杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

試作映像を試写するプレッシャー

2010-04-18 11:45:24 | 吟醸王国しずおか

 昨夜(17日)は静岡市内で『静岡DEはしご酒』という試飲ラリーイベントがあり、日本酒ファンが駅周辺の居酒屋をはしごしながら地酒を堪能しました。私は開催店のひとつ・MANDOさんで22時ぐらいから始まった二次会に招かれ、『吟醸王国しずおかパイロット版』の試写をさせていただきました。

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 さんざん「はしご酒」した後の二次会に、はたして何人集まるのか、MANDOの平井マネージャーも「二次会チケットが5枚ぐらいしか売れてなくて…」とヤキモキしたようですが、フタを開けてみたら定員(40人)オーバーで席を追加するほどの盛況で、ホッとしました。みなさん追加呑みが目的で、映画試写はあくまでもついでのオマケだったと思いますが、確かに5人しか来なかったらショックだったかも…(苦笑)。

 

 

 これまでも何度か経験していますが、飲食の席での上映は、雑談や食卓上の雑音等が気になるし、でもこちらからは何も言えないし、試作映像のプレゼンの場としてはかなりのプレッシャーを感じます。

 過去には、途中で「なんだこの映像は」と言いがかり?をつけてきた酔客もいました。テレビで一部が放送されたときは、「素手で米を触るなんて不衛生」と理不尽?なクレーム電話をかけてくる人もいました。

 

 こちらのメッセージがきちんと伝えきれていない未完成の映像を公開する以上は、やむを得ない“洗礼”と受け止めていますが、一生懸命作っている作品を、中途半端に“受信”されるのは作り手として辛いですね。

 これは、蔵元さんや杜氏さんも同じだろうと思います。一生懸命造った酒を、販売店や飲食店で中途半端に扱われ、本来の味をお客さんに伝えきれていないと知った時の辛い思い…。自分が作り手となってみて、深く実感させられました。

 

 

 MANDOの平井マネージャーは、そんな思いをちゃんと理解してくれる人で、「5人しか来なかったら真弓さんに申し訳なかった…」とか、試写の時、お客さんがかなり映像に集中して観ていたのを確認し、「今日のお客さんはマナーがよかったし、ちゃんと伝わったと思いますよ」とさりげなくフォロー。終了後は資金集めの呼びかけもしっかりしてくれました。

 

 ・・・ついつい自分ひとりで苦労して作っていると思いがちですが、こうしていろいろな人に助けられ、サポートしてもらっているんだなぁとじんわり嬉しくなります。昨夜の試写は、過去のどの試写会よりも終了後の拍手が大きかったことも印象的でした。

 

 居残り観賞してくださったみなさま、本当にありがとうございました。もし何か心に響くものがありましたら、ぜひこちらもご覧下さいね。

 


『第9地区』を観て

2010-04-15 23:50:08 | 映画

 今日は夜、予定していた撮影が、先方の都合でNGになり、空いた時間で映画館へ。エイリアンものでアカデミー作品賞にノミネートされた異色作『第9地区』を観に行きました。

 

 私の好きな『ロード・オブ・ザリング』シリーズのピーター・ジャクソンが製作し、南アフリカ出身の新進気鋭監督ニール・ブロムカンプが監督脚本を務めたSF作品という触れ込み。ピーター・ジャクソンはロード~シリーズ以前はスプラッター映画(…いわゆるグロテスクもの)が得意だっただけに、若いディレクターに、エイリアン襲来を流行りのPCゲームばりにスピーディーかつグロっぽさ満開で描いたのかも、と勝手に想像し、そういう作品がアカデミー作品賞にノミネートされたってのが(ノミネート数が10作品に増えたとはいえ)不思議だなぁと思ってました。

 

 観終わった後は…アカデミーノミネーションは不思議でもなんでもなく、当然!というか、受賞作『ハート・ロッカー』や『アバター』よりも面白かったかも! とにかく、エイリアンVS人間を、こういうアプローチで描いた作品は初めてで、プロットの斬新さ、ドキュメンタリータッチの臨場感、キャラクターの面白さ、どれもこれも、ここ最近観た中で私的にはピカイチでした。

 

 日本の空港は、少し前まで外国人用の入国ゲートに『AIien』って書いてあったんですよね。今はさすがに『Foreigher』だけど、“外国人登録”って和英辞典で引くと『the Alien Registration』って出てきます。

