5月2日は八十八夜。立春から数えて88日目ということで、茶どころ静岡では新茶シーズン到来のシンボリックな日とされていますが、本来は、お茶だけでなく農作業全般にとって大事な季節の節目。
「米」という漢字を分解すると八十八になる。88歳のことも米寿と言いますね。そんなことから、農業に携わるすべての人にとって重要な日とされてきました。
お茶摘み唄に「夏も近づく八十八夜、野にも山にも若葉が茂る~♪」と歌われるように、春から夏に移る時期にあたり、八十八夜を迎えたら夏の準備を始めます。昔は八十八夜を目安に種まきなどをしていたそうで、今でも農家では、霜よけのよしずを取り払ったり、苗代の籾巻きを始めるというような慣しを行っているところが多いよう。
・・・というような話を、5月2日18時30分からオンエアのかみかわ陽子ラジオシェイク(こちらのネットラジオで聴けます)で話そうと下調べしていたら、幸運にも、前回ブログで紹介した『地産地消の歴史地理』の著者有薗正一郎先生から、近世農書が記述する水稲耕作暦のコピーが届きました。同書に、全国43の近世農書を元に先生ご自身で制作された暦を希望者に送る、と書かれてあったので、試しに希望の手紙を差し出したらすぐに送ってくださったのです。
有薗先生作・水稲耕作暦の「播種日」の一覧を見たら、ありますあります、「八十八夜」の記述が。ほかに「春土用」「3月中旬」「4月初め」等々。遠江の農書〈報徳作大益細伝記〉では「寒明70日目頃」とあります。寒明けが立春だとすると、今の暦で言えば4月下旬に種まきしたわけです。
田植えは播種日から約40日ぐらい後。有薗先生の暦では「小満」「夏至」「半夏生」の記述が並びます。二十四節気の言葉ってやっぱり当時の生活用語だったんだなあと改めて感心しました。
八十八夜は農業のみならず、瀬戸内海では豊漁の続く時期としての「漁の目安」とされたり、沖縄地方の島では「とびうお漁」の開始の時期ともされたそうです。漁業にとっても大切な節目の日だったんですね。
静岡で、八十八夜の日を何かの記念日にしている漁港があるのかなとネットで検索してみたんですが、ヒットゼロ。やっぱりお茶の八十八夜のイメージが強すぎるんでしょうかね・・・。でも静岡県ほど八十八夜という日が県民に認知されている県はほかにないだろうと思えますので、これを活かし、漁業と茶業の関係者がコラボして、この日にとれた魚と新茶を、それこそ米寿のお祝いにする、なんて仕掛けを考えたらどうでしょうか。
田んぼでも、田植えや稲刈りはわりと絵になる作業ですが、播種ってあまり絵にならないせいか注目されませんね。でも種をまいて苗を育てる作業ってとても大事だと思います。八十八夜という日を、農作業一つ一つの価値を見直し、季節の暦の意味を再認識する、そんな学習の機会にできたらいいなと思います。