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少子化の問題は解決し得ないのか。

2023-05-08 21:14:53 | 不定期コラム
日本の最も危機的な問題の一つは、少子化だ。
あえて、少子高齢化と一つにしないでおこう。
少子化と高齢化は表裏一体のように見えるが、実際には別個の事象だ。
高齢化が進んでいても、少子化を食い止めることは十分可能なはずだからだ。

私は、この少子化問題が、どこか環境問題に似ていると感じている。
環境問題を考えるとき、例えばそれが、地球温暖化や化石燃料の枯渇といった問題を考えるとき、その立脚している場所は、経済である。
このままの活動を続けていると、人間はいずれ大きな問題にぶち当たる、という点において「環境問題」として取り上げる。
そこには経済的な視点という絶対的な立場がある。
はっきり言えば、地球温暖化しても、化石燃料の枯渇が起こっても、経済的に問題がなければこれほどみんな深刻に考えないだろう。
このままでは生きられる土地が減り、食物がなくなり、化石燃料に依存している生活は成り立たない。
それが予想されるから、そしてそれが経済という面からみて深刻であるから、私たちは問題であると頭を悩ませているのだ。

少子化問題も実はこの部分が大きい。
だから、しばしば少子化問題は論点がすり替えられて、経済の問題や雇用の問題になってしまう。
少子化はなぜ深刻なのか。
「このままでは日本の経済が縮小されるから」
「このままでは雇用のなり手である人口が減り、税金やその他の経済的な構造が立ち行かなくなるから」

多くの人は、そのことを問題視しているように、私には思える。
特に、議論の中心にある都心部の人たちは、はっきりとこの問題の本質や深刻さが、経済的な側面以外にあることに気づいていない。
なぜなら、都心部の価値は上がり続け、人は都心部に集中しているから、その深刻さを身をもって知らない。
自分の街が日に日に縮小され、人がいなくなり、あるいはまるごと集落が消えてしまうような事態を実感してない。
少子化の最大の恐怖は、国そのものがなくなってしまうということにある。
そして一度失われた国は、もう取り戻すことはできない。
そこにあった文化や知恵や、自然とのあり方、そのほかすべてを根こそぎ失われてしまう。

新しく誰かが移住すればそれでよい、ということではない。
あるいは他の国の資本家が、投機目的で土地が買い占められることではない。
多くの日本人が大好きな、伝統的な歴史ある日本、というアイデンティティさえもなくしてしまうだろう。

それは、労働の担い手として外国人を雇えばいいとか、永住権を与えればいいとか、そういう問題ではない。
だからこそ、その対策も明後日の方向にしかいかない。
子育てしたい世代が金銭的に厳しいから予算をつけるべきだ、というような問題ではない。
経済という面で、少子化を考えている以上、「ちがう、そんなことじゃない」という議論になってしまう。

なぜなら、子育てには金がかかるからだ。
そしてリスクがともない、確実性や、ギブ・アンド・テイクという経済の観点からみれば、マイナスしかないからだ。
経済という視点から子育てや教育を見ると、ことごとく「投資する価値のない分野」なのだ。
事前にどんな人間に育つのかわからないうえに、時間と手間がやたらとかかる不透明な投資先、それが教育だから。

日本がこれだけ少子化が進行してしまった原因の本質は、日本人が子育てや教育について「経済からしか評価しない」世相そのものだと私は思う。
私たちは、カネにしか興味がない、カネでしか価値を計れない民族になってしまった。
すぐに数値になるものを頼りにして、その質を図りたがる。
それらはすべて、経済的な指数として換算され、それが良いことだと考えてきた。

保育士の社会的地位が低く、教師はいつまでもやる気を搾取されている。
子ども達のためにやってやっているんだとのぼせた教師は、パワハラとセクハラ、暴力に走り、子どもから愛されている(らしい)教師は病んでいく。
それを「給料が安すぎる」と批判しても、それもまた経済という指標からの意見なのだ。

私たちは、経済以外に語れる価値観があるだろうか。
ダメなものはダメ、よいものは良い、という説明に、経済という観点を入れずに話ができるだろうか。
子どもの命は尊い。
それは、将来税金を納めてくれるからではない。
自分の老後を支えてくれるからではない。

少子化がなぜだめなのだろう。
まずはそこから議論を始めなければならないほど、私たちは議論をするための土台そのものを失ってしまったような気がするのだ。

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