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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

おおかみこどもの雪と雨

2012-08-10 08:27:05 | 映画(あ)
評価点:42点/2012年/日本/117分

監督・原作:細田守

何を描きたいのか、全く見えなかった。

東京の国立大学に通う花は、ある日講義で見慣れない男性を見つける。
知らぬ間に引かれていく二人だったが、彼は花に衝撃的な事実を伝える。
おおかみおとこであることを告げられた花はそれでも二人で暮らすことを決意する。
二人目の子どもが生れて直後、彼はおおかみの姿で川で死んでいるのが発見される。
二人の子どもを何とか育てようとしていた花だったが、二人が野生化していく中で都会を離れ、田舎暮らしをしはじめる。

サマーウォーズ」の細田守によるアニメーション。
この夏はアニメーションがたくさん公開されているが、その中でも期待値はもっとも高いだろう。
キャラクターデザインは、「サマーウォーズ」でもタッグを組んだあの貞本義行である。

「おおかみこども」という造語がどれだけ人々に認知されているかは別として、僕も期待しながら映画館に足を運んだ。
某ヤフーの評価でも非常に高い(5点満点で、4前後)こともあり、結構無茶なスケジュールで見に行った。
日曜の午後、ほぼ満席の映画館では、そこかしこで観客の泣き声が聞こえた。
見に行きたいのなら、さっさと行ってしまおう。
夏休み(?)後半だと新たな作品も増えるため、今週あたりが狙い目だと思う。

▼以下はネタバレあり▼

先にも書いたように、かなり期待して見に行ったが……、結果的には玉砕の形となってしまった。
僕はこれから、この映画がいかに面白くないか、いかに完成度が低いかについてつらつら書き連ねるつもりである。
もし、この映画が良かった、感動した、というのなら、これ以下の文章は読まないことをオススメする。
見終わった感動を台無しにしてしまうかもしれないから。
それはあなたの感性がおかしいのではなく、僕とは相容れないところがあるだけなので、「おいおい、menfithには人間の血が流れていないんじゃないか?!」という種類の反論は一切受け付けないのでごめんなさい。
先に謝っておきます。
面白くなくてごめんなさい。

……さて、この映画、何しろ〈人間〉が描けていない。
だから、花、雪、雨、だれに感情移入していいのかわからない。
もちろん、「トトロ」でいうところのかんた君ポジションの草平君にも感情移入する余地はない。
だから、感動どころか物語の筋を心待ちにしながら追うことさえできない。

ひどいのは花というキャラクターである。
花はおおかみである彼に恋をして、二人の子どもを残して彼が死んでしまったため、一人で育てることになる。
ここまでの流れが非常に丁寧に、そして冗長に、ムダに、説明してくれる。
都会から田舎に引っ越してくるまでのくだり、これは描写ではなく、説明である。

花はおおかみおとこである彼に恋をして子どもを産み、田舎に引っ越すまで、一切迷いなく突き進む。
大して彼女の内面や心情のゆれが説明されないのに、彼に恋に落ちる。
それはまだしも、彼への思いは一途で、約束を破られて待ち合わせに現れない彼に対して、彼女は閉店まで待ち続ける。
いまどき、そんな女の子がいるだろうか。
それは極度に純化、美化されてしまった「物語の中だけの少女」である。
現代を舞台にしながら、そんな無茶な女の子設定をするなら、もっと彼女の性格をあらわすところを前に入れておかなければ、単純に気持ち悪い。

彼女が気持ち悪いのはそれだけではない。
「おれはおおかみおとこなんだ」と告白した彼に対して、花は「大丈夫、あなたなら」と受け入れる。
おおかみに変身(?)した状態で二人はセックスする。
これを日本では獣姦(この単語、初めて打った)というのである。
数多く生み出されているAVのジャンルでも、かなり「マニアック」の部類に入るだろう。
僕は、見たことないです。残念ながら。いやほんと。

わざわざおおかみの姿でセックスする必要がどこにあったのか、全く理解できない。
性質上そういうものなのかもしれないが、それをすんなり受け容れる花に感情移入しようがない。
そこはぼかしてどっちでしたのかわからないようにすればよかったのに、なぜそれを「説明」しようとしたのだろうか。
理解に苦しむ。
何度も書くけれど、ごめんなさい、本当に気持ち悪いのです。

