評価点:80点/2016年/アメリカ/141分
監督:リドリー・スコット
その話の舞台は、遥か彼方、近くの未来。
アレス計画は火星に長期滞在をしながら火星の調査にあたるというものだった。
計画は順調だったはずだが、あるとき大きな嵐に見舞われ、クルーは全員避難するように命令された。
しかし、ワトニー(マット・デイモン)は飛んできた通信機にぶつかり、消息不明となった。
クルーは待避し地球に帰還した。
ワトニーが目覚めると、そこは嵐の過ぎ去ったあとの火星だった。
通信器機が壊れ、ワトニーは一人基地に取り残された。
アレス計画で次に有人船がくるまでは4年あった。
しかし、食事はわずか35日分だけだった。
マット・デイモン主演、リドリー・スコット監督。
ある意味でこれ以上のない最強タッグで映画化されたのは、「火星の人」というブログで公開されていた小説だった。
これがキンドル化され、またたく間に大ヒットとなり、映画化の話までなった。
そんなアメリカン・ドリームの映画だ。
しかし、とはいえ、「もしかしたら本当に」と思わせるよくできたシナリオである。
見るなら3Dをおすすめする。
▼以下はネタバレあり▼
画面を見ながら、私が思い出していたのは「どんなに絶望的な状況になっても、生きていくために必要なものは? ――それは希望だ」ということばだった。
それは小熊英二「帰ってきた男」に書かれていた一節だ。
シベリアに抑留され、戦後各地を放浪した父がサナトリウムに入れられてそれでもなお前を向いて生きた、その人の「最後の砦」が「希望」だったという。
この映画を観ながら、それを思い出した。
話を予告編で見る度に、トム・ハンクスの「キャスト・アウェイ」と、サンドラ・ブロックの「ゼロ・グラビティ」を予感させた。
見ているうちに、「インターステラー」のような壮大で、そして孤独な物語だと感じた。
話はとても単純だ。
その単純な話に対して、どこまでリアルに落とし込めるかというところが、この映画の全てだ。
これももちろん、往来の物語だ。
地球から火星に、そして火星から地球に帰ってくる物語だ。
だれもがわかるように、この映画は「誰も死んではならない」物語である。
一人だけ残された主人公ワトニーがもし死んでしまったら映画にならない。
また、途中で戻るクルーも、死んでしまったら、一人を救うために誰かが死ぬという「計算が合わない」状況になるから彼らも死ぬことがない。
よって、誰も死なない物語、すなわち、結論がはじめから分かっている物語なのだ。
だから、この映画がおもしろいということは、ひとえに「結末」や「ストーリー展開」がおもしろいからではない。
むしろ、結末がわかっていてもおもしろいという、非常に完成度が高いことを表している。
その面白さとは何か。
徹底的に「リアル」ということ。
そして、ワトニーのキャラクターが優れていたということだ。
NASAの全面協力もあり、なぜ食糧があきらかに不足しているのに生き残ることができるのか、という点を見事にクリアする。
火星の土で、残された糞尿で、そして残された水素燃料で、水を作り、「火星で農作物を作る」ことを目指す。
そのアイデアは非常におもしろい。
ただ死を待つだけではなく、積極的に攻めに転じるその展開は、エキサイティングだ。
予告編でも(あまり映画館に行っていないので、ちゃんとは見ていないのだけれど)明かさなかったのは正解だろう。
4年後の予測地点までの探索、実験、そしてアレス4の火星への最接近と、飽きさせない展開が続く。
しかも、すべてにおいて「本当に起こるかもしれない」と思わせる展開だ。
唯一、中国が太陽神計画なる宇宙ロケット提供するくだりは不自然さが残る。
とってつけたように、世界をアメリカ以外にも広げるためだけに利用した感じはいなめない。
その辺りの疑問点はあるにせよ、「アポロ13」を見ているような臨場感がある。
そして、それを可能にしているのが、ワトニーのキャラクターだ。
不屈の精神で、この絶望を乗り切り、持ち前の明るさで記録用カメラに話しかける。
その感じはやはりトム・ハンクスの「キャスト・アウェイ」に通じるところがある。
一人芝居を一人とは感じさせない明るさがなければ、映画としても成立しなかっただろうし、生き残ることもできなかっただろう。
筋肉質だった彼が、帰還する頃にはやせ細り、帰還後はひどく老け込んでいるという変化もうまい。
さすがマット・デイモンといったところだろうか。
最新の科学技術を駆使しながら、人間としての内面も掘り下げる。
なかなかSF映画としてのツボを押さえている良作だった。
リアルに描いた、というのは、この作品の良いところでしょうね。
火星にたった一人、という、孤独な環境を支えたのは、地球との通信であり、
そこに、愛とか、個人的なつながり、というよりは、全体との調和を歌い上げているように
思いました。
NASA職員であり、エリートだという事以前に、その個人としての
本能であり、生存に懸けた想いが、極限化する事、
つまり、生きたいという、自然な叫びが、彼ら上司とか、ライバル国である、
中国すらを動かしたのではないかと思いました。
こどもが体調不良で、父親も体調不良で。
せっかく借りたTSUTAYAのDVDを、また見ずに返してしまいました。
そろそろ更新します。
>さん
コメント、そしてトラックバックありがとうございます。
話のもっていきかたが上手かったという印象ですね。
一人芝居なので、退屈してもおかしくない内容を、しっかりと科学的に、そして人間味あふれるように描いたのはすばらしかったですね。
SFがSFではなく、現実になるのも近いかも、と思わせる作品でした。