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“晩夏の使者”ツクツク ボウシ

2014-08-24 07:15:00 | 編集手帳

8月23日 編集手帳

 

神宮の森から野球見物に来たのだろう。
一昨日の夜、
テレビで蝉(せみ)を 見た。
神宮球場のヤクルト―巨人戦、
マウンドに立つバーネット投手の左肩にとまった。
種類までは見定めかねたが、
この時期のこと、
“晩夏の使者”ツクツク ボウシだったかも知れない。

〈私はね、
あの蝉は苦手なんですよ。
毎夏、
あの蝉が鳴き出す時、
いつも私は不幸なんです…〉。
梅崎春生の代表作『桜島』のなかに、
登場人物がツクツクボウシを語るくだりがあった。

〈何だか人間の声のようじゃないですか。
 へんに意味ありげに節をつけて。
 あれは蝉じゃないですよ〉

登場人物が嘆いた不幸とは、
応召など戦争にまつわる出来事を指すのだが、
夏はそれとは別種の不幸に小説の一語一語が胸に痛い。
広島市の土砂災害による 死者・行方不明者は80人を超えた。
強い雨が断続的に降るなかで、困難な捜索がつづく。

ずいぶん前、
ある俳誌に載った小学生の句を覚えている。
〈宿題をい そげいそげとほうしぜみ〉。
住む家があり、
家族が無事でいることに感謝して、
宿題の山という“ちっぽけな不幸”を乗り越えるとしよう。
小学生諸君。


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