11月23日付 読売新聞編集手帳
季節にちなんで、
食欲を刺激してくれそうな詩を引く。
といっても、
うたわれているのは珍味佳肴(かこう)ではない。
ご飯、
それも冷や飯である。
〈君は知つてゐるか
全力で働いて頭の疲れたあとで飯を食ふ喜びを〉
千家元麿の『飯』は、
以下のようにつづく。
〈赤ん坊が乳を呑(の)む時、涙ぐむやうに
冷たい飯を頬張ると、
余りのうまさに自(おのずか)ら笑ひが頬を崩し
目に涙が浮かぶのを知つてゐるか…〉
空腹と並んで、
こころよい労働は最高の調味料といわれる。
調味料の欠乏するなかで迎えた今年の「勤労感謝の日」である。
来春に卒業を予定している大学生の就職内定率(10月1日現在)は59・9%と、
過去2番目に低い数字という。
働き盛りで職に就けないことも一因となって、
生活保護の受給者数は過去最多を更新している。
「復興」とともに「雇用」の二文字を、
野田さんには忘れてほしくない。
詩は結ばれている。
〈全身で働いたあとで飯を食ふ喜び
自分は心から感謝する〉。
ごく当たり前の、
もっとも身近にあるべき感謝の心をうたった詩句がこれほどまぶしく、
うらやましく、
映る世の中ではいけない。