なぜか彼が死に、そこからの花も、全く迷いがない。
「本当に子育てのつらさを知っているのか」といいたくなるくらい模範的な母親像である。
僕には、花の姿は男が一方的に「母親はこうであってほしい」という偏見にも似た理想が投影されているようにしか思えなかった。
機械のように、一直線に子育てをするのだ。
もちろん、彼を裏切るような「浮気」をすることもない。
彼女に迷いがなさ過ぎて、人間味がない。

そもそも、先にも触れたが、田舎に来るまでのくだりがだらだらとして長すぎる。
これなら、田舎に引っ越してきたときから描いても十分理解できたし、その重みも伝わった。
だらだらと説明されるから、物語に起伏がなく、余計に「わざとらしい母親像」が目立ってしまう。

もちろん、この後の展開も同じだ。
結局花は全く揺れ動くことがない。
どっしりと、理想的な母親を演じきってしまう。
象徴的なのは、大雨で学校が休校になり、雪を迎えにいかなければならなくなったシークエンス。
彼女は、弟の雨がいないことに気づき、山に走り出してしまう。
どこまでも追い続ける彼女は、言うまでもなく雨がどこかに去ってしまうのではないかという恐れから衝動的に山に入る。
けれども、姉の雪はどうなるのだろう。
咆哮する雨に向かって涙を流し叫ぶけれども、僕はそれを見ながら「おいおい、雪ちゃんもオトナになってしまうよ、その間に」とはらはらしていた。
丁寧に説明ばかりしているわりには、キャラクターの造形があますぎる。

物語の構造も、いまいちよくわからない。
独白という形で、雪が母親花についての物語を語る。
けれども、彼女がなぜ中学校入学後の「今」の時点でそれを語ったのだろう。
語るという形式をとるならば、語る「今」をきちんと描かなければ語りが「宙吊り」になってしまう。
語るということはそれだけの意味を持つからだ。
僕たちが自分の過去を語るときでさえ、何のきっかけもなしに語らないだろう。
その意味でも、彼女が語り始めること自体が、不自然極まりない営みなのだ。

それであれば、草平におおかみの姿をみせる雪の時点で語れば、もっと劇的だったはずだ。
それにしてもキャラクター造形が甘すぎるのは変わらないが。

甘すぎるのはそれだけではあるまい。
小学生なのにアオダイショウをみた女の子たちがまるで都会っ子のようにあわてたり、体育館にランドセルが残されているのに教師たちは全員帰ったと思い込んだり、女性一人で廃屋を立て直したり。
不自然な点が多すぎる。
そこにはその世界で生きている人間が動き出したというよりは、「ここで生きる人たちにはこうあってほしいな」という作り手からの要求しかない。
だからその世界(映画の中の世界)に人間がいない。
背景がやたらとリアルなのに、登場人物たちがやたらとのっぺりしているところが、この映画を象徴しているような気がする。
ムダにリアリティあるところと、明らかに不自然なところのミスマッチという点が。

監督の細田はこの映画の制作にあたって、新たにスタジオ地図を立ち上げたそうだ。
世間はどういうのかわからないが、このレベルの作品を作り続けていては、世界に打って出るどころか、日本でもすぐ飽きられるだろう。

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24 コメント

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相互リンクご掲載のお願い (ベストマニア運営事務局)
2012-08-13 15:22:17
はじめまして。突然のご連絡失礼致します。株式会社エモーチオ『bestmania-ベストマニア』運営事務局です。
私どもは、株式会社リクルートの子会社としてユーザー120万名が利用する
☆みんなのオススメBest3でつくる新感覚ランキングサイト「bestmania(ベストマニア)」を始めとし、
【国内最大級】の投稿規模になる、実に約60万件ものおすすめ情報やレビュー投稿のあるサイト運営をしておりまして、bestmania自体は新たな検索軸として大々的にニュース等にも取り上げられております。
http://news.nicovideo.jp/watch/nw124424

この度は、「secret boots」運営者様のブログを拝見させて頂きまして、
我々のウェブサイトとの相互リンクをして頂けないかというお願いでご連絡を差し上げました。
『bestmania-ベストマニア』におきましては、「厳選!音楽関連ブログ」の1つとして「secret boots」さんのブログをユーザーに役立つブログとして事務局にて厳選させていただき、既に紹介させて頂いております。
(参考URL)  http://www.bestmania.com/link/list/?id=music_blog

※紹介文に関しましては、基本的には御サイトの情報を引用させていただいておりますが、加筆・変更等、ご意見・ご要望がございましたらなんなりとお申し付けください。

尽きまして、もしよろしければ我々もブログで紹介いただくか、相互リンクという形でリンク集やブックマークの1つに加えていただくことは可能でしょうか?
以上、ご多用中誠に恐縮ですが、下記情報をご参考に頂きまして、リンク情報掲載のご検討をくださいますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。