  エイリアンって、SF映画の世界では宇宙から来た得体のしれない侵略者で、現実の島国日本では外国人を総称する言葉…。とにかく自分たちとは違う異端者であり、分けて、隔離させる対象に違いありません。

 

 

 この映画では、エイリアンは地球に侵略しに来たのでも、地球人と交流しに来たのでもなく、たまたま宇宙船が故障して浮遊してきた“難民”状態。で、こちらに悪さをしそうにないとわかった人間が、衰弱したエイリアンを保護し、地上に難民キャンプを作って収容する。難民生活が長くなって、人間との間で差別や暴動が起きる。南アフリカの首都ヨハネスブルグが舞台になっているものだから、人種問題のメタファーみたいに見えてくるのです。・・・この街で数ヵ月後にワールドカップサッカーが開かれるのかと思うと、映画の中とはいえ、ちょっと考えさせられちゃいます。

 

 途中から、『アバター』と同じように、人間の欲深さや狂気が無垢なエイリアンを追い込み、主人公の人間がエイリアンを救おうとする・・・という構造になっていくのですが、アバターが陳腐なおとぎ話に思えるほど、こちらのほうがリアル。

 平凡で小市民的な主人公に、見た目が超キモ&グログロでとても高度な知能を持っているようには見えないエイリアン。…それが最後のほうは愛らしくカッコよく見えてくるのだから、プロットの力ってすごい。

 

 

 制作費がハリウッド産SFモノにしては低予算(30億円)で、有名俳優は一切ナシ。主人公役のシャルト・コプリーは監督の友人で南アフリカのプロデューサーで、俳優が本業ではないという布陣。でも監督の才気とプロデューサーのサポート次第で、こんなに面白~い映画が出来るのですから、映画を作る人ってやめられないんでしょうね・・・。

 

 『第9地区』、とにかく現在公開中の作品ではイチオシです。オフィシャルサイトはこちら

 


志太の人財その2~藤枝の匠たち

2010-04-13 12:38:58 | 吟醸王国しずおか

 ひきつづき10日に開催した吟醸王国しずおか映像製作委員会斗瓶会員『大人の社会見学ツアー』報告です。

 

 金谷の大井川葛布を後にし、一路、藤枝の瀬戸川中流域へ。国一バイパス谷稲葉インターを降りて北上し、工事中の第2東名高架橋を超えてすぐ左にあImgp2138、『古民家ギャラリーこころ庵』で一服しました。明治期の趣ある古民家を、地域のクリエーターにギャラリー・地域交流の場として開放している場所です。管理人の新井真さんは茶室建築や民家の改修を得意とする一級建築士。庵内には雑誌『sizo;ka』も置いてあって、「地酒特集号は完売でしたよ」と声をかけてもらいました。

 

 雑誌sizo;kaは藤枝在住のフリー編集者夫妻が手弁当で発行し、イマドキのフリーペーパーやクーポン雑誌とは違うクオリティを誇っていましたが、現在は休止状態…。志太は、地酒と同じように、文化情報誌が育つ精神的に豊かな地域になってほしいと思うのですが、一朝一夕には行かないものですね…。

 でもこうして地域で応援してくれる人がいるなら、「映画制作がひと段落したら、雑誌版の『吟醸王国しぞーか』を創ろうか」なんてフツフツと熱が湧きあがってきます。…もっとも映画作りで精魂尽き果てる可能性大ですが(苦笑)。

 

 

 次いで訪れたのは、滝沢地区で無農薬・有機肥料で茶を作る『人と農・自然をつなぐ会』のリーダー杵塚敏明さんの茶園です。

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 緑茶王国といわれる静岡でも、お茶を無農薬で育てるというのはホントに難しいらしくて、基幹産業レベルの生産となると、可能な限り減農薬・減化学肥料に努めたとしてもゼロにするのは不可能だといわれます。これは私自身、長年、JAの取材を通して実感していることです。

 

 

