2021年5月13日 読売新聞「編集手帳」
フランスの作家ルナールが軽妙な筆致で動植物を描いた短文集『博物誌』は、
岸田国士の翻訳で新潮社から文庫版が出ている。
蝶――二つ折りの恋文が、
花の番地を捜している。
先週この一文に触れたところ、
問い合わせをもらったので改めて書籍を紹介させていただく。
それにかこつけ、
かねて書きたくてうずうずしていた文章を引く。
花――今日は日が照るかしら
向日葵(ひまわり)――ええ、あたしさえその気になれば
如露(じょうろ)――そうは行くめえ。
おいらの料簡ひとつで、
雨が降るんだ(略)
薔薇(ばら)――まあ、なんてひどい風!
添え木――わしが付いている。
「庭のなか」と題する項にある.
九州南部が平年より19日も早く梅雨入りした。
晴れたり曇ったり、
ときに局地的な大雨を降らす季節が早めのダッシュを決めたらしい。
風水害の心配ばかりか、
今週の末から全国各地で気温が急上昇するという。
熱中症への警戒が欠かせなくなる。
ご家族や近所で、
毎日のように天気の話をされてはいかがだろう。
「庭のなか」の花々や道具の気兼ねのない語らいは、
心配を分け合うようすと解せないこともない。