10月24日 読売新聞「編集手帳」
来年の干支「丑(うし)」にちなんだダルマ作りが神奈川県平塚市の製作所でピークを迎えているという。
本紙オンラインが着色の済んだ縁起物の写真を掲載していた。
「牛の歩みのように、
ゆっくりでも前に進める年に」と主人の荒井星冠さん。
まさにそうですねと相づちを打ちつつ、
高村光太郎の詩「牛」が頭に浮かんだ。
<牛はのろのろと歩く
牛は野でも山でも道でも川でも
自分の行きたいところへは
まつすぐに行く>
と始まる。
のろのろとさえ行きたいところにまっすぐに進めなかったのが、
残り2か月余りとなった2020年だろう。
春先を振り返ると、
本当にあったことなのかと疑いたくなる。
学校が休みになり、
家から出るなと言われ、
患者数の増加や亡くなる方の悲報に触れて過ごす日々――
一時はみんなで迷子になったかのような不安が暮らしを取り巻いた。
コロナ禍はまだ去ってはいないものの、
何とかすべく足を踏み出していることは確かだろう。
光太郎の詩には次の一節がある。
<ひと足、
ひと足、
牛は自分の道を味はつて行く>。
のろのろであれ、
歩いてよかったと思える来年になるといい。