1月21日 編集手帳
アンケートでしばしば見かける設問がある。
「無人島に一つだけ持っていくとすれば、
何を選びますか?」。
愛読書、ギター、家族の写真…答えは人それぞれだろう。
あれは『将棋年鑑』だったか、
加藤一二三九段の回答を覚えている。
〈羽生さん〉。
羽生善治三冠(王位・王座・棋聖)を連れていく、と。
無人島で将棋三昧の日々を送るつもりらしい。
当時最年少14歳でプロ入りし、
18歳でA級八段に登りつめて“神武以来の天才”と騒がれた。
服装から食事まで、
数々の伝説に「加藤一二三」と名前が彫られている強烈な個性は、
読者もよくご存じだろう。
成績の規定により、
引退が決まったという。
それが報じられた翌日(今月20日)の対局では、
「史上最年長勝利」の記録を77歳0か月で更新している。
江戸期の雑俳集『武玉川(むたまがわ)』の句を思い出す。
〈冬の牡丹(ぼたん)の魂で咲く〉。
寒風、
何するものぞ。
魂で咲く花は、
まだ枯れていない。
原稿を書きながら、
無人島に差し向かいで座る羽生さんの困惑した顔を想像しては、
ひとり、
思い出し笑いに誘われている。
最近の愛称で言えば、“ひふみん”のお人柄である。