杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

マイクロファンドの可能性

2014-02-20 21:12:25 | ニュービジネス協議会

 先日、静岡県ニュービジネス協議会中部サロン(定例会)で静岡キャピタルのチーフインベストメントアドバイザー内藤正英さんからマイクロファンド(小口投資)の話を聞きました。最初は、この頃よく聞くNISA(小額投資非課税制度)に関連した話かと思ったら、まったく違っていて、自分が気に入った事業に対し、一口2万円とか3万円とか、ホントに小遣い程度の小口投資をするという、今まであったようななかったようなしくみのお話でした。

 

 東京のミュージックセキュリティーズという会社が運営するマイクロ投資プラットフォーム「セキュリテ」は、

 

①会員登録(無料)をする

②全国さまざまな地域のさまざまな事業をWEBサイトの中から選び、契約を結んで出資金を振り込む。

 

③事業者は全国から集まった出資金を利用して事業を行う。

 

④出資者は事業の進捗状況を会員専用マイページで確認、出資者限定商品や交流会、ツアーなどに参加できる。

 

⑤契約期間中の売り上げの一部を分配金として受け取る。

 

⑥出資していない事業や商品でも、会員なら買い物可能。

 

 という、いたってシンプルな流れ。

 

 「ミュージックセキュリティーズ」という社名は、この事業が、アマチュアストリートミュージシャンをファンの力でCDデビューさせるため、ファンがオリジナルステッカーやシールを作って資金を集めた、いわゆる“音楽ファンド”から始まったことに由来するそうです。

 

 

 そして、テレビ東京の『カンブリア宮殿』で取り上げられて一躍注目されたのが、全量純米蔵を目指す会(全国20蔵加盟)の「全量純米酒ファンド」です。醸造アルコールを添加しない、米と米麹だけで醸す純米酒は、原料がオール国産米100%なわけですから、製造する全商品を純米酒にするというのは大きなコスト管理・リスク管理が必要となります。

 

 

 私個人は、醸造アルコール(江戸時代は焼酎、今は主にサトウキビを原料とした蒸留アルコール)を添加するのも、品質を安定させる、手頃な価格帯にする尊い技術革新だと思っているので、アルコール添加酒(普通酒、本醸造酒、吟醸酒)も差別なく好んで飲みますが、日本酒本来の伝統に回帰しようという流れの中で、全量純米酒に思い切ってシフトする酒蔵が増えているのは事実ですね。その流れの一端を、一般愛飲者がファンドというかたちで支えるのに、こういう専門の投資会社がからんでいたというのは、今回、初めて知りました。

 

 

 ちょうど内藤さんが用意してくれたのは、カンブリア宮殿で『奥播磨』(兵庫)の下村酒造店さんが取材を受けている録画映像。3年熟成の純米酒を発売するのに、3年分のランニングコストが必要ということで出資を募り、応募者は定期的に酒蔵見学をしたり、試飲会に招待されたり、分配金は少ないけど限定酒を分けてもらったりして大満足の表情が描かれ、「事業者も出資者もWin-Win のありがたいファンドなんだ!」と大納得したわけです。

 

 

 

 酒蔵では、3・11の震災で流された陸前高田市の酔仙酒造が、「酔仙酒造ファンド」を募集し、復興の一助にされています(詳細はこちら)。一般的な募金と違い、出資した資金が、どういう事業に投資されたのか、経過報告できちんとわかって、酔仙ファンはもちろん、一般投資家にとっても安心できるというのがイイですね。

 

 全量純米蔵の雄・神亀は、「神亀ひこ孫ファンド」を2007年から運営し、現在、償還率99%。石川県のぶった農産は特別栽培米コシヒカリの生産事業費を2009年、2010年とセキュリテで集め、償還率100%をクリアしました。

 

 

 他にユニークな事業として紹介されたのは、

 

●天馬らぁめんファンド・・・兵庫県赤穂市の赤穂の焼き塩を使ったご当地塩ラーメン店が、2店舗目を大阪に出店するのに必要な開業資金約1000万円を、小口投資(一口3万円)で募集。

 

●種子島自然発電ファンド・・・種子島自然発電株式会社が鹿児島県西之表市と契約し、計画した約1メガワットの太陽光発電施設の建設費用5740万円を、小口投資(一口5万円)で募集。

 

●実生ゆずのものづくりファンド・・・大阪府箕面市の「実生ゆず」を活用し、100%天然成分でつくるスキンケア商品開発。事業費約1500万円を、小口投資(一口2万円)で募集。口数に応じて新商品プレゼント、実生ゆずの収穫期に採れたてゆずの分別加工作業体験ツアー招待。

 

 ほか、静岡県内だと林業を応援する「天龍杉 明善ファンド」など。現在、ファンド募集中の事業はミュージックセキュリティーズのサイトを参照してください。

 

 

 2013年10月時点で、事業者数は113社、ファンド数は205本、募集総額3,725,826,100円、償還済みファンドは79本という状況。中には継続条件が満たされず、出資金を払い戻ししたという失敗事業もありますが、基本的に事業者は、ミュージックセキュリティーズの主要株主になっている全国の金融機関やベンチャーキャピタルからの推薦をもとに同社の条件審査を受け、募集ゴーサインをもらいます。投資家から集まった資金は、ミュージックセキュリティーズの手数料を除き、事業者の普通預金に入金されます。もちろん返済の必要なしで、基本、使い道も自由。

 

 内藤さんはベンチャー投資に対するスタンスを、「銀行は過去の決算書を見るが、ファンドはこの先3年の見込みで判断する。資金がゼロでも保証がなくても、事業に夢と将来性があれば挑戦する価値はある」とエールを送ってくれました。

 

 

 この話を聞いて、いずれは自分の映画製作も・・・と胸踊る思いになったのは確かですが、その前に、ニュービジネス協議会の会員さんで有望な新規事業があるので、まずはそちらのお手伝いを、と思っています。実際に動きそうになったら詳しく報告しますので、ぜひ応援してくださいね!