杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

家康公の洋時計・舶来400年

2011-07-24 11:07:40 | 歴史

 7月16日(土)夜は、静岡市産学交流センターB-nestで、『しずおか時の会』第1回勉強会に参加しました。…いやはや長い一日で、なかなか17日以降の記事にたどり着けないまま1週間過ぎてしまった(苦笑)。

 

 『しずおか時の会』というのは、新聞記事等でご承知のかたもいらっしゃると思いますが、久能山東照宮に所蔵された家康公の洋時計を静岡の街のシンボルにして、その音色を街中に響かせようと、街頭からくり時計を設置する運動を始めた「駿府静岡からくり時計実現会議」 主催のセミナー。発起人には郷土史家の黒沢修先生や、日ごろお世話になっている上川陽子さんが名を連ねていることから、私も会員になりました。

 

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 第1回の勉強会は、当初、時計のプロフェショナルである㈱安心堂の金子厚生さんが講師を務める予定でしたが、「初回の講師はぜひこの人に」と金子さんが急きょ、久能山東照宮の落合偉洲宮司をお呼びくださって、“家康公の洋時計”についての基礎講座となりました。

 

 

 私は映像作品『朝鮮通信使~駿府発二十一世紀の使行録』制作時に東照宮の博物館に何度か通っていろいろ勉強したつもりでしたが、洋時計のことは、「家康大御所時代は、鎖国のイメージはなく、南蛮船が活発に往来していた時代」の証拠の一つ、ぐらいにしか認識がありませんでした。いやはや、こんな大事な歴史秘話を知らずにいたなんて、歴史好きを公言する資格はありません(恥)・・・

 

 

 詳しくは、黒沢先生が編集されたこちらのサイトをじっくりご覧いただくとして、かいつまんで紹介すると、

 

●世界史で習う大航海時代の、ちょうど今から400年前の1610年、スペイン領だったフィリピンの提督ドン・ロドリゴが、同じくスペイン領メキシコへ戻るとき、遭難して、千葉県御宿海岸に流れ着く。

 

●彼が乗ったサンフランシスコ号には373人の乗組員がいたが、御宿の漁民総勢300人の懸命の救助の甲斐があって、317人が助かった。海女さんたちが乗組員たちを抱いて自分の体温で温めて救ったという逸話も残る。

 

●ドン・ロドリゴ提督は地元城主の案内で江戸城の2代将軍秀忠のもとへお礼に行き、駿府の大御所家康のもとにもお礼に行く。家康の命で、当時、伊東で三浦按針が製造していた帆船で彼をアカプルコまで送り届ける。

 

●翌1611年、メキシコから答礼使がやってきて、スペイン国王から託された王室御用達の時計職人ハンス・デ・イヴァロ作の洋時計を家康に贈る。

 

●家康は1616年4月11日に亡くなるが、その直前まで手元に置いて、大名お抱えの時計師に見せたりしていた。それがきっかけで日本でも「からくり歯車」の仕掛けが発明され、からくり人形が誕生した。幕末には長崎で田中久重がゼンマイ時計を発明する。

 

●家康没後、洋時計は東照宮の蔵の中に収まり、日の目を見ることがなかったが、『広辞苑』の編者で知られる国語学者の新村出氏(父は初代静岡県知事関口隆吉)の叔父が、久能山東照宮の宮司だったことから、新村氏が母校・東京大学の歴史編纂所で洋時計のことを調べて注目される。

 

●ハンス・デ・イヴァロの同型の時計がスペイン王室にも残っているが、音が出ないため、「時計の音を送ってくれ」と依頼がくる。そこでNHKが収録してスペインに送った。そんなことが話題になった後、久能山東照宮から洋時計が盗まれるという事件が起きる。

 

●毎日新聞に静岡市内の小学生が犯人に宛てた投稿文が掲載された。「壊さないでそっと返してください、見つかったら僕が一緒に謝ってあげるから」という内容。その記事を読んだ犯人が新聞紙に洋時計を包んで返却し、犯人は逮捕された。

 

●投稿した小学生というのは、静岡市の老舗珈琲店リッツの息子さんだった。後に犯人とも面会した。

 

●千葉県御宿海岸には、メキシコ大使もやってきて、記念レリーフが造られた。御宿の地酒「岩の井」の蔵元・岩瀬酒造には、サンフランシスコ号の帆柱が天井の梁に使われている。

 

 お話をうかがった印象では、300人の漁民が317人の乗組員を救った御宿こそ、洋時計を贈られる価値があるような気もしないでもありませんが(苦笑)、母国スペインでは音が鳴らなくなった400年前の時計が、ここではちゃんと鳴るってことは、東照宮の蔵の中の保存状態が素晴らしかった=家康公の手元にあったということに価値があるわけですね。

 

 

 現在、洋時計は重要文化財ですが、久能山東照宮では「国宝」指定を目指して尽力中。古い洋時計の価値を判断できる専門家が日本にいないため、大英博物館に“鑑定”を依頼することにしたそうです。

 個人的には「岩の井」の酒蔵の梁を見てみたいという衝動にかられた勉強会でした。


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