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【弊社サイト参考情報】
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メールで返信させていただきます。 (menfith)
2012-08-17 22:01:46
管理人のmenfithです。
返信が遅くなり申し訳ありません。

上記の相互リンクについてはメールで返信させていただきます。

また、その他の方で、相互リンクをお考えの方は、すべてメールにて対応させていただきます。
管理人の判断により、場合によっては書き込みを削除させていただく場合がありますので、ご了承ください。
返信する
同感 (ゆら)
2013-12-20 23:33:43
今テレビでみました
期待して見ていましたが、何故か気持ち悪い印象がずっとありました
でもなぜそう感じるのか、自分でもわからなく他にも同じ感想をお持ちの方がいるか検索してたどり着きました
全く同感!その一言です
その上音楽だけが美しく壮大すぎて、一層気持ち悪かったです。。。
返信する
返信遅れました。 (menfith)
2013-12-23 20:47:55
管理人のmenfithです。
一月ほど、ほとんど休みがなかったのですが、ようやく今日一日完全休養となりました。ちょっと体は楽なったかな、と。
映画は観られていませんが、明日は何か見てこようと考えています。

それにしても寒い時代だとは思いませんか。
いや、気温がね。

>ゆらさん
そうですよね。おもしろくないんですよね、これが。
なぜか世間では絶賛されていて、ちょっと驚きです。
私は終始映画館で居心地が悪かったのを覚えています。
返信する
ありがとうございます (まるい)
2015-07-26 00:23:34
『人間が書けていない』
まったく同意です。

かろうじて、花に農業を教えるお爺さんくらいですかね。ここまでの人生を覗かせてるキャラクターは。

なぜ評価が高いのか理解に苦しむ作品です。
母性に夢を見ている男が多いということでしょうか…
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あづい。あづすぎる。 (menfith)
2015-07-29 14:32:36
管理人のmenfithです。
熱中症になっていないことが不思議なくらい、あついです。

>まるいさん
コメントありがとうございます。
返信遅くなりました。

ひどいですよね。

「母性に夢を見ている男が多いということでしょうか…」
そうなのかもしれません。
すごく昔の考え方に基づいて描かれているので、そういう考え方が好きな人は多いのでしょう。

でもけっこう視聴率とったりしているんでしょうね。
う~ん……。
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エセ映画評論家 (宮崎あおい)
2016-02-29 12:01:40
あなたがどんな評価を出そうとかまいません。
ただ、あなたの意見は少数派なのは世間の評価は来場者数や視聴率、レビューを見れば明らかです。

どれだけねじ曲がったエセ評論家視点で見れるかが、少数派に入る条件なのではないでしょうか。
返信する
コメントありがとうございます。 (menfith)
2016-03-12 09:22:46
お久しぶりです。
更新が滞っていて申し訳ありません。
親子三人で体調不良に陥っていました。

いまは復活しつつありますが、更新はしばらくお待ちください。


>宮崎あおいさん
コメントありがとうございます。
返信が遅くなり申し訳ありません。

議論をする余地があまりないので、なんともコメントを返しにくいのですが、少数派であることは自認しておりますので、ありがたいことです。

来場者数、視聴率で映画の評価が決まるとは私は思っていません。

このような少数派のエセ評論家の、ちいさなちいさなブログまで足を運んで頂いて、誠にありがとうございます。
返信する
Unknown (匿名)
2016-06-02 21:49:58
キショいキショすぎる
花は阿呆過ぎて低脳
あの脳ミソで大学行けたことに驚き
あと何故SEXシーンうつすん?
幼稚、話にまとまりが無いし、面白味が無い、何かを伝えられた訳でもない
そう考えると宮崎駿は天才だったんだね ラピュタ、ポニョ、どれも名作、音楽も良い
駿のは壮大でワクワクして、何か学ぶ物もある
細田の作品はイライラムカムカする女が多い、何がしてぇんだよ
簡潔にまとめれば…アンパンマンの方が100倍面白いと思う
返信する
Unknown (大和)
2016-06-03 19:57:27
細田は気持ち悪いシーンを出すのが好きなんだよね…
時を駆ける少女は冒頭で『お前今日オナッてきた?』とか、獣カンとか、ろくでもない平坦な女主人公が詰まんない物語を繰り広げる…
表面だけで本質的な人間味が無いんだよね、外は綺麗で中はスッカスカ
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