もののふのやそ乙女らが汲みまがふ 寺井の上のかたかご花 大伴家持
「おおぜいの少女たちが入り乱れて水を汲む、寺の井戸の側のカタクリの花よ」
少女たちの賑やかな笑い声が響いてくるような、明るい歌です。今も昔も、若
い娘さんたちが、賑やかに笑いさざめいているのって、見ていて嬉しいもので
す。家持はこういう絵画的な情景を切り取るのがうまいですね。早春に咲くか
たかご(カタクリ)の花って、残念ながら、この頃はどこででも見られるという
ものではありません。これは箱根の湿生花園で見たカタクリの花です。恥じら
うように咲く紫がかった薄いピンクの可憐な花です。
春の苑くれないにほふ桃の花 下照る道にいでたつ乙女 大伴家持
これもまぶしばかりに輝く、桃の花と少女の歌です。うららかな春の喜びの情
景が伝わってきます。家持さん、萬葉集の先の時代の歌人に比べると、軟弱
だの、技巧的過ぎるだのと言われますが。私はファンです。