杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

映画音楽を妄想する

2008-05-17 19:14:41 | アート・文化

  久しぶりに静岡の映画館で新作映画を観ました。1980年に韓国で起きた光州事件をテーマにした『光州5・18』。韓流作品では恋愛モノが苦手で、観るのはもっぱら硬派な事件・軍事・歴史モノ。4年前に観た『殺人の追憶』は、自分が過去に観た全映画の中でもベスト5に入れたくなるほどの傑作だと思っていて、この作品でエリート刑事役だったキム・サンギョンが主演していることと、韓国の実話をベースにしているという2点で興味を惹かれました。

 

  光州事件といえば、韓国の過激な学生運動、という思い込みしかなかった私ですが、作品は、軍部が市民を理不尽に虐殺した実態と、ごくフツウに、映画館でデートを楽しんでいた市民が突然、暴動に巻き込まるリアルさが痛く描かれていました。大事件や大災害を、特別なヒーローヒロインの活躍というよりも、市井の眼で家族愛を通して描くという手法は、ハリウッド大作の『アルマゲドン』あたりから主流になっているみたいですね。

 

 

  1980年ごろといえば、私は大学に入ったばかりの頃。大学受験を控える主人公の弟とほぼ同年ということになります。日本のかつての安保闘争や学生運動は、教科書やテレビの復刻ニュースで見る歴史上の出来事、という感じがしていましたが、80年当時、隣国でこんな大事件が起きて、同年代の若者が多数命を落としたという事実には本当に愕然としました。真相は完全には解明されていないそうですが、今の韓国の若い映画人が、この事件を真正面から取り上げ、切り込んだことには拍手喝采を送りたい思います。

 

 

 

  それはさておき、映画館に入って、びっくりしたのは、いつもカーステレオで聴くJ-POPが流れていたこと。一緒に『吟醸王国しずおか』を作っているカメラマン成岡正之さんに、以前、「自分がプロモを撮った新人アーティストなんだけど、何かの機会があったら応援してあげて」と渡されたCDの曲だったのです。

 

 

  数年前、成岡さんは函南町在住の盲目のダイバー・ラッキーさんと出会い、娘のエリカちゃんも遺伝性の病気でいずれ失明することがわかり、父娘がその現実と向き合い、乗り越えるために、ラッキーさんが失明する前に一度訪れたことのある沖縄の海を、障害者のためのダイビングインストラクターをしている青年とともに父娘で潜る、というドキュメンタリーを撮りました。そのエンディングテーマに使われたのが、シンガーソングライター工藤慎太郎さんの『Message』という歌でした。昨年、日本有線放送大賞新人賞を取った『シェフ』のカップリングに入っている歌です。

  いつもはカーステレオで、沖縄の海をイメージしながら心地よく聴いていた『Message』が、突然、上映前の映画館に響き渡ったのですから、何事かと思いました。真っ白なスクリーンを前に、Messageを聴いていたら、今、撮っている酒蔵の光景と、白い息を吐きながら米を運んだり麹室で汗する若者たちの横顔が頭の中のスクリーンに映し出され、「あぁ、この歌を吟醸王国しずおかのエンディングにも使いたいなぁ~」と妄想してしまいました。

 

 

  帰宅して、『光州5・18』のサイトをチェックしてみたら、この作品のイメージソングに採用されていて、2度ビックリ。ダイバー父娘の感動秘話と、光州事件の悲劇、ついでに酒造りの蔵人の働く姿にもフィットするなんて、Messageという歌そのものに、力があるんですね。

 さすがに『吟醸王国しずおか』に使わせてもらおうなんて云えない状況になってしまったと思い、それでも、映画には音楽の力が不可欠だと実感し、今日はすみや本店でCDをあれこれ物色しました。

 

 

  

 自分が撮っている映像に、どんな音楽を乗せようか、ナレーションは誰にお願いしようか…あれこれ想像をめぐらせているうちは楽しいですね。

 地酒研会員でジャズ通の片山克哉さんからは「日本酒の映像にはギターの音が合うんじゃない?」と浜松で活躍中のギタリストを推薦してもらったり、成岡さんは若かりし頃、プロのバンドのドラマーとして活躍し、米国バークレー音楽学院に留学経験もあるので、ドラムや和太鼓もいいなぁと思ったり、歌舞伎や長唄に詳しい静岡新聞の平野斗紀子さんに相談したときは、琴や三味線の音色も捨てがたいと思えたし、京都へ坐禅に行ったときは、鐘の音にも魅了されました。

  磯自慢の寺岡社長からは、ドイツ国歌にもなっているハイドンの弦楽四重奏77番がお好きだと聞いていたので、多田杜氏の堂々とした姿に合うなぁとか、自分が昔、あるエッセイで、「軽快で爽やかで、誰にでも呑みやすい静岡の酒はモーツァルトに似ている」と書いたことがあるので、モーツァルトをどこかで使ってみたい気もする。

 2月の花の香楽会で、ほろ酔い加減の開運の土井社長が波瀬杜氏に歌って聞かせた『ふるさと』は、ぜひ使いたい(社長にもう一度、歌ってもらわなければ)。よく酒の番組で流れるような環境音楽っぽいのはイージーに使いたくないですねぇ。

 

 

  

  そうこうしていたら、チケット売り場で、私の弟の友人で、高校生の頃から知っているチェリストの青嶋直樹さんが、5月31日(土)19時から、静岡市民文化会館中ホールで室内リサイタルを開き、モーツァルトとハイドンを演奏すると発見! もう、これは神仏の思し召しとしか思えません。さっそくチケットを購入しました。

 

 

  地酒ファンの方または音楽通の方で、静岡の酒にはこんな音楽が合うんじゃないかと一家言お持ちの方、ぜひご提案ください。よかったら、31日の青嶋さんのリサイタル『第6回静岡市民文化祭~室内オーケストラの夕べ』もぜひお聴きになってみてくださいね!

 


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