 杵塚家は11代続く茶農家。敏明さんは農協青年部にいたころ、地域のお年寄りから「最近は茶工場からお茶の香りがしなくなったなぁ」と言われ、気になって地区の茶畑の土を調べたところ、ミミズも棲めない強酸性土壌になっていた。また、お茶の葉は本来、秋~冬には黄色っぽくなり、春から初夏にかけて緑色が深くなっていくのが自然であるのに、多くの茶畑が一年中、黒緑色をしている・・・。これは化学肥料を無尽蔵に使っていた弊害だと考え、1976年に20軒の同志とともに有機栽培を始めます。農協はじめ多くの茶農家から“変人扱い”されたようです。

 

 

 土が健康を取り戻すにつれ、そこに様々な自然の生態系が甦ってきます。植物を好んで食べる草食昆虫=害虫を減らそうと農薬をかけると、草食昆虫を食べる天敵・肉食昆虫まで死んでしまいます。肉食系とは、クモ、てんとう虫、ドロバチ、ゴミムシなど、草食系(害虫)を食べてくれる農家にはありがたい虫なんですが、どうも農薬に弱い…。そこで杵塚さんたちは肉食昆虫ドロバチに着目し、増殖させる方法を考えました。

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 有機栽培を始めて17~18年ほど経った年、記録的な少雨で多くの茶畑が異常発生した害虫の被害に遭った際、杵塚さんたちの茶畑だけがたくましく育っているのを見て、変人扱いしていた周囲も見直すようになりました。健康な土壌に茶樹がしっかり根を張っていたからです。「松下米」の松下明弘さんの稲作りと同じだ…と感動しました。

 

 

 現在は認定農業法人として多くの同志や賛同者を得て、茶摘みや草取り体験など有機農業に興味のある若者を受け入れたり、地域交流イベントを開いたりと、滝沢の里で確たる存在感を示す杵塚さん。アメリカ留学で視野を深めてきた娘・歩さんとともに、有機無農薬茶をたくましく育てています。

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 10日はクネクネとした農道を登った先の、山の斜面に広がる茶園を案内してもらい、クモの巣やイノシシが横切った痕跡の残る茶畑を散策しました。飛び入り参加の松下明弘さんは、面識があるらしい歩さんと「土づくり談義」に花を咲かせています。

 

 

 ここ数日ニュースにもなっている凍結被害は、「今まで経験したことのない気候変化」と歩さん。顔を出し始めた若葉色の茶芽が、ところどころ灰色になっていて、まるで死産した赤ちゃんのように無残な姿…。改めて農業とは、自然というどうしようもないリスクと戦う産業なんだと思い知らされました。

 

 

 この後、杵塚家の敷地に構えた紅茶工場を案内してもらい、二番茶(6月下旬~)を紅茶加工させる工程を丁寧にシミュレーション解説してもらいました。『人と農・自然をつなぐ会』の紅茶は、『瀬戸谷もみじ』という商品名で販売されImgp2152 ています。シミュレーションではなく実際の加工作業を見学したいと言ったら、ぜひ来てくださいと快諾してもらいました。

 

 

 ちょうど来週末・4月24~25日にかけて、『人と農・自然をつなぐ会』でお茶摘み体験会を開催するそうで、24日夜の交流会で、「映画の話をしてみませんか?」と誘っていただきました。今回のツアーメンバーも何人か申し込むようです。詳しくは会のホームページをご覧くださいまし。

 

 

 最初は“変人扱い”されて、周囲に認められるまで長い年月がかかっても、信念を貫く生き方には、自然に共感する者・同志となる者が集まってくる。こういう打算のないつながり方は、無理がないから長続きする。…長くつながっていないと理解できないことのほうが多いんです。

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 この後、今回のツアーをコーディネートしてくれたハンドワークファクトリー久留聡さんの家具工房におじゃまし、夜は藤枝駅前の居酒屋で交流会。

 

 本来は映画資金集めのシビアな斗瓶会議にしなければならないのに、いろんな人が入り乱れ、結局は賑やかな飲み会になりました。

 

 

 居酒屋の白壁を使って半ば強引に?『吟醸王国しずおかパイロット版』を上映したり、大井川葛布の村井さん、杵塚さん一家に、わがメンバーでは國本良博さん、松下明弘さんといった“スター”もいたので、あっちこっちで話が弾んで収拾付かず(苦笑)。・・・でも、こういう仕掛けも、長~いつながりに発展させていくための一里塚なんだと思えば楽しいですね。

 

 

 ツアーにご協力・ご参加いただいたみなさま、本当にお疲れ様でした&ありがとうございました。

 斗瓶会議の目的は、基本はシビアな資金集めの話し合いですが、こうして楽しみながら地域を学び、人脈を広げる中から、“金脈”を掘り当てることをモットーにしていますので、映像製作委員会のみなさま、ぜひご参加くださいな。お問い合わせは吟醸王国しずおかHPまでどうぞ!

