今日(29日)は1年ぶりに磯自慢酒造の撮影をしました。杜氏の多田信男さんにお会いするのは3か月ぶり。昨年10月に実家の岩手県北上市から焼津市まで蔵入りする道中を密着撮影させてもらって以来です。吟醸造りのピーク時とあって、さすがにスリムになって引き締まった様子。会うなり、「お正月の読売新聞岩手県版に載せてもらったんだゃ」と嬉しそうに報告してくれました。
コピーを見せていただくと、地方版ながら、カラー半5段の堂々とした特集記事。“「国酒」生む麹の達人”の見出しが光ります(2009年1月3日付の読売新聞岩手県版を入手できる方はぜひチェックしてみてください)。
プロフィール欄には、「息抜きに巨人観戦と宝塚観劇」。実は、多田さんの姪は宝塚宙組の男役トップ・大和悠河さんで、時々上京しては劇場に足しげく通うそうです。今年7月に退団されちゃうんですよね。宝塚と磯自慢の組み合わせ…なかなかユニークです。
休憩室でくつろぐみなさんの話題は、蔵人の一人に昨日(28日)、赤ちゃんが生まれたというホットなニュース。もう一人、3月に長子誕生予定の蔵人もいます。「酒が好きで集まってきた若者たち」と思っていた彼らも、結婚して家庭を持って親父になって、酒造りの仕事が趣味ではなく、責任を伴う本業になったんだなぁと、頼もしく思いました。
抜けるような青空のもと、午前中はおなじみの洗米作業の撮影です。今回の撮影では、カメラマンの成岡さんに、多田杜氏の表情や一挙手一投足を逃さずおさえてくれ、とお願いしました。今日の多田さんは米を自動計量機で計る裏方役。「今期の米は融けやすい」と一瞬、厳しいまなざしを見せました。
静岡経済同友会新年会の打ち合わせで、昨年暮れ、役員のみなさんと一杯やったとき、磯自慢本醸造の19BYと20BY(しぼりたて)を目隠しで呑み比べし、きれいですっきりとしたほうを20BY、味がのっているほうを19BYと判断したのですが、正解は逆でした。
そのことを多田さんに話すと、「やっぱり今年のは溶けていたんだな」とのこと。19BYの米が、いつもより溶けにくい米だったので、よけいにその差が出たのかもしれません。
米質は出穂時期(8月末~9月初)の気温や台風・長雨の影響などで、毎年コンディションが変わります。異なる条件であっても、つねに同じ磯自慢の味を醸し出すには、納入した米を袋から出して計量するときから、一瞬たりとも油断できない…そんな決意のほどが、多田さんの横顔から伝わってきます。
今日は酛屋の菅原さんが実家の用事で帰郷されているため、多田さんが酛造りも担当します。酛立てしたばかりで米粒がはっきり見てわかる若い酛には、直接手を入れて攪拌します。「肌センサーで確かめているんですか?」と訊くと、「櫂棒を使うと力が入りすぎる。やさしくこねてやるのが大事なんだ」と多田さん。こういう繊細さは、ワインづくりや焼酎づくりにはないはずです。
静岡経済同友会のみなさんがパイロット版での菅原さんの酛づくりを観たとき、「なんで機械や棒でやらないの?非効率じゃない?」と言っていましたが、効率を上げる部分とそうじゃない部分があるから、酒造りはただの製造業にはない面白さがあるんですよと応えた私。…今の企業人にはピンとこないかもしれませんね。
さてさて、今日の撮影には、SBS静岡放送の花形アナウンサー・水野涼子さんが、自身が担当するテレビ夕刊の取材クルーを伴って来てくれました。
涼子さんは、知る人ぞ知る左党。きき酒師の資格も持っているんです。わがしずおか地酒研究会にも昔からちょくちょく参加してくれて、『女性と地酒の素敵なカンケイ』というトークサロンを企画したときは、パネリストの一人になってもらったことも。『吟醸王国しずおか』映像製作委員会にも個人会員に入ってくれて、昨年夏にパイロット版上映会が新聞に取り上げられた頃から、ニュース枠でもぜひ、とありがたい申し出をくださったのでした。
数日来の風邪がなかなか治らず、鼻水グジュグジュでマスクが手放せない状態。とてもインタビューなど受けられる顔じゃなかったんですが、磯自慢酒造の寺岡社長がナイスフォローをしてくれました。
涼子さんは涼子さんで、中取り純米大吟醸35(サミットの酒)のタンクをめざとく見つけて、タンクの肌を愛おしそうに撫でていました。搾ったばかりの本醸造が半量ほど注がれたきき猪口を手渡されると、「わぁ~こんなに呑めな~い!」と満面の笑顔。すかさず「おいおい、全部呑む気かよ」と突っ込んでやりました(笑)。SBSのカメラクルーも「今日、一番いい顔をしたなぁ」と冷やかします。
彼女のように、本当にお酒が好きで、地酒の価値を分かってくれているメディアの人に応援してもらえるのが、何より嬉しいですね。蔵元さんにしてもそうだと思います。
放送は2月6日(金)18時16分過ぎからのSBSテレビ夕刊Eニュースの枠内です。私は6~7日と東京出張でオンタイムには見られませんが、視聴可能な方は、私のひどい風邪声とむくれ顔をご笑覧くださいまし。