杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

ポートランド紀行(その2)地酒&ファクトリーツアー

2016-06-24 14:21:17 | 旅行記

 ポートランド紀行のつづきです。

 6月8日夕方、ポートランド国際空港に着いて、迎えに来てくれた妹Kaoriに連れられたのが、空港からほど近い郊外のマイクロブルワリー『ECLIPTIC』。レストラン併設の地ビール工房です。Kaori曰く、この店は本格的なフレンチシェフがいるから料理も◎。ビールは12~13種類。リストにはアルコール度数に加え、IBU(ホップの量=苦味の目安)が添えられています。

 ビールを選ぶときは、IPA(India Pale Ale)タイプか、各ビールのIBU数値を基準にします。試してみたいビール5~6種類を少量ずつ頼めるきき酒セットがあって、気に入ったものを次に定量オーダーするというスタイル。

 IPAはかつてイギリスが植民地インドに運ぶ際、腐敗防止のために造ったストロングタイプで、ホップ感が強くアルコール度数も高い。北米のマイクロブルワリーではカスケードというフローラルな香りのホップを使うことが多く、独特の香りが楽しめるというわけです。日本酒にたとえると、カプロン酸系酵母を使った超辛口の山廃or生もとって感じ? 一緒に旅した平野斗紀子さんはビールのヘビードリンカーなので、どんなタイプもウエルカム。私は(ふだんビールは日本酒の合間にチェイサー替わりに飲んでいるので)やっぱりあんまり重辛いタイプは苦手かなー。複雑な素材の個性を生かすか、バランスよく醸すか、醸造家の考え方や腕のみせどころですね。

 

 

 

 翌9日は午前中、ポートランドの南東部にあるオレゴン州ミルウォーキーにある全米有数の製粉メーカー『Bob's Red Mill(ボブ爺さんの赤い製粉工場)』のファクトリーツアーに参加しました。ボブさんが1960年代、カリフォルニアで石臼機械で製粉事業を興し、鉄の臼が主流になる中でも石臼にこだわり続け、オレゴンに移転。1988年に工場を焼失するも、奥様と二人三脚で一から再建し、オーガニックの小麦粉やシリアルを作り続けています。見学コースには創業当時に使っていた石臼機械類が展示されていました。日本の蕎麦や抹茶づくりに使う石臼と構造的には同じですから、どことなく親しみを感じます。

 

 ケンタッキーフライドチキンのカーネル・サンダースみたいに、ブランドの顔になっているボブ爺さん。てっきり伝説の故人かと思ったら、ご本人登場でビックリ!私たち一般ツアー客ではなく、カナダからやってきたVIP客を直接お出迎えしていた場面に運よく出くわしました。

 

 

 午後はアメリカを代表する伝統的なウールアパレル・ブランケットメーカー『PENDLETON』の工場を見学しました。1863年創業という老舗。オーソドックスなデザインで“アメリカの良心”として知られるブランドだそうです。

 沿革をみると、イギリス生まれの若い織工トーマス・ケイがアメリカンドリームを求め、羊の飼育とウールの生産に最適な、穏やかな気候と豊富な水に恵まれたオレゴンにやってきて、毛織物工場に就職。ナンバー2にまで出世した後、独立起業。ケイの娘ファニーが小売商ビショップと結婚してから製造&小売一貫で発展し、ワシントン州ペンドルトンをベースに高級ウールメーカーとしてブランディングに成功したようです。地名がそのままブランド名になったんですね。

 工場の建物自体は古かったものの、イタリア製の1台数億円という最新式織機がズラッと並んでいました(写真撮影NGでした)。工場併設のアウトレットでは70%OFFの激安や、1枚買うともう1枚サービス、なんて嬉しいサービスも。日本でも取扱店があるみたいです。こちらをご参照ください。

 

 PENDLETONで買い物を済ませた後、ワシントン州ワシューガルにあるマイクロブルワリー『Amnesia Brewing』に立ち寄りました。午後の3時ぐらいでしたが、夕方まで“Happy Hour”でお得に飲めるとあって、ご近所のお年寄りや若い観光客が楽しそうに飲んでいました。ここでもIPAをはじめ、個性的なラインナップがズラリ。

 ポートランドの地ビール文化については、こちらのサイトがとても参考になりました。

 

 9日夜は、妹が店主を紹介したいからといって、ポートランドのダウンタウンから少し離れたところにある居酒屋『Tanuki』に連れて行ってくれました。休業日だったにもかかわらず、妹の卒業祝いのために開けてくれたのだとか。

 女性店主のジャニス・マーティンさんはもともとフレンチの料理人で、日本のサブカルチャーにぞっこん惚れ込み、たった一人でこういうお店を作ったそうです。和食の店ではなく、日本のアニメやB級映画や赤ちょうちん文化を愛するジャニス自身が自分の好みで創り上げたって感じ。いつも予約で満席らしく、この日はほかに予約待ちしてくれている常連客何組かに声をかけたそうで、気が付いたら満席。全員地元の白人さんでした。

 

 料理は沖縄料理のテイストを活かした創作料理。お通しに韓国海苔と、ポップコーンに醤油をかけて炒ったものが出てきて、これがなかなかGOOD。日本酒も、日本でもかなりの地酒通の店クラスの純米吟醸や純米大吟醸がズラッとそろい、ジャニスおすすめの富久長(広島)のほか、伝心(福井)、雪の茅舎(秋田)をチョイスしました。どうしてこういう店を創ったのか聞いてみたかったのですが、一人で忙しそうに切り盛りしていて、声をかけるタイミングを逸してしまいました。

 

 

 妹から、静岡の地酒を持ってきて、とリクエストされていたので、彼女の卒業祝いに乾杯するつもりで持ってきた『喜久醉純米大吟醸松下米40』。妹はそれを開封せずにジャニスにプレゼントしちゃいました。妹曰く「おんな一人で頑張っているジャニスに、最高の日本酒を飲ませてあげたいから」。

 平野さんが指をくわえて名残惜しそうにしていましたが(笑)、この酒がジャニスの手に渡った意味がきっとあるに違いない、と思いました。

 



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