 


志太の人財その1~大井川葛布

2010-04-11 15:10:14 | しずおか地酒研究会

 10日(土)は吟醸王国しずおか映像製作委員会のボランティア有志『斗瓶会員』のメンバー10人で、志太地域のモノづくり現場を巡る“大人の社会見学ツアー”を行いました。

 

Imgp2104  スタートは島田市金谷の葛布工房『大井川葛布』。ちょうど金谷お茶まつりをやっていたので、私は一足先に金谷入りして、街道の屋台引き回しや茶娘たちを見学しがてら30分ほどかけてブラブラ歩いて、新金谷駅の近くにある工房へ。午前中は織物&染色教室を開講していて、受講生のみなさんの染色工程を見学させてもらいました。

 

 

 

 染色はすべて自然の草木染めで、人工染料は使いません。大井川葛布のImgp2119 織元・村井龍彦さんに「お医者さんから処方してもらう薬を“内服薬”というでしょう。あの“服薬”とは文字通り、衣服に薬を塗って皮膚吸収するという意味です」と教えてもらい、目からウロコ!。

 

 ジーンズのデニムをインディコ藍で染めたのは、アメリカの金鉱掘りたちが現場で蛇除けにしていたから、というのは知られた話ですが、日本でも名だたる剣術家は染色の知識に長け、刀傷に効く染色用の薬草を研究していた。「染色とは人体を保護するもの。とりわけ性器はデリケートで外からのものを吸収しやすいので、下着はちゃんとしたものを選んだほうがいい」とのことです。

 

 

 

 さて、葛布といえば、昔、掛川の川出幸吉さんを取材したことがあり、城下町でもある掛川がメッカだとばかり思っていました。村井さんには、2月に島田信用金庫金谷支店の得意先懇話会で『吟醸王国しずおかパイロット版』試写とトークをやっていただいたときに出会い、このとき、金谷でも葛布織の伝統があることを知って、自分の無知を恥じたものでした。現在、葛布の織元は掛川に2軒、金谷にここ1軒だけだそうですが、遠州地方の葛布は、戦後、外貨獲得のための輸出用壁紙としてさかんに生産されていました。村井さんの工房も、先代まで『静岡壁紙工業株式会社』という社名で壁紙用の葛布をメインに生産していました。

 

 村井さんとは試写会の後、メールのやりとりをしながら、地域のモノづくりの価値や、手間ひまかけた手作りのものを今の消費者にどうやって伝えるか、後継者をどう育てるかなど、日本酒の業界が抱える課題に相通じるテーマを一緒に考えていきましょうと意気投合し、まずは工房をお訪ねすることに。

 

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 村井さんは、食育ならぬ「布育」と称し、全国各地で葛布の歴史や機能性を伝道する講演活動も行っており、この日も40分ほど、パワーポイントを使った即席講義をしてくれました。

 

 

 葛布が7000年の歴史を持ち、日本三大原始布(葛、シナ、芭蕉)のひとつ。大仏建立時に成形加工に用いられたり、平安時代は貴族の正装に、戦国時代は甲冑の内側に使われました。日本の伝統的な布というと、絹や麻や綿を思い浮かべますが、葛はそれらよりも重用Imgp2122 されていたようで、たとえば甲冑をまとうとき、金属と接してもケバ立たず、発水性に優れ、軽くて通気性よく、冬は暖かい等など、いまどきの機能性繊維顔負けのスグレモノだったそうです。

 

 

 

 詳しいことは、大井川葛布のホームページをご覧ください。とくに葛布の製造工程の解説部分で『発酵』『室(むろ)』という項目は、要チェック。まさか、織元で発酵という言葉を聞くとは想像もせず、村井さんの口からその言葉が出た時は、思わず身を乗り出してしまいました。

 

 

 「室に入れる事は発酵を促す事ですが、そのメカニズムの詳細は判っていません。ただ、発酵菌に着目したのは大井川葛布が初めてであると思います。発酵を促すのは枯草菌であると思います。

