フリーで長年仕事をしていると、不思議なもので、仕事がひと段落したり、ぽっかり休みが入ったりすると、とたんに風邪を引いたり具合が悪くなったりします。熱や腹痛でしんどいのは仕方ないけど、仕事先に迷惑をかけることなく、休めるのは、天から「休んでいいよ」のサインだと思って、ありがたく休ませてもらいました。
根っからの貧乏性なのか、休みが取れると「このままずーっと休みが続いたらどうしよう…」という不安がもたげます。急病になったり、出産・育児で休みを取るライターさんのピンチヒッターを務め、そのまま自分のレギュラーにしちゃったという経験があるので、休みをゆっくり取るという気分に慣れない性分。「仕事と家庭のワークライフバランスを大事にしましょう」なんてコピーを書きながら、自分自身を振り返ると情けなくなります。自分はもしかしたら、誰かのワークライフバランスの犠牲になっているんじゃないかと被害妄想に陥ることも。でも、「休みが怖い」って感覚、フリーでお仕事している人にはわかってもらえますよね。
昨日は久々の外出。磯自慢酒造の皆造(かいぞう=原料米を蒸す甑を終う儀式)の宴席に、『吟醸王国しずおか』のカメラを入れさせてもらいました。
社長や杜氏さんや蔵人さんが、一人ずつ、今期の造りを振り返って反省点などをスピーチします。若い蔵人が「自分のミスで大事な酒を台無しにする寸前だった。カバーしてくれる先輩や仲間の存在をどんなにありがたく思ったかわからない。自分にも後輩が出来て、いつまでも周囲に甘えていてはいけない」とけなげに語る姿に、寺岡社長が「よく言った」と褒め言葉をかけるなど、蔵内のチームワークのよさが伝わる温かい宴会でした。
酒杯を進めながらホッとした表情の多田杜氏に声をかけたところ、開口一番「今年は今までで一番しんどかった」。磯自慢酒造の杜氏になって11年、いろいろな意味で、慣れや安定感が出てくる時期、現場に緊張感を持続させることの難しさを実感されたようです。
他の蔵人さんに聞くと、多田さんは、現場でこまかな指示や注意などはいっさい出さないタイプのようで、「機嫌が悪いとこっちに八つ当たりしてくるんだよ」と酛屋の菅原さんが言うと、「それで次は菅原さんが俺たちに八つ当たりしてくるじゃないですか~」と若い蔵人が突っ込みます。多田さんも菅原さんもバツが悪そうに笑いますが、「技術ってのは黙って盗んで覚えるもんだぞ」と若者たちに念押しします。その会話の端々に、縁あって一つ屋根の下で、酒造りの厳しさを共有する世代を超えた男たちの目に見えない絆の強さが感じられ、いいなぁと思いました。
岩手からやってきた菅原さんと麹屋の今野さんは、今月一杯で岩手に帰り、多田さんは4月上旬に帰ります。故郷の北上では農業にいそしみ、10月に再び蔵へやってきます。
地元雇用の若い蔵人は、春~夏には週休3日ぐらいのペースで蔵の雑務をこなし、秋に酒造りが始まると、再び休み無しの厳しい毎日が始まります。
自分とは対照的なワークライフバランスを持つ酒蔵の職人さんたち。中でも多田さんは、50年近く、こういう働き方を続けてこられた職人さんですが、「慣れが怖い」と真摯に語る姿には胸を打たれました。働き方がどうあれ、与えられた仕事にどれだけ責任を持ち、全力投球できるかが大切なんだと教えらたような気がします。
『吟醸王国しずおか』では、酒造りのドキュメントという以前に、人が働くことの意味や尊さを伝えられたら…と強く思いました。