【Live Information】
台風の影響で雨模様だった9月19日。
夕方になって向かったのは、岡山市にあるルネスホールでした。
鈴木良雄スペシャル・トリオの演奏を聴くためです。
鈴木良雄さんは、長い間日本ジャズ界を牽引してきたミュージシャンのひとりで、「チンさん」の愛称で親しまれています。
渡辺貞夫や菊池雅章らのグループを経て渡米、スタン・ゲッツ(sax)やアート・ブレイキー(drums)のバンドのレギュラー・ベーシストとして活躍したのちに帰国、トップ・ベーシストとして日本のジャズ界に君臨してきました。
その鈴木さんの、早稲田モダン・ジャズ研究会の後輩が、増尾好秋さんです。
増尾さんも渡辺貞夫グループを経て渡米、ジャズ・レジェンドであるソニー・ロリンズ(sax)・グループの一員として活躍したほか、エルビン・ジョーンズのアルバムに参加したり、リー・コニッツ(sax)やロン・カーター(bass)などと共演するなど、輝かしい経歴を誇ります。
井上信平さんは、高校卒業後に渡米、バークリー音楽院などで学んだのちニューヨークを拠点にアメリカ各地で活動を続けてきた実力派で、2001年には巨匠ハービー・マン(flute)との共演アルバムを発表しています。
三人の活躍ぶりはもちろん知っていますが、実際に音を聴くのは初めて。
何度ライブに足を運んでも、「どんな音なんだろう」と想像するとワクワクしてしまうのは止められないですね。
会場のルネスホールは、大正時代に造られたギリシア風の建物で、1987年までは日本銀行岡山支店として使われていました。
雰囲気のある外観で、中もゆったりとしています。
キャパシティは最大298ですが、ホールは天井が高いせいか広々していて圧迫感もなく、居心地が良いです。
開演予定の19時を少しまわったところで、三人が登場。
演奏曲目は、「I Thought About You」などのスタンダードと、鈴木さんのオリジナル、増尾さんのオリジナルです。
とてもオーソドックスな演奏でした。
難易度の高い凝ったアレンジも多く聴かれる昨今ですが、鈴木トリオの演奏は、とりたてて高度な技術を見せつけるわけではないので、一見地味に思える部分はありますが、オーソドックスなだけにむしろ明快です。
「Summertime」では鈴木さんがアルコでテーマを弾きましたが、その音色の美しさと衒いのない演奏は非常に強く印象に残っています。
また、亡き旧友の思い出を語ったあとで演奏された鈴木さんのオリジナル「My Dear Friend」の美しかったことも忘れられません。
増尾さんのオリジナルを聞いていると、情景が自然に頭の中に湧き出てきます。ストレートで親しみやすい曲ばかりだったような気がします。
三人の演奏は、決して派手ではありませんでしたが、鈴木さんの演奏はベースの在り方をきちんと示してくださっていたし、増尾さんのギターは「これぞジャズ」だったし、井上さんのフルートのふくよかな音色は明るく楽しいものでした。
三人の職人芸というか、いぶし銀の演奏をたっぷり味わうことができました。
それにしても、やはり存在感がありますね。
鈴木さんは、MCの時は優しい笑顔で語り口も紳士的ですが、いざ演奏となると顔つきがまるで厳格な将校のように、威厳があふれたものになります。
増尾さんは終始柔和な微笑を浮かべています。増尾さんの作る曲のような、爽やかで温かい笑顔です。演奏ぶりもそんな感じでした。
井上さんは、一番やんちゃでいたずらっぽい感じ。俳優の寺島進さんのような苦み走った渋い顔立ちですが、演奏中はとても楽しそうです。
大人の「余裕」と、子供の「(音楽が)好き」が合わさったステージでした。
客席からの拍手も大きく、最後は熱いアンコールもかかっていました。
帰路へ着きながら、やはり先輩方が培ってきた技術や経験には敬意を払うべきだし、聴くという作業でサウンドを体感したり、イメージを体に取り込めるわけですから、貴重な勉強の機会にもなるということを改めて強く思いました。
芸能の世界ですから、その時々の流行があるのは仕方ないことなのでしょうけれど、驚異的なテクニックが前面にくるライブばかりではなく、こういう味のあるステージこそ、もっと若いプレーヤーたちは聴くべきだと思います。
といっても、かつての自分も派手なプレイにばかり気を取られていて、音楽ってそういうものじゃない、というのが分かってきたのはだいぶ後になってからでしたけどね(^^;)
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