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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

恋愛小説家(V)

2008-12-07 22:20:15 | 映画(ら)
評価点:89点/1997年/アメリカ

監督・脚本・他:ジェームズ・L・ブルックス

「最高」の一言。

ユドール(ジャック・ニコルソン)は売れっ子恋愛小説家。
しかし偏屈な性格で毒舌家、しかも極度の神経質で潔癖症をもつ男。
他人と接することを嫌い、レストランではいつもの給仕に、家から持ってきた清潔なフォークで食べる。
そんなある日、隣にすむゲイの画家が、強盗に入られて入院してしまう。
彼の愛犬を預かることになってしまったユードルは、次第にその愛犬に情がうつってしまう。
また同じ時期、レストランの給仕・キャロル(ヘレン・ハント)が息子の喘息のため、ウエイトレスを辞めてしまう。
ウエイトレスが違うことに我慢ならないユドールは、ある事を、出版社に頼み込むのだが。。。

二人の主演俳優がアカデミー賞をとった作品(1997年度)。
この年のアカデミーは、「タイタニック」が独占していたことから考えても、この二人のオスカーは非常に価値のある受賞だと言える。
実際、この映画は非常に良く出来ている。
僕の一番好きな恋愛モノの一つである。
これを見ると、「猟奇的な彼女」などメではない。

▼以下はネタバレあり▼

この映画を支えているのは、間違いなくそれぞれの人間性である。
ただ単に恋愛に億劫な者が恋愛をする、というだけでなく、それぞれの向かい合うべき「壁」に向かっていく姿が描かれているからこそ、この映画は観るものを幸せにするのである。

ユドールは、恋愛小説家で女心を書きまくっているのに、自身では震えるような恋愛をしたことがない。
それどころか、人との接し方を知らないため、相手に毒舌を浴びせてしまう。
極度の潔癖症で、歩道の「継ぎ目」を踏むことも我慢ならない。
隣人の愛犬をダスト・シューターに投げ込む有様である。

恋に落ちることになる彼の給仕役、キャロルは、息子が重度の喘息であるので息子に付きっ切り。
満足に恋も出来ない。

隣人のサイモンは、ゲイの画家。
彼は人生の絶頂期だったが、モデルにした男が強盗を手引き、犯行がばれた強盗は彼を暴行し、彼は入院してしまう。
期待していた展覧会も失敗、彼は破産を余儀なくされる。
創作意欲も低下、彼は自殺のことを考えるようにさえなる。
しかも、隣人に預けた愛犬も、ユドールに取られてしまう。

彼らは、とても人間味溢れる光と影をもっている。
それが丁寧に描かれているため、感情移入しやすくなっている。
例えば、母親に向かって寂しさの告白をするキャロルは、差し迫った彼女の胸中を非常に上手く描いているといえる。
もし、彼女があそこで告白しなければ、恐らく彼女の人間性は薄っぺらくなっていただろう。

ユドールの心の壁を開いたきっかけは、他人の「怒り」だった。
サイモンの愛犬にいたずらをした時、サイモンの「愛人」に強く脅される。
ユドールは、単なる悪戯のつもりの行動が、相手を深く傷つける事を知るのである。
おそらく、それまでユドールは他人を本気で怒らせたことがなかった。
怒らせる前に、相手が黙ってしまうか、あるいは相手と正面で向き合うことさえなかったのだろう。
彼は、たかが犬が人の怒りを呼び起こす大切なものであることを知るのである。

その出来事から、彼は少しずつ変わり始める。
しかし、すぐに人と接するようになるわけではない。
絶望に打ちひしがれたサイモンをなだめよう思っても、ついて出る言葉は「温かい皮肉」になってしまう。
息子が重病のキャロルに対するやさしさも、直接的な方向で表わせない。
まずその息子を一般的にはありえない方法で、間接的に救おうとする。
彼は、本人に直接優しい言葉を投げかけることができずに、医者を雇って重病を治してやろうというやさしさを持っている。
この行動も、彼の性格を表わしている。

人の愛し方、人との接し方が分からない。
その一言につきる。
その人間性が、ユーモアあふれるジャック・ニコルソンの演技によって、非常に面白く、そしてもどかしく描かれている。
観ている観客が、イライラするほど素直になれない。
その過程が、急激にではなく徐々に起こっていくため、ラストのパンを買いに行くシーンは非常に感動的になるのである。

この映画では印象的なシーンが多い。
その中でも、この映画の影の主役といってもいいのが、サイモンの愛犬だろう。
非常に芸達者なこの犬は、神経質にもタイルの継目を歩かないという難役をやってのけた。
その動きが、とてもいびつで、かわいらしい。
ユドールの内面のかわいらしさを、象徴しているようにも思えるこの犬は、「メリーに首ったけ」に登場する全身ギプス犬と同じくらい強烈な印象を残してくれる。

世界は妙にユーモアと笑いと、温かさで溢れているんだということを、教えてくれる映画である。

(2004/9/8執筆)

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