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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

チェ 28歳の革命

2009-02-03 18:48:05 | 映画(た)
評価点:75点/2008年/スペイン・フランス・アメリカ

監督:スティーブン・ソダーバーグ

音楽がすばらしいね。

1964年ハバナで行われたインタビューに答えるゲバラ(ベニチオ・デル・トロ)は、自己の正当性と革命への熱意を語っていた。
彼が28歳の1956年、キューバをアメリカの搾取から救うため、反政府軍を組織し、メキシコからキューバに渡った。
かつて医師だった彼は、リーダーにのし上がっていく。
各地の、圧政に耐える人々を兵士として組織に取り入れ、その革命は拡大していく。

こういう映画を観ると、僕は本当に世間知らずだと思い知らされる。
僕はゲバラについてはほとんど知識を持ち合わせていない。
どこかで聞いたことがある程度だ。
カストロ大佐についても、キューバについてもほとんど知らないと言っていい。
「JFK」や他の映画にちらちら名前を聞く程度だった。

その意味で、僕は、この映画を語る資格はないのかもしれない。
チェと呼ばれた人間そのものについて知りたいなら、他のサイトの方がきっと詳しいだろう。

そんな僕でも彼の生い立ちは、何となくわかった。ような気がする。
ゲバラがどんな人か、
キューバがどんな国かはさておいて、なぜこの映画がこのタイミングで撮られたのか、それを考えて観るのが良いのではないかと思っている。
多くの人が、社会的な、歴史的な、教養が必要な映画として敬遠せずに観て欲しいと思う。


▼以下はネタバレあり▼

これを観に行く前に、やはりカットをしてくれる店のオーナーやスタッフに、「チェの魅力のほんの数パーセントしか伝えていないと思う」と言われた。
だから勉強した方がわかりやすいかもしれないね、とも。
それはきっと正しいのだろう。
この映画では、エル・チェのことを極端に美化しているという印象を、僕は受けた。
本当の彼の姿を知らないために、それが美化なのか、客観なのか、それさえも判断できない。
ただ、少なくとも、正当であるかのように印象づけられたことは確かだ。

この「28歳の革命」において、チェは徹底的なモラリストとして描かれている。
それを象徴しているのは、ラストのシーンだ。
主要都市を落として、残るはハバナを目指すのみ、となったラストで、舞い上がった味方の反乱軍の兵士が、敵兵の車を盗んでハバナを目指そうとしていたのを、ゲバラは叱責する。
「敵兵のものでも、お前のものではない。
返して味方のジープか歩いてハバナまで来い。
兵士としての誇りがあるなら、俺は歩いて来るがな。」
と激しく言い放つ。
ここには明確な哲学があることを伺わせる。

つまり、この戦いは、侵略でもなければ、強奪でもない。
ただ、悪政による独裁支配に我慢ならなくなった人間たちが、国民のための政治を取り戻すのだ、ということだ。
だから彼の兵隊への教育は、並々ならぬものがある。
ただ、敵を殺すのではなく、意志を持って、相手をくじくための戦いであることを理解している、そして死ぬ覚悟を固めていることを何度も確認する。
中盤に出た脱走兵への処分も、軽くないのはその決意の表れだ。

僕はこの映画を観ながら、沖縄における米兵の犯罪や、ベトナム戦争で繰り返した米兵の倫理なき愚行の数々を思い出した。
僕は兵隊たちに対して卑下するつもりはない。
むしろ、自衛隊を含めた兵士たちには、尊敬の念さえ抱いている。
僕は対比したいのは、兵士たちが置かれた状況、もっとはっきり言えば、その教育だ。
米兵の覚悟と、キューバで革命を起こしたチェの軍隊では、雲泥の差があるほど、覚悟に違いがある。
その違いが、愚行を繰り返すアメリカと、たとえそれが起こっても厳罰を課す反政府軍との違いだな、と思った。

おそらくそれは、そのように描いているからだ。
スティーブン・ソダーバーグ監督の意図しているところが、そこにあるからだろう。
僕が美化しているといったのは、そういうこところだ。
ただ上から指示を出しているだけの政府軍(=現アメリカ軍)ではダメだのだ、ということをメッセージとして明確に打ち出している。
その点だけは、僕は理解できた。

問題は、なぜこの映画が、このタイミングで公開されたのか、あるいは撮られたのか、ということだ。
僕たちはこの映画に賛否両論を持つ、あるいは議論を持つ権利を有する。
チェのこの姿が、資本主義を愚弄する映画だと断じることも、また逆にこれこそが真の国家のあり方なのだと賞賛することもできる。
だが、僕はこの映画の、チェが演説で言った「資本主義は多くの国家から搾取しているのだ」という言葉は、軽くないと思ってしまう。

米国バブルが崩壊し、これまでのマネーゲームの痛手を誰もが受けている。
今までは白人しかホワイトハウスに入れなかったのが、今ではオバマという黒人系の大統領が誕生した。。
イラク戦争では、多くの犠牲者を出しながらも未だに収拾のめどは立っていない。
「チェンジ」というオバマの台詞について、これも賛否両論があるにしても、少なくとも僕たち現代人に共通している認識は、今立っている土台が地震が起こったようにぐらぐら揺らいでいるという事実だ。

本当に、今までの流れ出よかったのか。
本当に資本主義、アメリカ的経済主義が正しかったのか。
勝つこと、すなわちもうけることが正義なのか。
自由なのか。

足下を疑う、というのは文学や学問の基本スタンスだが、それを促すような映画であるからこそ、僕らはこの映画が重く思えるのだ。
この映画が正しいかどうか、それは誰もまだ知らない。

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