杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

セルリーでやらまいか!

2008-11-12 12:31:09 | 農業

 今月は年明けに発行される編集モノが3本重なり、映画『吟醸王国しずおか』の撮影はひと呼吸置いて、ライターのお仕事に専念しています。

 

 「なんで完成まで何年もかかるの?」とよく聞かれますが、私も、カメラマンの成岡さんも、映画づくりがメシの種ではない身なんで、本業とのバランスや、撮影相手の都合などを調整していたら、どうしても時間がかかってしまいます。とくに酒造りは撮影の機会が限られるので、今年ダメなら来年まで待つなんてことも。本業をおろそかにしていたら映画どころか正月も迎えられなくなるというジレンマを抱えつつ、一方で映画づくりへの熱意を絶やさず、無理のないペースで…と思っています。ありがたいことに、これまでパイロット版試写会の参加してくれた方々から、個別試写会の依頼がいくつかあって、年内に3回できそうです。みなさんの応援が熱意の原動力になりますので、よろしくお願いします!

 

 

 

 というわけで、今朝(12日)はJA静岡経済連の情報誌スマイルの取材で、頑張って早起きして、三島の箱根山ろくに近いJA三島函南本店まで朝一で行って来たのに、担当者が日にちを勘違いしていて、ドタキャンを食らいました。往復3時間ちょっとの早朝ドライブになってしまいましたが、車内で、ふだん聴かない朝のラジオ番組なんか聴けて、それはそれで面白かった!ラジオのテレフォン人生相談なんて、聴いたの何年ぶりだろ。

 昔、ラジオCMのコピーを作っていたころは、“業務”として聴いていましたが、こうして何気な~く聴くと、局アナの落ち着いたしゃべりで、リスナーのはがきを読んだり、オンエアする曲をちゃんと紹介したり、というのが、新鮮かつ心地よかった! 日本語がきれいだし、発音もきれい。リスナーからのはがきやメールの内容も、実際に採用されるぐらいだから、ホントに面白い。

 

 今までラジオといえば、音楽情報優先でほぼ100%FMオンリーだった私ですが、AMラジオのDJ番組(しかも朝や昼間の中高年向き番組)がいいなぁとしみじみ思うなんて、自分もしっかり中高年??。

 

 

 

Dsc_0006  それはさておき、昨日(11日)は、同じスマイルの取材で、JAとぴあ浜松管内のセルリー農家を訪ねました。今年1月、別の媒体の取材で、湖西市のセルリー農家を取材したときも、ビックリでしたが、畑に植わっているセルリーって、ひと株3kgぐらいあるんですよね。手作業での収穫はかなりの重労働です。でも農家は、2Lという最大級サイズにしないと、市場でいい値がつかないので、一生懸命大きくなるように育てるそうです。

 セルリーはもともと地中海沿岸からインド北部の高原地帯が原産の冷涼野菜。育苗から収穫までの約180日間、20℃前後の気温をキープしなければなりません。日本では気候に合った長野が最大の産地で、静岡は全国2位。高原野菜栽培に強い長野でも、冬場は寒すぎるので、6~11月は長野産、11~6月は静岡産、というように、市場を“住み分け”しています。

 

Dsc_0010  静岡県では浜名湖周辺の西部地区がメッカです。冬季でも氷結するほどの寒さではなく、日照時間も適度にあって、戦後、県の農業関係者や農協が新しい特産品づくりに積極的だったというのが主な理由。確かにセルリーに限らず、現JAとぴあ浜松管内ではチンゲンサイやエシャレットなどいろんな野菜づくりに早くから取り組み、しっかり地元特産品に育て上げています。

 県の西部地域は、よく自動車や楽器など製造業者たちを例にあげて、“やらまいか精神”と称えたりしますが、農業という、この土地で動きようがない地盤と自然環境の中で、新しい挑戦をし続ける彼らこそ、やらまいかの象徴ではないかと思います。

 

 

 

