきました。今回のツアーメンバーも何人か申し込むようです。詳しくは会のホームページをご覧くださいまし。
最初は“変人扱い”されて、周囲に認められるまで長い年月がかかっても、信念を貫く生き方には、自然に共感する者・同志となる者が集まってくる。こういう打算のないつながり方は、無理がないから長続きする。…長くつながっていないと理解できないことのほうが多いんです。
この後、今回のツアーをコーディネートしてくれたハンドワークファクトリー久留聡さんの家具工房におじゃまし、夜は藤枝駅前の居酒屋で交流会。
本来は映画資金集めのシビアな斗瓶会議にしなければならないのに、いろんな人が入り乱れ、結局は賑やかな飲み会になりました。
居酒屋の白壁を使って半ば強引に?『吟醸王国しずおかパイロット版』を上映したり、大井川葛布の村井さん、杵塚さん一家に、わがメンバーでは國本良博さん、松下明弘さんといった“スター”もいたので、あっちこっちで話が弾んで収拾付かず(苦笑)。・・・でも、こういう仕掛けも、長~いつながりに発展させていくための一里塚なんだと思えば楽しいですね。
ツアーにご協力・ご参加いただいたみなさま、本当にお疲れ様でした&ありがとうございました。
斗瓶会議の目的は、基本はシビアな資金集めの話し合いですが、こうして楽しみながら地域を学び、人脈を広げる中から、“金脈”を掘り当てることをモットーにしていますので、映像製作委員会のみなさま、ぜひご参加くださいな。お問い合わせは吟醸王国しずおかHPまでどうぞ!