杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

貧者の一燈

2008-04-05 12:02:23 | しずおか地酒研究会

 遅ればせながら、カメラマンの成岡正之さんが録画しておいてくれた、2月7日放送の静岡発!そこが知りたい『あっぱれ!吟醸王国しずおか 銘酒と肴で大満足!』を観ました。

 

  静岡の酒を取り上げた番組を、これまであまり観たことのない視聴者や新しい地酒ファンには、入門編的な意味で楽しめたかと思います。おなじみの蔵元や飲食店が登場して拍手喝采、という人もいたでしょう。今後、第2弾・第3弾で県東部~県西部の蔵元も登場するみたいですから、ご当地のファンの楽しみも膨らむと思います。

 

  内容に関しては、私が取り組んでいるドキュメンタリーとは、企画意図も制作方法もまったく違うので、言いようがありません。

 ただ、「あっぱれ吟醸王国しずおか」とタイトルで謳っているのに、何があっぱれで、なぜ吟醸王国なのかが、映像からさっぱり伝わってこなかったというのが第一印象でした。

 

  「銘酒と肴で大満足」といわれても、テーブルに並んだ酒の瓶や料理皿だけ見せて、レポーターが口でうまいうまいと言うだけでは、視聴者は「大満足」できないんじゃないかな。やはり、酒造りの現場や、料理人の技の画がないと、雑誌の平面記事と大差ないでしょう。映像作品には、動画ならではの迫力や感動が大事なんだ、それを伝えるには現場にはりついて時間をかけて撮るしかない…という当たり前の鉄則を改めて実感しました。

 

  磯自慢の寺岡さんが、同時期に取材に来たテレビ朝日の『人生の楽園』という番組の作り方と比較し、「30分番組だし、うちが画面に出た時間はほんのわずかでしたが、現場をよく撮影していたし、人物取材が中心だから、撮り方がきめ細かかった。やっぱり東京キー局の制作はレベルが高いですね」と感心していました。

 

  SBSの人にしてみたら、「カネのある番組と比較されても困る」と言い返したくなるところでしょう。でも、カネのかけ方の違いで片付く話とは違うような気もするんですね。

 

  成岡さんが聞いたところ、『あっぱれ!吟醸王国しずおか』は、SBSのベテランディレクターさんが個人的に静岡の酒を長年追いかけ、自分でずーっと温めてきた企画だそうです。私、20年、蔵元ウォッチをしてきましたが、この人と会ったことは1度もありません。SBSの方はたくさん知っていますし、しずおか地酒研究会にも何人か入ってくださっていますが、その方たちからこういう人がいるって聞いたこともないなぁ。第一、長年温めてきた企画ならば、もっと深みのある映像をなぜ撮らなかったの?って素朴に思います。

 

  先日、静岡県清酒鑑評会一般公開でインタビューを撮らせてもらった静岡在住の外国人の方も、自分は30年来、静岡の酒を愛好し、蔵元に友達がたくさんいる、と自慢していました。

 

  「外国人のこういう人がいる」と初亀さんから初めて聞いたのが去年、映画プロジェクトの相談に行ったときで、「初亀さんからこういう人がいるって聞いたから取材してみれば?」と雑誌sizo:kaの編集長に紹介したのも去年のこと。

 

  しずおか地酒研究会で、8年前に、東京から松崎晴雄さんとジョン・ゴントナーさん(アメリカ人日本酒ジャーナリスト)を招き、静岡市国際交流協会の協力で静岡在住の外国人の方に集まってもらい、「地酒で国際交流」というイベントをやったことがあります。参加してくれた6社の蔵元に自社PRを英語で書いてもらい、実際に英語でスピーチしてもらうなど、無理難題をお願いしながらも楽しんで開催したわけですが、そのときにはこの方の存在をまったく知らなかったので、今回初めてお話をし、「失礼なことをした!」とあわてて、その方のブログをチェックしてみました。しかし、30年来、地酒を愛好しただけの情報や思い入れが、なぜか伝わってきません・・・。こちらの期待値が高すぎるのかなぁ。

 私はずーっとローカルの活字の世界で、個人の範疇で書ける範囲でチマチマと地酒情報を発信してきたので、テレビやネットの世界で、不特定多数に幅広く地酒情報を発信している人のスキルや影響力をうらやましく思い、参考に出来るものがあればぜひ学びたい、自分が見過ごしていたところを灯してくれる燈りがほしいと思ってきました。でも、燈火になってくれるものになかなか出会えません。

 

  そうこうしているうちに、しずおか地酒研究会の創立メンバーで、私の活動をずっと応援し続けてくれた萩原和子さんから、「貧者の一燈」です、と、吟醸王国しずおか映像製作委員会・大吟醸会員への申込みをいただきました。個人で大吟醸会員に申し込まれた方は、萩原さんが初めてでした。ビックリして腰を抜かしそうになり、ご本人にあわてて確認したところ、「このプロジェクトはホントに大吟醸100本分の価値があるから」と泣けてくるようなお答え。

 

  実は、映画の支援金の呼びかけを始めた3月中旬から、眠れない日が続き、萩原さんの申し出の翌朝、髪を洗ったら、円形脱毛症を2つも発見!「誰一人、助けてくれなかったらどうしよう」「依頼書1枚で出資してくれるなんて、なんてありがたいんだろう」等々、不安と感謝がない交ぜになったここ数日、自分でも意識しないうちに、たまっていたんですね、ストレス。

 

  萩原さんの「貧者の一燈」という言葉は、まさに、今の自分の状態そのもの。目の前で燈火になってくれる人がいない世界で、いつ消えるかわからない、小さく細い燈火を懸命に掲げ、暗路を少しずつ歩き始めたところですが、萩原さんのような応援団が、身銭を切って燈火を守ろうとしてくれます。そのことの重く深い価値を噛み締める意味でも、この先、シリーズ放送されるという『あっぱれ!吟醸王国しずおか』という番組を“期待して”観ようと思います。

 

 *吟醸王国しずおか映像製作委員会 会員募集

吟醸王国と謳われる質の高い静岡の酒造りをハイビジョンカメラで映像化し、後世に伝えるプロジェクト。応援してくれる個人・団体を募集しています。会員には、作品完成後、会費に応じた枚数のDVDを進呈。また会費に応じて特典DVD、あるいはご本人出演のオリジナル特典DVDを制作・進呈します。

問合せ・申込みはプロフィール欄の鈴木真弓メールアドレスまでご一報ください。

 


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