 昨日は、そんなやらまいかの象徴のような農家に出会いました。JAとぴあ浜松セルリー部会長の田邊徳久さん(47)。ピーク時より会員が半減したというセルリー部会(130名)を率いて2期目。温度管理が難しく、収穫時には一時的に人手が必要で、燃料代やビニールハウスなどの資材代が高騰の一途という厳しい状況下、他の作物のほうが作りやすい、コストがかからない、市場で値がつきやすいといって安易に乗り換える農家が多い中、「今、セルリー栽培に取り組んでいる130人の意欲を、収益という形にして還元する」ために尽力しています。

  

 「昔はセルリー自体が物珍しくて、作れば何でも売れた。でも今は品質が悪ければダメ。いいモノを作るという意識改革が必要です」と明言。温度管理をはじめセルリーは高い生産技術が求められるため、管内全セルリー農家を集め、成功している人のやり方を学ぶ生産者大会を企画したり、収穫時に人手不足に陥るリスクには「収穫前に余分な葉を抜いておくなど、前工程をしっかりやっておけば、収穫時の作業は軽減される。大変だとかできないとか言う前に、工夫する余地はないか全作業を点検し、やりくり上手にならねば」と応えます。

 成功する人とそうでない人の違いは?と訊いたら、「愛情のかけ方」とズバリ。なんだ、こないだの松下明弘さんの話と同じだ…とひとりガッテンしました。

 

 

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 田邊さんに会う前、JA職員に生産状況を聞いていた限りでは、後継者が減っているとか、生産量は長野の半分とか、野菜も新しい種類が増えてレタス、キャベツ、セルリーは苦戦しているなど、気分が落ち込むような話ばかりでしたが、田邊さんと話していると、セルリー栽培って伸びシロあるじゃん、って思えてきます。

 「楽しんで作らなきゃだめですよ。こうしたい、こうなりたいって思いがあれば、必ずそうなりますよ。考え方ひとつです」と田邊さん。ビニールハウスの中で「元気な顔で」とリクエストして撮った写真を見ると、この人、ホントに楽しそう、いい笑顔してる!って実感しました。

 

 

 通常、JAの部会長職は1期2年で交代のところ、田邊さんは全部会員とJA幹部の総意で4年現職を務めているそうで、今ではテレビの全国放送や雑誌等の取材でもセルリーの顔としてひっぱりだこ。酒もそうですが、地域を元気にするにはカリスマ生産者の存在が不可欠ですね。

 いくらJAが周辺環境を整えたり、イベントを仕掛けて盛り上げようとしても、作り手から元気が伝わるような産地でなければ。マスコミに「この人に会いたい!」「たくさんの人に紹介したい!」と思わせる作り手が一人でもいれば、地名や品質の価値は黙っても一緒にくっついて来ると思います。

 

 

 

 セルリー農家のおばちゃまから小耳に聞いた簡単レシピを上げておきます。静岡産の露地物出荷は今月下旬から。来月以降はハウスものが出回ります。セルリーってまだサラダでボリボリかじるぐらいしか食べ方がわからないという人も多いのでトライしてみてください。セルリーはビタミンA、B群、食物繊維が豊富で、あの独特の香り成分アビオイルには、抗がん作用、精神安定、更年期障害の軽減などが期待されるそうです。とくに葉っぱに栄養分が豊富に含まれるので、味噌汁やスープなどに気軽に使いましょう!

 

 

 

◆セルリーの塩コンブ漬け

セルリーをななめ薄切りにし、さきイカ、人参細切り、塩コンブと一緒に混ぜ、30~40分置くと出来上がり。

 

 

◆セルリーチャーハン

セルリーはスジを取って小口切り。茎と葉はみじん切り。フライパンにごま油を熱し、セルリー、サクラエビ、焼き豚(細切れ)を炒め、卵を加えて半熟状態になったらご飯を入れ、塩こしょうで味付けし、仕上げに鍋肌からしょうゆを流してザックリ炒め合わせて出来上がり。



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