杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

二十一世紀の使行録ふたたび

2013-12-07 11:27:33 | 朝鮮通信使

 12月5日(木)19時から、第7回静岡県朝鮮通信使研究会総会に参加しました。この会も、もう7年続けています。

 

 7年前といえば、2007年、大御所四百年祭の記念事業の一環で、静岡市が映画『朝鮮通信使~駿府発二十一世紀の使行録』を製作した年。朝鮮通信使のことも映画の脚本制作も、まったく初心者のド素人だった私を根気強く導いてくださった朝鮮通信使研究家の北村欽哉先生が中心となり、静岡県日韓友好議員連盟の天野一会長をヘッドに、年3~4回の勉強会を地道に続けてきました。

 

 先月、LIFE TIME で開かれた音楽家谷川賢作さんのジャズセッションで久しぶりにお会いした山本起也監督に、未だに朝鮮通信使のことに関わっていることを「粘るなあ~、その粘り腰が羨ましい」と冷やかされましたが、知れば知るほど、「まったくさわりの部分しか知らないド素人が映画を作った」という後悔と羞恥心に苛まれるんですね。この穴を埋めるには、朝鮮通信使のことを勉強し続けるしかない。と同時に、この仕事が無ければ深く考えることはなかったであろう、日本と朝鮮半島の交流史を学ぶ機会を得たことは大きな財産だ、と素直に思えるようになりました。

 

 5日の研究会では、講師に、元・平沢大学日本学科教授の小幡倫裕先生をお招きし、『韓国の大学生から見た日本』というテーマでお話いただきました。いつもは地方史の古文書を読み解く講座が多かったので、興味深く拝聴しました。

 

 

 韓国の首都圏内にある14大学、語学専門学校、短大等で日本語を専攻する学生1215人にアンケート調査を行ったところ、「日本の何に興味があるか?」の設問では、日本語を専門課程で学ぶ学生が「①ドラマ、②食文化、③歌」と応え、日本語を教養課程で学ぶ学生では「①食文化、②アニメ、③漫画」という結果。日本のテレビドラマは、地上波での放送はないものの、衛星放送やケーブルテレビ等でかなり普及しており、日本のドラマをリメークした韓国ドラマもたくさんあるそうです。

 ちなみに「歴史」に興味があるという人は少数派。政治家やマスコミが騒ぐほど歴史認識問題って関心はないようですね。これは日本でも同じかも。

 

 

 1965年の日韓国交正常化以降も続いた反日運動というのは、“日本排斥運動”ではなく、文化面での脱日本化=韓国化運動でした。国交が正常化した以上、政治・外交・経済面では手を結ぶ一方で、反日のターゲットを文化にフォーカスさせた。文化開放を頑なに拒んだというのは、それだけ日本に対する警戒心や脱日本の意識が強かったのですね。

 

 80~90年代、アニメやマンガ等、サブカルチャーの分野で日本製が入ってくるようになりました。『キャンディ・キャンディ』や『マジンガーZ』は、日本製だとわからないようにエンドロールを変えて放送されていました。未だにこれらのアニメは韓国製だと信じている人も少なくないそうですが、この頃から着実に、お茶の間に“日流”ブームが浸透していきました。

 

 

 90年代半ば、韓国は中国やロシアと国交正常化し、文化開放しました。日本の大衆文化を規制し続けることに矛盾が生じ、また自国のハングル文化に自信を持つ若い世代が増えたこと等により、対日文化開放の機運が高まってきました。

 

 日本より早くインターネットが普及していった韓国では、今まで国産だと信じていたアニメが日本製だったこと、流行歌の中に日本の歌を剽窃(ひょうせつ=パクリ)ものがあったこと等が露見し、サブカルチャーの輸入規制は不可能になってきたんですね。

 

 そして1996年、サッカーワールドカップ2002を日本と共催することが決まり、金大中大統領は日本文化開放路線に大きく舵を切ります。この頃、韓国へ渡った小幡先生は、日本映画の『ラブレター』や『鉄道員(ぽっぽや)』が韓国内で大ヒットし、中山美穂の『ラブレター』での台詞「おげんきですか」が、今の日本の流行語大賞に匹敵するような一大流行語になった状況を直に体験されたそうです。

 

 

 そんなこんなで、その後の日本での韓流ブームもしかり、今の韓国の若者が日本語を学ぶ大きなきっかけにもなっているサブカルチャーの力、あらためて凄いなって思います。

 

 

 韓国では、高校で第二外国語を学ぶ(以前は必修、今は選択制)ため、10代のうちから日本語を学ぶ若者も少なくありません。韓国内で日本語を学習している人の総数は、2008年のリーマンショック時に比べ、2012年の調査で-12.8%とのこと。逆に中国語学習者は+26.5%増。経済の勢いそのままの数字という感じがします。

 高校で第二外国語が選択制になってから日本語を学ぶという若者は、受験や就職に有利というよりも、本当に、日本のサブカルチャーが好きなんだと思います。若い世代が、どんな分野であれ、日本語や日本文化にふれ、隣国同士の交流の在り方について考える機会を持ってほしいですね。

 

 

 

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 個人的に嬉しかったのは、小幡先生が、2007年に『朝鮮通信使~駿府発二十一世紀の使行録』が公開され、韓国語版DVDが出来た直後、大学の日本学科のゼミで使ってくださっていたこと。学生たちには、朝鮮通信使をテーマにした文化コンテンツを考える課題を与えたそうです。

 

 

 学生たちからは、「海游録、東瑳日記など、市販されている朝鮮通信使使行録をモチーフにしたドラマや小説を公募したらどうか。そうすれば必ずそれら使行録を熟読する人が増えるはず」「日本人向けに、朝鮮通信使が当時、日本に伝えたとされる朝鮮半島の伝統医学・東医宝鑑を体験する医療観光ツアーはどうか」といった素晴らしいアイディアが寄せられたそうです。

 こういう若者たちが、二十一世紀の通信使となり、新しい時代の使行録を創り上げ、伝えてくれるんだろうなあと胸が熱くなりました。

 

 研究会終了後、北村先生から「あのDVDが実際に役に立ったという話を初めて聞いたね」と冷やかされました。

 天野一会長も、「2015年の徳川家康没後四百年顕彰年に向け、朝鮮通信使関連の事業をふたたび」と力を入れてくださっています。

 

 

 映像制作は無理でも、何かやらなければ、という気持ちが沸々と刺激された夜でした。