杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

ウズベキスタン視察記(その4)~日本大使館訪問

2018-01-05 20:54:52 | 旅行記

 私たち一行は10月14日夜、タシケント郊外にある日本大使公邸を訪問し、伊藤信彰大使の歓待を受けました。公邸の建物は欧州風ですが、床には箱根の寄せ木細工が施され、雛人形や東山魁夷・平山郁夫の絵画がディスプレイ。くつろいだ雰囲気の中、大使からウズベキスタンの国情についてレクチャーをしていただき、大使館付きの日本人シェフが用意してくださった和食をありがたく戴きました。大使からは直接、ウォッカの味わい方のご指南も。ウォッカは、大使館で提供するような高級品はロシア産。ウズベキスタン産は庶民向けの「地酒」だそうです。

 

 

 ウズベキスタン国内には140人の邦人が暮らしており、うち35人がJICA関係者、20人が大使館関係者。残りが民間人ということで、現在、27の民間企業が法人登録しています。主なところでは三菱商事、伊藤忠、丸紅の各商社、日立や日立造船、三菱重工、川崎重工、三菱東京UFJ等。日本政府のODAによってナボイ発電所の近代化、トゥラクルガン発電所の新設、アムブハラ灌漑施設リハビリ計画等が進み、JICAの技術協力では医療器材の供与、弘前大学等が高品質のリンゴ(ふじ)の技術指導を行っています。本格的な民間投資はこれからのようで、ウズベキスタンにとっては陸続きのロシアと中国が「象」、韓国が「馬」並みの存在ならば、日本はまだまだ「蟻」に過ぎないそう。あらら。

 ウズベキスタン経済は2015年の数字でGDPは660億ドル、経済成長率は6,8%、物価上昇率は9,8%。貿易輸出額は129億ドルで、ガス30億ドル、サービス30億ドル、農産・食料品13億ドル、綿花・糸・布7億ドル、自動車2億ドルという内訳です。一方、輸入額は124億ドルで機械設備50億ドル、化学品等が21億ドル他。貿易相手国は①中国、②ロシア、③カザフスタン、④韓国という順番です。日本はウズベキスタンから1億ドルの輸入がありますが、99%が「金」だそうです。

 

 独立後のウズベキスタンを指揮したカリモフ前大統領(2016年9月死去)は、経済パートナーとして中国に建築土木、ロシアに交通インフラ、電力&ITを韓国と日本、というように上手に棲み分けをしました。

 韓国が「馬」で日本が「蟻」なのは、第二次大戦中、朝鮮半島から30万人が日本の支配を逃れて内陸のこの地までやってきて定住し、市民権を得たため。タシケントには韓国料理の店はたくさんありますが、日本料理の店は皆無です。もちろん日本酒が飲める店もゼロ。ありゃ~ですが、今後は日本食や日本酒が進出する余地は十分ありそうです。ウズベク人は緑茶や紅茶を好むそうで、静岡茶を提供する機会があったら、大いに人気を集めるだろうと思いました。

 電力インフラでは三菱や日立が頑張って発電所を続々建設し、いすゞ自動車と伊藤忠が現地企業と設立した合弁会社サムオートは乗り合いバスや小型トラックを年間4000~5000台造っています。IT関連ではNECとオガワ精機等が地デジTVプロジェクトの契約を獲得し、ユニ・チャームはウズベキスタン最大のスーパーマーケットチェーン「カルジンカ」にロシア商社を通しておむつを輸出、島津製作所は約120の病院にX線設備を輸出し高い評価を受けています。2017年9月に為替交換・外貨送金の自由化が実現したため、投資環境は徐々に改善されていくだろうと大使も期待を寄せています。

 乗用車に関してはGMウズベキスタンが大きなシェアを持っていますが、トヨタもレクサスのディーラーをタシケントに開店準備中。200%という高額な関税がネックながら、中央アジアの人口の40%を占め、出生率は日本の3倍、若年層が年に50万人も増加している国ですから、市場はもちろん、日本への理解や関心の広がりも大いに期待できると思います。

 伊藤大使は「ウズベキスタン人の対日感情は、どの国よりも良い。日本製品にも絶大な信頼を寄せている」と明言されました。要因の一つは、1945年から46年にかけ、この地でインフラ整備に従事した日本人抑留兵812人の功績。厳しい労働環境の下でも与えられた仕事に全力を尽くす姿に、当時のウズベク市民も感銘を受けたとされています。その代表例が『国立ナヴォイ劇場』(後に詳しく紹介します)。カリモフ前大統領も幼い頃に日本人の真摯な姿を目にしていたそうです。この地で永眠した日本人を慰霊する墓地は国内に13カ所。いずれも現地の人々が大切に維持管理してくれています。

 軍事はロシアの影響下に置かれています。プーチン大統領は一時、アメリカの接近を許したものの、カリモフが反政府勢力に武力行使したことを欧米が批判し、アメリカとの関係も悪化。今はふたたびロシア寄りに戻っているようです。

 国際ジャーナリスト伊藤千尋氏の『凛とした小国』には、カリモフのことを欧米メディアが「最も残酷な独裁者」と呼ぶ、と書かれていました。野党が許されない独裁国家で警官の数が樹木の数よりも多く、つい最近までイスラム原理主義運動のテロが何度も起きて大統領が暗殺される寸前だったと。

 中央アジアは基本的にイスラムの国ですが、岩崎一郎氏他編の『現代中央アジア論』によると、ソ連は20世紀初頭までこの地に反イスラムと共産主義を徹底させ、第二次大戦後は逆にイスラムに寛容な姿勢を取って「ソ連が欧米よりも信頼できる友邦である」と誇示。ソ連崩壊後、イスラム教は各民族の伝統文化の一部と位置づけし、ソ連時代は断絶していたスーフィズム(イスラム神秘主義)の墓廟等も整備されましたが、カリモフ政権はイスラム原理主義の台頭を強く警戒しました。とくにカリモフ政権に対してジハード宣言をしたウズベキスタン・イスラム運動(IMU)の動きは過激で、指導者ヨルダシュとナマンガニーは1999年、隣国キルギスでJICAから派遣された日本人鉱山技師らを拉致する事件を起こします。タジキスタン政府が仲介に入って約2か月間の交渉の末、人質は無事救出されました。

 

 このような環境下で経済を立て直し、社会を安定させなければならないカリモフ前大統領が強権をふるうのも無理からぬように思えます。今回の旅でも、現地の人々から彼が独裁者だったという声はほとんど聞かれず、強力なリーダーシップを発揮して国を立て直したカリスマ、という印象を受けました。

 「ウズベク人は周辺諸国に比べて勤勉で真面目。一度言われたことはきちんと覚えようとします」と伊藤大使。いすゞ自動車が出資したサムオートでは、日本とインドネシアのいすゞ工場から取り寄せる部品を組み立てる作業が中心ですが、勤勉で真面目な国民性が大いに発揮され、丁寧な仕事が評価されているそう。同社には4日目に直接訪問しましたので、追ってご報告します。(つづく)

 

 

 

 

 



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