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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

エージェント・ライアン

2014-03-17 22:02:24 | 映画(あ)
評価点:58点/2014年/アメリカ/106分

監督:ケネス・ブラナー

全てにおいて、今のアメリカ的。

9.11をロンドンの大学で「体験」したジャック・ライアン(クリス・パイン)は国のために何かしたいと海兵隊に入隊した。
輸送中のヘリを撃墜され瀕死の重傷を負う。
リハビリの様子を見つめていたのはCIAのハーパー(ケビン・コスナー)だった。
彼はライアンの過去の論文を知り、CIAの分析官に彼をリクルートする。
普段はウォールストリートで働きながら、不審な金の動きを探るというものだった。
数年後、晴れてウォールストリートで働くようになったライアンは、ある日アメリカのドルと石油の関係がアンバランスであることに着目する。
ドルが巧みに操作されている疑念を抱き、不審なロシア人チェレヴィンの口座を見つける。
表の会社に許可を取り、ロシアに向かったライアンはいきなりウガンダのSPに命を狙われる。

ライアンシリーズの最新作である。
「レッド・オクトーバーを追え」など数々のサスペンスを描いてきたトム・クランシーの大ヒットシリーズだ。
アメリカの「007」でありながら、社会的な視点や軍事的な説得力があることでも有名だ。
単なるスパイ映画ではないところにアメリカ人は惹かれるのだろう。

その主役として抜擢されたのはクリス・パインである。
スター・トレック」の新シリーズのカーク船長役でもはや誰もが知っているだろう。
年齢的にも、顔的にも、かなりしっくり来るうまいキャスティングだったと思う。
謎のCIAの上司にケビン・コスナーというのもまたよい。

とはいえ、それほど日本では受けるとは思えないし、アメリカが描く世界の危機がどのようなものなのかを理解するための教材として見に行くことにした。

▼以下はネタバレあり▼

おもしろい、とは言い難い。
おもしろくないとは言わないが、おもしろい映画ではない。

ウクライナの問題が持ち上がり、俄然この映画はタイムリーなものになったことは確かだ。
ロシアという国が石油で復活したことで、アメリカは停滞期に入っている。
TPPなんかに参加しようとしていること自体がそれを裏打ちしている。
強国アメリカならば考えられなかっただろう、自国の基幹産業である自動車を切り捨ててでも貿易自由化を目指そうとしているのだから、その危機感は強い。
冷戦再びか、という見出しを最近新聞で見た。
EUの様々な国での経済危機は、世界のパワーバランスが崩れつつあることをじわじわと感じさせる。

ロシアを目の敵にしたこの映画は、その意味で非常にタイムリーだった。
まさにアメリカがロシアに対してどの程度危機感を抱いているかを表す教科書としては丁度良いだろう。
それでもおもしろくないのは、その危機感が「本物」ではないからだろう。
敵に仕立て上げるには、まだまだ覚悟が足りないということか。

話がかなりややこしい、ように感じる。
ドルと石油との関係がいまいち私にはわからないので、ざっくりと説明だけしておこう。

その状況を見たライアンがロシアに飛び、実態をつかもうとする。
これは巧みな計画で、ドルを暴落させるための罠だった。
つまり、値をつり上げておいて、アメリカでテロを起こし、ドルを暴落させて、西側(言い方が古いな)諸国の資本を奪おうとしたのだ。
ロシア側はそのことを「国家」としての計画ではなく、一個人チェレヴィンだけの責任に押しつけた形で実行させた。

ライアンが気づいたのは株価の変動やドルの変動が不自然だったからだ。
いただけないのは、ロシアの描き方だ。
ロシアに着いた瞬間から、いつテロが起きて、いつ襲撃されてもおかしくないような演出で展開する。
拳銃を印象的に入れたり、物々しい警備員をカットに入れ込んだり。
おいおい、銃乱射事件が頻発しているお前の国の方が物々しいやろうが! と言いたくなるほど極端だ。
案の定、SPが襲って始めてライアンは人を殺してしまう。

それ以降の展開も、どこか偏見に満ちた思い込みで物語が進行する。
象徴的なのは、アメリカへ帰国しながらテロの標的を探すシークエンス。
様々な可能性を思いつくままに話しながら分析し、そしてそのターゲットを見事当てる。
私にはその光景が、新しいアイデアを生み出そうとしているテレビディレクターのように見えた。
そう、そこには中身がないのだ。

机上の空論で話を進め、やっていることは不正侵入のハッキング。
ヒーローなので当然彼が間違うことはないのだが、どこか違和感がある。
その前のカーチェイスも、ほとんどカーチェイスしていないのに、緊迫感だけが過剰に生まれるような演出だ。
この映画はすべてにおいて、「何もないけれどそれをどれだけ大きく見せるか」に終始しているようだ。
しかし、けっこうどきどきわくわくしてしまうから、映画はわからない。
同じロシアを舞台にしたアクションで言うなら「ダイ・ハード」のほうがよほど派手なのに、こちらのほうが断然緊迫感がある。

中身が空っぽなのは、しかし、それだけでは補えない。
なぜなら、肝心のライアンが全くキャラクターが一定しないからだ。
ハッキングがこなせ、海兵隊出身で、リハビリ中に女を見つけ、さらに観察能力(ハーパーをチラ見するだけで顔を覚えている)もある。
しかし、そのどれもが彼の実態ではなく、いったいどれが彼の特徴なのか、よくわからない。
人を殺してびびりまくったり、緊急コードに電話をして懇願してみたり。
何でもできそうなのに、何もできないし、何もできないように見えて、何でもこなしてしまう。
感情移入するために、「できすぎない」余地を残しておいたのだろうが、もっと何かに特化させて描いて欲しかった。
分析官ならもっと一瞬で相手を見抜くような場面があっても良かったし、そうするなら戦闘能力は頭脳で補うような戦い方をさせたかった。

とにかく中途半端で、シナリオありきで物語が進んでいくような印象を受けてしまう。
クリス・パインをあえて起用したのだから、新しいライアン像をしっかりと描くことがシリーズ化の最低限の仕事だった気がする。
挙げ句の果てにはフィアンセにまで協力させ、しかもその場面が一番の見せ場なんて。

期待通りの凡作で、いかにもアメリカらしい凡庸な映画だった。


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2 コメント

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リチャードギア? (向いのiPhone)
2014-03-19 12:16:24
上司はケビン・コスナーでは?
返信する
ごめんなさい (menfith)
2014-03-23 22:04:13
管理人のmenfithです。
いや~いそがしい。
そろそろもう一本アップしたのですが、滞っています。
見たいのもたくさんあるのに、これだけ慌ただしいとちょっと厳しそうです。
来週には落ち着くはずなので、気長にお待ちください。

>向かいのiPhoneさん
ご指摘ありがとうございます。

すみません。
間違えました。
訂正しましたので、ご勘弁を。

「ジャスティス・フォーエバー」は明日には……。
返信する

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