杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

静岡県の高糖度トマト

2014-07-01 07:18:40 | 農業

 JA静岡経済連発行の情報誌【S-mail (スマイル)】51号が完成しました。今回は高糖度トマトの特集。「アメーラ」「待ってたトマト」「スイートピュア」など話題のブランドトマト生産者たちにImg105 インタビューし、“勝てる農産物”“後継者が育つ農産物”とは何かをさぐってみました。

 

 限られた紙面ですべてを紹介しきることは不可能ですが、静岡県でお茶、みかん、メロン以外に国内外で競争力が期待される高糖度トマトの可能性を、ぜひ汲み取っていただきたいと思います。県下主要JAや農産物直売所(ファーマーズマーケット)等で絶賛、無料配布中です。

 

 

 

 ここでは静岡県の高糖度トマト栽培の歴史や特徴を、専門家に解説してもらった【スマイルマイスター】のページを紹介します。

 

 

 

日本一の品質と信頼を誇る、静岡県の高糖度トマト

 

解説/JA静岡経済連 みかん園芸部野菜花卉課 技術コンサルタント  永嶋 芳樹さん

 

 

 

品種は同じでも通常のトマトより+2度~の糖度

 

高糖度トマトはかつて「フルーツトマト」「濃縮トマト」といった呼び方をされていましたが、現在では「高糖度トマト」と呼ばれることが多いようです。品種は現在主流の〈桃太郎〉系統で、通常に作れば糖度は5度前後。これに特殊な栽培を施し、糖度を7度以上にしたものを「高糖度トマト」として流通しています。

 

Photo 高糖度にする特殊な栽培方法とは、簡単に言えば、水や肥料を制限し、硬く引き締まって濃縮した実にするということ。トマトの原産地南米アンデス地方の冷涼・少雨の高地に近い環境で、トマトが持つ本来の甘味を引き出す方法です。

 

日本のトマトは土に直接植えて育てる土耕栽培が主流ですが、水やりをコントロールする高糖度トマトの場合、土耕ではきめ細やかな調整が難しいため、機械でコントロールでき、季節に関係なく一年中出荷可能な水耕栽培にシフトしています。静岡県はこの水耕栽培の先進県なのです。

 

 

 

 

静岡県で開発されたワンポット方式

 

 気候温暖で日照時間に恵まれた静岡県は施設園芸発祥の地と言われ、温室メロンやハウスいちごのように質の高いハウス作物を生産しています。トマトを周年収穫する技術もいち早く確立し、盛夏8月を除く11ヶ月間、ミニトマトから中玉、大玉、高糖度トマト等、あらゆる品種を作っています。

 

Dsc04204 静岡県農業試験場(現・農林技術研究所)では平成2年からハウス内で作物の糖度を上げる技術開発に取り組み、平成4年、一般の水耕栽培に使用する養液よりも濃い培養液を開発。平成5年には培養液をひと鉢ごとに点滴注入するワンポット栽培方法を開発しました。水はけのよい育苗用ポットを野菜作りに初めて採用し、排水しても根はポット内にしっかり留まるようにしたのです。

このシステムを見学した掛川市の石谷昭さんと浅羽町(当時)の前田保雄さんが平成6年、自園ハウスで試験導入し、食味の優れた高糖度トマト栽培に成功しました。

 

その後、県内各地で養液ワンポット栽培に挑戦する生産者が増え、平成8年には静岡県養液濃縮トマト研究会が結成されて技術交流を図るなど、生産者の意識も高まり、各地でブランド化が進んでいます。

 

 

 

ハイレベルな静岡県のトマト生産者

 

高糖度トマトは水や養液の投与をいかにコントロールするかにかかっています。

 

トマトは水を切らすと、当然、上のほうに実った玉ほど水が薄くなり、糖度が上がります。メロンのように優れた実を一つだけ採るのであれば見極めも容易ですが、高糖度トマトの場合、栄養成長(葉や茎を伸ばす)と生殖成長(実を付ける)のバランスを見極め、ある程度の数量をベストな時期に収穫しなければなりません。

 

Dsc04194 静岡県の生産者は、葉や茎をほどほどに成長させ、同時に上手に水を切らして糖度を3段階ぐらいに分けて上げる―その難しいバランス加減を得意としています。

他県で導入された養液栽培では、量産を目指して大型ポットを導入しているものが多いようですが、静岡県では小型ポットでひと鉢ごとにきめ細かく管理。手間はかかるものの、栄養成長と生殖成長のさじ加減をしっかり取っています。

 

努力が奏功し、静岡県の高糖度トマトの糖度は平均8度とハイレベルで品質も安定しており、市場では現在、高糖度トマトでは量・質ともに日本一の折り紙を得ています。

 

 

 

ブランド競争に打ち勝つために

 

Dsc04308 現在、手間を擁する水やりの完全自動化に向け、さらなる技術開発に取り組む高糖度トマト生産者。機械工学はもちろん、設備投資に必要な経営管理、圃場拡大のために必要な農地管理法や、生産工場化に必要な水利関連の知識など、総合的な技術開発と情報収集が求められます。

 

小さな産地でもブランド競争できるだけの力を持つ高糖度トマト。産地間競争に打ち勝つための環境整備に向け、JA組織もバックアップ体制を整えていきます。