 イネ科の植物の葉には納豆菌、枯草菌が沢山付いています。従来納豆菌の説を取っていましたが、(納豆菌も枯れ草菌一種です)糸を曳く事がないので、枯草菌であろうと思います。

 発酵温度も人間の体温ぐらいがベストとなります。この枯草菌はセルロースを分解する力もあるので、この発酵によって、葛の表皮を発酵させて取るだけでなく、葛の繊維も柔らかくしてくれることが判ります。発酵菌の力で表皮をとるので、表面が痛まず、光沢のきれいな葛の糸が採れます。
 発酵が順調だと 白い黴が生えます。これは枯草菌の胞子です。発酵が終わった事を示します。」(大井川葛布ホームページより)

 ただ漠然と、葛布と日本酒は売り方やアピールの仕方には共通の課題があると思っていたけど、まさか造り方に発酵という共通項があるなんて・・・。納豆菌は日本酒の天敵ですが(苦笑)。

 

 

 

 さらに村井さんのお話で興味深かったのは、「葛は地球を救う植物かもしれない」というお話。もともと1日に30~40㎝も成長する生命力旺盛な植物で、根っこが大きく、しかも成長段階で自分で葉っぱを開いたり閉じたりするので、根っこの部分にも太陽光が当たりやすく、群生しやすい。

 参加者の一人・「松下米」の松下明弘さんが「田んぼで葛にどれだけ悩まされているか・・・」と思わず吐露したほど、農家泣かせの植物らしいのですが、どんな荒地でも育ち、干ばつにも強く、CO2を吸ってガンガン大きくなるので、緑化植物としての価値が見直されているのです。

 

 

Imgp2131  葛は、繊維のほか、漢方薬「葛根湯」「葛花湯」に、葉っぱは葛餅など食用にも使えます。葛根湯は風邪薬でよく知られていますね。「葛花湯」は、美食家で知られた水戸光圀公が肝臓ケアのためによく飲んでいたそうです。

 この日も「地酒研究会のみなさんにうってつけ」とばかり、村井さんが何杯も飲ませてくれて、甘くてクセのない味に驚き&感激しました。葉っぱはほかに、家畜の飼料にも重用され、神戸ビーフとして人気の高い但馬牛は、葛の葉が大好きなんだそうです。

 

 

 植物として華やかな脚光は浴びずとも、人の暮らしやいとなみに、何千年もの間、寄り添ってきた葛。こういうものが、やっぱり最後には頼りになるんだ、Imgp2133 と実感します。

 

 

 村井さんに機織りの実演を見せてもらい、斗瓶会員の美女2人・・・デザイナーの櫻井美佳さん&アナウンサーの神田えり子さんに試着もしてもらって、あImgp2137っという間の2時間。

 

 手織り&手染めの葛布で仕立てられた着物やジャケットは、ポンと気軽に買えるお値段ではもちろんありませんが、葛の歴史を知り、天然染色の価値を知り、糸をよらずに光沢を出すように丁寧に織られる工程を目の当たりにすれば、「この値段でも安いくらい…」と思えてきます。・・・吟醸酒と同じなんだなって実感しました。

 

 

 

 続いて、村井さんも同乗して、藤枝・瀬戸川奥の古民家ギャラリーと無農薬茶の会へ向かいました。長くなりそうなので、つづきはまた。

*吟醸王国しずおか映像製作委員会ブログ『杯が満ちるまで』におおまかな全体リポートをしましたので、こちらもご覧くださいね。

 

 


長寿企業の条件

2010-04-09 13:58:06 | ニュービジネス協議会

 昨日(8日)は(社)静岡県ニュービジネス協議会西部部会総会が、浜松駅前のアクト研修センターで開かれ、行政書士法人アスカ総合事務所の岸本敏和理事長に興味深いお話をうかがいました。私が好きな、長寿企業、伝統企業Imgp2100 のお話です。

 

 

 世界中で、創業200年以上続く会社は7750社あるそうです。マイスターの国ドイツは約800社、オランダは200社、建国250年ほどのアメリカにも14社あるそうです。逆に歴史のあるインドは3社、中国は9社しかありません。「会社」という組織がアジアに少ないのは仕方ないのか・・・と、思ったら、とんでもない。わが日本は世界で断トツの3100社!すごいなぁ~ニッポン。100年に1度の大不況と言われる中、こういう数字を見ると元気になりますね!

