杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

ひと夏の思い出

2009-08-16 11:52:07 | 旅行記

 今週はお盆休み明けまでの締め切り原稿が4本あって、いつもなら2日もかからずUPできる量でしたが、地震のおかげですっかり調子が狂ってしまいました。まだ全部終わっていない・・・。8月31日の小学生気分です(苦笑)。

 

2009081413380000

 ずっと部屋にこもっていて食糧が底を尽きかけた一昨日(14日)、両替町の居酒屋でバイトしている友人の娘が静岡の夜店市でビールやつまみを売っていると聞き、その友人と冷やかしに行くことに。県庁市役所前でバスを降りたら、眼の前の駿府城の外堀がこんな状態になってました。お堀の石垣が崩れている姿なんて、静岡市民には想像できませんよね。まるで戦争で爆弾でも落とされたみたい・・・。

 

 夜店市は急などしゃぶりで散々な目に・・・。歩行天の屋台でビール呑んで涼むなんて気分になれず、フツウに居酒屋で呑んで友人宅でお茶して帰りました。昨日~今日とふたたび部屋で素籠り状態。相変わらず余震にビクつく時間が続きます。

 

 

 ここ数日いただいたメールの中で、地震で直接被害を受けたというのは、過去ブログで「味噌まんじゅうde秀クリーム」を紹介した扇子家(牧之原市)の高橋さんが、飛んできたテレビで腰を打った件。お仕事には支障はないそうですが、ご高齢のお母様のため、これを機に家の改築を決意されたそうです。あと、酒の小売店さんでは陳列の酒がやられたという報告がいくつか。みなさん、大事に至らなかったみたいでホントによかったです。・・・と同時に、自分の部屋だけあんな状態になってしまった理不尽さと、自らの防災意識の欠如ぶりを痛感し、気が滅入っています。

 

 そんなこんなでこの数日、おとなしく素籠っている私ですが、ちょうどここ数日って終戦記念日をはさんているせいか、戦争関連の行事やテレビ番組が多く、「地震は理不尽だけど戦争ほどじゃないな」と慰められる?心境です。

 

 

 ゆうべ放映していた映画『硫黄島からの手紙』のラストシーンで、栗林中将が部下に自分の首を切らせようとしてその部下が狙撃され、持っていた日本刀が、若い米兵に「おぉすっげぇ!ホンモノじゃん」みたいな表情で拾われたシーンを観て、11年前の夏の出来事を思い出しました。

 

 当時、私の妹は米空軍に勤める夫の赴任先でイギリスのNATO基地に近いキングス・リン郊外に住んでいて、98年7月末から8月にかけ、一人で遊びに行ったことがあります。滞在中、妹の夫の同僚の現役パイロットがアンティークショップで高額で買ったという『カミカゼパイロットが天皇から授かった賞状』なるものを見せられ、妹と2人で爆笑しました。その賞状の贈り主は東京薬品商工業組合の理事長で、贈られ主は●●商店(薬問屋さんらしき名前)の本田さんという人。長年、組合の業務に精励したことを称える永年勤続表彰みたいな内容たっだのです。漢字が読めないパイロット氏が菊の御紋みたいな飾りマークがついた賞状を見て、そう思い込まされたのも無理ないかもしれませんね。

 

 

 ガッカリする彼や妹の夫を見ていたら、アメリカの軍人にとっては、未だに『カミカゼ』とか『天皇』というキーワードがものすごい特別なものなんだ…と実感しました。とくに戦闘機に直接触れる仕事をしている彼らが特攻隊のパイロットの心境を想像するとき、「驚き」や「恐怖」や「尊敬」といった複雑な感情で揺さぶられるんだろうなと。

 

 

 「もし判るなら持ち主に返してほしい」と彼らからその賞状を託された私は、帰国後、東京薬品商工業組合を探してみましたが、戦前の組織で現存せず、本田さんが在籍する●●商店もその社名では存在せず。企業情報に詳しいシンクタンクの知人に手伝ってもらって、●●商店が現在の大手製薬会社T社で、本田さんは重役(すでに故人)だったことを突き止め、渋谷に在住する弟さんにお返しすることができました。本田さんの消息を探した11年前の8月は、ひと夏、探偵にでもなった気分でした!

 

 

 本田さんからいただいた礼状で、東京大空襲のとき、どさくさにまぎれて持ち出された中にまぎれ、巡り巡って海外の骨董業者の手に渡ったらしいことが解りました。  

 日本刀とか浮世絵とか、見た目にも価値がありそうな日本製品が、骨董市場で売買されるなら理解できるんですが、日本語や漢字が読める人が見たらバレバレのこういうものが、骨董業者の口先三寸か何かわかりませんが、アメリカの現役パイロットの手に渡って珍重されていたなんて、「ただただ驚くばかりです」と本田さん。不愉快な思いをされるかなと少し心配しましたが、「亡兄ゆかりの品がこんな形で出てくるなんて感激です」とおっしゃっていただき、その後しばらく、お中元とお歳暮の時期に食用油を送っていただき、戦争体験世代の日本人の節度のよさや折り目正しさを感じたものでした。

 

 

 戦争を振り返るこの時期に、震災の怖さを体感したことに意味がありそうな気もします。この夏のことも、しばらくは忘れ得ぬ記憶になりそうです。

 

 


最新の画像もっと見る