 

 

 こちらが日本の長寿企業ベスト10。*09年東京商工リサーチ調べ

① 金剛組(大阪市)・木造建築工事 創業してからなんと1431年!

② 池坊華道会(京都市)・生花茶道教授 同1422年

③ 西山温泉慶雲館(山梨県早川町)・旅館ホテル 同1304年

④ 古まん(兵庫県豊岡市)・旅館ホテル 同1292年

⑤ 善吾楼(石川県小松市)・旅館ホテル 同1291年

⑥ 源田紙業(京都市)・袋物製造 同1238年

⑦ 田中伊雅(京都市)・宗教用具製造 同1121年

⑧ ホテル佐堪(宮城県仙台市)・旅館ホテル 同1009年

⑨ 朱宮神仏具店(山梨県甲府市)・宗教用具小売 同985年

⑩ 夏油温泉(岩手県北上市)・旅館ホテル 同875年

 

 

 当ブログでも何度か紹介した世界最古の企業「金剛組」。西暦578年創業で、聖徳太子が四天王寺建立のため百済から招いた宮大工が始祖で、平成18年に倒産しましたが、「金剛組を潰したら関西の恥や!」と救済の手を差し伸べた高松建設の傘下で再出発しています。

 他、さすが創業1000年を超える企業となると、仏具関係や旅館が多いんですね。

 

 一般に「長寿企業」とは、創業100年ぐらいの会社を指します。日本で現在、創業100年以上の会社は、東京商工リサーチの09年9月調査では約21.000社あるそうで、数でいえば1位東京、2位大阪、3位愛知、4位京都、5位新潟、7位兵庫、7位静岡という順。静岡の企業もなかなか長寿ですね! ちなみに新潟、兵庫が多いのは「造り酒屋」が多いからだそうです。

 

 業種で見ると、卸小売業が9924社、製造業が5709社、建設業1864社、旅館飲食業が828社、不動産業が732社という順(09年9月データ)。不動産業が多いというのは意外に感じましたが、岸本氏曰く「土地建物があると、銀行からお金が借りやすいので身の丈以上の事業をしようとする。賢い経営者は、所有と経営を分離している。土地建物を本業と切り離し、別の管理会社に移して、身軽な状態で本業に専念する環境を作る。それで結果的に不動産管理会社も長生きできている」とのこと。

 

 

 岸本氏は、「長寿企業には、確たる経営理念があり、過去の歴史を教訓にしている。それが身の丈に合った堅実な経営につながっている」と語ります。「最近では会社の上司が、自分の会社の経営理念や過去の歴史を若い社員にちゃんと語っていない。社内の飲み会や社員旅行が減り、語り合う場がない。行き過ぎた個人主義、能力主義や成果主義の弊害だと思う。最近の新入社員は、むしろ、職場の飲み会やレクリエーションに積極的で、会社のことをもっときちんと知りたいという欲求が強いんですよ」。

 

 

 …お話を聞くうちに、創業100年以上の酒蔵を記録に残す私の挑戦も、酒蔵に勤める若者たちのモチベーションを高め、会社の長寿につながるといいなぁと心底思いました。

 

 

 よく、会社の平均寿命は30年といわれます。1984年に日経ビジネスが発表した論文が根拠になっているそうで、30~40代で起業した創業者が経営を安定させるまで25~30年かかるとして、創業者自身が60~70代になった時、後継者がきちんと育っていないとダメだ、という意味ですね。

 

 ところが寿命30年説というのは今から25年以上も前の話で、最近では「10年説」だとか。事実、恐ろしいデータを教えてもらいました。

 

 

 創業5年で生き残っている会社はなんと15%、創業10年続くのは10%、30年では2%、50年では0.7%、100年生き残れるのは0.3%なんですって・・・。

 何か新しいビジネスを始めても、85%の人は生き残れないなんて、すごい時代に生きているんだな~と背筋が冷たくなりました。いや、離婚する夫婦が増え、「バツイチ」が自分の履歴の汚点にはならなくなったように、事業に失敗したり会社をつぶしたりすることも、そんなにクヨクヨせずに済む世の中になったというべきか・・・。

 

 

 結局は、自分は社会に出てからの30~40年、どう生きるか、生ききるか、なんですね。昨夜のようなお話は、若い人たちにじっくり聞かせたい、と思いました。